新たなる任務
アルトレーデ帝国、それはこの世界において四大国家と称される国の一つである。四大国家はそれぞれ別の技術に特化し成長しており度々衝突を繰り返していた。
四大国家の一つ、エルド王国は魔獣を使役し操る召喚術を。
四大国家の一つ、トラクト共和国は機械を作り上げ、それを纏う機動鎧を。
四大国家の一つ、イーケベルタ教国は人体の強化を。
そして俺が属している帝国は剣と魔法を研究し研鑽し、己が武器としていた。
実力重視の帝国に置いて『騎士』という立場は誇るべきものだ。ただの軍人ではなく個人の力で小隊、中隊に匹敵するとされる武力の持ち主が貴族を主として始めて名乗ることが出来る。
さらに『騎士』のトップ、『円卓十二騎士』に認定された騎士は皇帝陛下直属の部下にして最上位の命令権を得ることになり、己の部隊を好きに編成できる。もっとも戦闘力と言う点で他の騎士たちよりはるかに上でなければならないため『十二騎士』と言われてるものの認定される人間は十二人に満たない時期も多いらしいが。
また、他国という脅威の為に『騎士』を必要とするが故に帝国においては『騎士』とそれを操る将来の主を育てる学園がある。
『騎士』となれる者はその学園を卒業することがほとんどであり、例外なんてものはそうそういない。
「騎士になったらモテるって話だったじゃないですかどういうことですかいつになったら俺に彼女が出来るんですか教えてくださいよ序列一位さん」
「レオン、それはお前がその変な仮面を脱がないからだと思うんだが?」
「そんな正論聞きたくないです」
ちなみに例外その1が俺こと【レオン・アルカナハート】である。辺境の村で慎ましく暮らしていたところ教国の軍勢が襲いかかってきたそれを色々あって撃退したところ今目の前にいる『円卓十二騎士』最強の序列1位にスカウトされ、その後様々な任務をこなしてたらいつの間にか同じく円卓の序列4位になってました。
村人から忌み嫌われて女の子にモテないからってあの時「騎士になれば、モテるぞ?」とかいう言葉に乗せられたのが敗因だ。実際今も俺はモテない。
被ってる仮面がイケてないからだろうか?だけどこれ外すとなぁ、黒髪だからって理由で嫌われてたしなぁ。
黒髪なのを知っても嫌わない奴なんて同じ円卓しか知らない。しかも俺の素顔知ってる人間なんて序列1位の【セルケード・マクス】のおっさんと序列2位と序列8位、皇帝陛下しか知らないので参考にならない。
「んで今日は何の用ですかー?先日辺境で被害だしまくってた嵐龍狩ってきたばかりなんですけど。滅茶苦茶疲れてるんですけど。おっさんの愚痴は聞きたくないっすよー」
「皇帝陛下がお呼びなのだ、疲労しているのは分かるが来てもらわんとこまる。あと愚痴は機会を見て聞いてもらう、主にお前がおこした面倒についての愚痴をな」
後半の言葉は無視して……、皇帝陛下の命令なら仕方ない。俺を嫌わずにきちんと命令しお礼まで下さる方だ、命を懸ける程度は構わない程度の忠誠心はあると思う。
帝都の中央に存在する王城、陛下の待つ執務室は今歩いている廊下からそれなりに遠くこのまま歩き続けても5分以上かかるので間を潰すためにもセルケードのおっさんにこれから行う任務について聞いておくとしよう。
「それでおっさん、今回の任務は俺じゃないといけないのかねー?帝都の守護の為にアンタはここにいないといけないのは分かるけど研究ばっかの2位、【アシュトン】とかいるじゃないですか。たまには仕事させておいた方がいいんじゃないっすかね?」
「私もそう具申したが陛下はお前でなければならないとおっしゃった。円卓を確認してきたところ陛下の命令に適任なのは4位・5位・8位・11位くらいらしい。さらに一番適任なのはお前だと陛下が名指しした」
「その面子、ってことになると年齢っすか」
「だろうな、私もそう考える」
5位・8位・11位は俺と同年代、俺を含めたその四人が適任となると年齢しか思い浮かばない。他の連中は大抵年上のおっさん、おbゲフン!お姉さんしかいないからだ。
……序列4位はこの国で四番目に強いとされる立場だが年齢関係に触れた時だけは下位序列の女性陣に殺されかける。特に6位は恐ろしい、あの血走った爛々と輝く目を思い出すだけで体の震えが止まらなくなる。一緒の任務で年齢をからかった敵兵がどうなったかは思い出したくもない。柄になく介錯してやりたい気持ちになった。
やめよう、思い出そうとするだけで頭が痛くなってきそうだ……。
「しっかし年齢が基準ってことになると一体どんな任務なんだか、潜入捜査だったらもう少し待って【ライラ】に任せた方がいいと思いますけど。俺に出来る事は他の円卓も出来ると思うんだけど」
「そう腐るな、お前の魔法は唯一無二。更の言えば剣の腕でもトップクラスだろう」
「トップクラスなのは円卓としては最低基準でしょうが。実際俺は魔法を使っても魔法使ってない状態のおっさんには勝ててないんだ。それを誇る気にはなれないよ」
「年季が違うのだから当たり前だろう」
その言い訳は戦場では通用しないので慰めにはならない。おっさん自身もそれを理解しているからこそその後に「精進して私を超えろ」と発破をかけてくる。期待をかけてくれている人がいる、その事実は少しくすぐったいが決して嫌なことではない。その期待に応えたいとも思う。
無論一番大切な理由はおっさん越えすれば流石に素敵な彼女の一人でも出来るだろうという淡い期待からだが。国一番の騎士になれば「キャーステキー!!!」と言ってくれる美少女もいるだろう。いると言ってくれお願いだから。
「いつも通り不純なことを考えているだろうがもうやめろ。玉座についたし仮面も外しておけ」
被っている仮面を外すのはいつものことながら少々以上に抵抗があるが皇帝陛下の命令を受ける時はほぼ毎回外す。素顔を知らない連中がいるならば陛下も許してくれるが今玉座にいるのは陛下とおっさんの二人だけ、被ったままでいい理由がないので俺も素直に外す。
仮面を外すと同時に涼やかな風が顔を撫でて春の到来が近いことを知らせる。同時に伸ばしたままの黒髪が目の前に来て大いに視界の邪魔をするので後で適当に切ることを決意させた。と言ってもいつも切ってくれるライラは今任務で帝都にいないので当分はこのままだろうが。
「皇帝陛下、失礼いたします。円卓十二騎士序列1位セルケード、参りました」
「同じく円卓十二騎士序列4位レオン・アルカナハート」
「入るがいい、我が騎士たちよ」
ようやく到着した執務室、その中にいる陛下に声をかける。
重圧ささえ感じさせる陛下の声がかえってくる、その言葉に反応しおっさんが王の執務室のドアを開く。
中にいたのは金糸のような髪を長く伸ばし、50を超えるとは思えない程の若々しさを保ったままの我が王がいる。ただ座っているだけでその存在を示す在り方は一国の王として非常に頼もしいと言えるだろう。 あと物凄い美形で若い頃はモテたんだろうなと簡単に分かる、そこも俺の尊敬する点だ。事実王には四人の妃が存在しそのどれもが美しい事で有名だ。
またこういった帝政の国にありがちな継承争いとは無縁でもある。なんでも皇子たちは全員が全員皇位に就くことを否定して長男たる第一皇子に放り投げることを決めているとか噂されている。そのため家族仲も非常にいいことで有名でもある。この前なんか第二皇子と第三皇子が肩組んで第一皇子から逃げてるところを目の辺りにしたし。一緒にいた序列8位のライラも目を丸くして見ていたか。
まさに王の中の王、家庭不和すら存在しないとか完璧すぎないだろうか。
「陛下、自分に何か御用でしょうか。このレオン、陛下の命ならば命すら惜しくありません」
「その忠誠、大いに結構。その忠誠心を見込んで我が騎士に命じよう」
「はっ!」
膝をつきどんな命令が下されるのかを考える。円卓を呼び出すということは重要度の高い命令であることは想像しがたくない。それだけ円卓という立場は重い。
もしや他国が今の冷戦状態から一気に宣戦布告までしてきたのだろうか。故に今のうちに敵国と隣接している地域に出向き戦の準備をしろと言う命令かもしれない。
俺が円卓になってから大きな戦争は起こっていない。教国の最大戦力が暴走同然で国境近くで暴れたので討伐、それが無理なら撃退しろと言われたのが俺に下された最大の命令だ。結果的に教国の軍隊八百人とその最大戦力の一つを撃退するのが精一杯だったが。あの時は死にかけた。
王国とかならともかく教国は本当に何考えてるのか分からないから面倒極まる。たまにテロ同然で侵入してきて暴れる奴もいるから本当に面倒だ
「娘が、そろそろ16になる」
「えっ?あっ、いえ、それはめでたい事ですね」
娘、娘ってことは皇女様だよな。……なんだろう、物凄い嫌な予感がする。
具体的に言うと親バカの気配を感じる。
この方は非常に家族に対する情が強いことでも有名だ。そして帝国に住む民全員を家族と思っている、それゆえの名君だろうと考える人間も多い。
だが、その情の強さは血のつながる者に対しては物凄いとも噂されている。まぁ陛下といえど人間なのだからそれくらいは愛嬌で済ませれるものだろう。……こちらに被害がない限り。
「娘がな、『アルカディア学院』に入りたいと言い出した」
「は、はぁ……」
「だからレオン、卿にはその護衛として娘と一緒に入学してほしい」
『アルカディア学院』というのはこの国の騎士を育成するための学校である。俺のようなスカウトされた人間でもない限り騎士とはその学校出身者である。同僚たち、他の円卓の人間も二人を除いて全員その学校を卒業したということだ。
だがまぁ話は分かった、要は皇女殿下の護衛をしろと言うことだ。想像していたよりは随分マシだったな。
「ちなみに娘は正体を隠して男爵家の三女という立場で入学する。ので卿にも正体を隠して入学してもらいたい。学園長には話を通しておくがそれ以外の教員にはばれないように」
「あ、あの。陛下、一つよろしいでしょうか?」
「何かね?」
「その正体っていうのは、皇女殿下にもばれては……」
「当然だ、ばれたら「お父様なんて大嫌い!」と言われかねない。そんなこと言われたら私はショック死してしまうだろうな」
訂正する、想像よりひどい。
ばれないようにと言うことは円卓としての権力はもちろん使えない、魔法だって使用制限がかかる。剣術なんて本気を出そうものなら速攻ばれるので論外。つまり大幅に実力制限されるという事。
だからか、だから俺なのか。いつも仮面で顔隠してるから他の円卓と違って俺の顔は皇族にすらばれてない。つまり今回皇女殿下の護衛についても俺が円卓だと気づく奴はいない。
だが、だがだぞ、陛下の命令を守るには一つ困難なことがある。
「あ、あの陛下。自分はあまり知らないのですがあの学院では確か『主』となる者は自身の『騎士』を自分で選ぶはずでは?しかし自分が選ばれるかどうかは皇女殿下次第で……」
「大丈夫だ」
「え」
「我が騎士なら何とかなる。だから何とかしろ」
どうしよう、恩人であり忠誠を誓ったお方だが今すぐ一発ぶん殴りたい。前に序列2位のアシュトンが「親バカ状態の陛下は一発殴りたくなるくらいうざかったよハハッ、いやマジで」とか乾いた笑いを繰り出しながら言ってたのを思い出した。でも同時に「殴ったとしても多分何も変わらないだろうけどね、もう絶対にあの状態の陛下は相手にしたくない」とか言ってた。
つまり俺に許される行為は……
「陛下、殿下の護衛でしたら同年代であり同世代でもあるライラに任せたらどうでしょうか。髪の色と髪型変えれば何とかなりますって。男よりもそっちの方が安心できるでしょう?」
「アナスタシアは「騎士といえば男ですよね!」って笑ってたから卿に頼もうと思ったのだよ」
女性騎士なんて今どき珍しくないだろ世間知らずの皇女様がぁあああああああああああ!!!!!
やばい、いきたくない。学院で座学とか死ぬほど面倒そうだ。しかもこの任務って下手したら卒業までの3年間ずっと続くってことだろ!!
そんだけの期間俺は自分の部隊放置することになるのか!?
「へ、陛下。しかし殿下が入学するとなるならやはり身分を明らかにし、その上で護衛メンバーを選出するべきかと。自分一人では手が回らない部分も」
「その点に関しては心配するなレオン、私が後で殿下の裏の護衛を選出しておく。見付からない裏方の護衛をな。あとお前の部隊には少し長めの休暇ということで話を通しておく」
「なぁおっさん、アンタ俺に恨みでもあるのか。長めの休みって、長期任務の間違いだろコンチクショウ!」
「そうとも言う、とでも返しておけばいいか?」
やめろおおおおおおおお!!今更学園生活とか遅れるか!!!!そもそも俺は学生なんてやったことないんだぞ!?今から入学までに勉強して来いってか!!!
「ちなみに今回の任務、他の円卓にも知らせん。知るのはセルケードとアシュトン、そしてレオンの三人のみとする」
「確かに知られると面倒なことになりそうな物が多いですからな」
「うむ」
まって、それじゃあ俺が今回力を借りれるのはあの研究馬鹿のアシュトンだけ?やめてよアイツ常識ないんだよ!?日頃から実験動物に話しかけ続けてる怖い奴なんだぞ!!
前回の任務の時だって嵐龍は生け捕りに出来るなら生け捕りにして来いって注文してきた馬鹿なんだぞ!!髪色変えるための薬品借りるくらいしか役に立たねぇよ!!!
「し、しかし陛下」
「レオン、卿の言いたいことは分かる。だがその上で余の命を聞いてほしい」
う、うがががががががががが!陛下にそこまで言われたら断れねぇ!!でも物凄い断りたい!!それはもう猛烈に!!!
それほどまでに知らない環境に実力を制限した状態で飛び込むのがめんどくさい!!!!大恩があるけど!主君だけど!それはそれ精神で断っちゃ駄目ですかね!!!
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「悩んでいるようだな、レオン」
「悩まない理由があると思うか、おっさん……!!」
「まぁ同年代にいい思い出などほとんどないお前が同年代しか存在しないと言える学院に行くのが不安だというのは分かる、だがな」
だがなんだというのだろうか。その後の一言で俺の考えが変わるとでも思って「強い騎士は学院では特にモテるぞ」やぁってやるぜええええええ!!!
「皇帝陛下、殿下の護衛任務確かにお受けします。万事自分にお任せください」
「うむ、あの宝石すら見劣りする肌に残る傷など追わせないように頼む」
「無論、我が全力を尽くして殿下をお守りしましょう」
ここからが俺のモテモテ街道爆進開始ってことか。腕がなる。同時に期待で胸が躍る。
なんか憐れなものを見る目で見てくる視線が二つ感じる気がするが、気のせいだろう。何せ物凄いいい気分だからな!今の俺は!!
※
「陛下、あれでよろしかったのですか」
「いいのだ。レオンもあの年齢相応の経験をすべきだろう。その経験は確実にレオン自信を支える精神的柱になる」
レオンがウキウキ気分で皇帝の執務室から出ていった後、二人の主従は今回の任務について話しあっていた。
セルケードは弟子のような息子のような腕は立つくせに女子にモテることを夢見る少年を。皇帝であるランドルフは自身の剣にして我が子のような頼れる騎士を互いに案じながら。
「無論アナスタシアのことも本音ではある、が」
「が、なんでしょうか」
「他の騎士はほぼ全員学生という時期を辿り円卓までたどり着いた。無論いい思い出ばかりではないだろう。しかしそれでも大切な出会いというものもあったはずだ」
「確かに、飛び級卒業した円卓もいますがそれでも思い出というものは持っていますな」
「レオンには生きる意志を持ってほしい。あれに足りないのはそれだけだろう。そして学生という立場、同年代との出会いと衝突、その上での交友。それによって生きたいと思えるならば次世代の帝国も安泰だと考える私は暗君かね」
「いえ、私が陛下でもそう考えるでしょう。もしそう言った意志をもち私を打倒することが出来ればすぐにでも序列1位を譲りたいですな」
そこにあるのは確かな愛情。無論他にも狙いはある、一つの動きにいくつもの狙いをもたせるなどということは彼らにとってはいつものことでありそれが常でもある。
だがそれは二人がもつ愛を否定するものではない。
「さて、セルケード。この書類が終わり次第例の30年物のワインを頼む。妻たちにばれないようにな」
「御意に。しかしながら陛下、陛下は酒に弱く飲めばすぐに顔が赤くなりますがどう誤魔化しましょうか?」
「そこはお前に任せよう、我が第一の騎士。それにお前も飲むだろう?」
笑いながら酒の席に誘う主君に苦笑いを帰しながら執務室を後にする騎士。
主君の妃たちにどう言い訳するかと考えながら、帝国最強の騎士は将来後を継ぐかもしれない、先程まで同じ道を歩いき軽口を言いあっていた少年のこれからを祈ったのだった。