彼女に
僕は今、手紙を書いている。
僕が初めて愛した、もう会うことのない彼女に……
去年の秋、だいぶ肌寒くなってきた頃、僕は病院にいた。 病棟がある、まあまあ大きな病院だ。
少し怪我をしたからきたのだ。 診察を終え、異常がなかったことに安心し帰ろうとした時、病棟に行く階段の前で止まった。 小さい時からここに来ているが、そこには行ったことがなかった。 その時は何故か見てみたくなったので、行ってみることにした。
階段を上っていき、1番上の3階に行き歩いていると、303号室に何歳だろう、自分と同じ高校生ぐらいの女の子がベットで編み物をしていた。 目が合い、少し驚いた顔をしていたが、にこやかに笑いかけてきた。 凄く綺麗な笑顔だった。
「こ、こんにちは」
思い切って声をかけた。
「こんにちは、どうかしましたか?」
「いや、ちょっとふらふらしてて……」
おっとりした声だ。
「もし良かったら、お話しませんか?」
編み物を置いて言った。
「じゃあ、少しだけ。」
僕はこの人と話してみたいと思った。
それからどのぐらいの時間が経っただろう、彼女の色々な事を教えてくれた。 中学生の時にここに来て、今は高校生という事、生まれつき体が弱く、重い病気にかかっていること。 沢山の事を教えてくれた。
「今日はありがとうございました。」
「いえいえ、楽しかったです。」
彼女は終始笑顔で話していた。 僕は、その笑顔がまた見たかった。
「ま、また来ます!」
「嬉しい、待ってますね。」
最後にもう一度、ありがとうと言われ部屋を後にした。
それから週に1度、彼女のいる病院へ通うようになった。 好きだと言っていたゼリーを持っていってあげたり、クリスマスなどのイベントのある日を一緒に過ごしたり、自分なりに彼女に尽くした。
体が良くなるようにと祈りながら。
それから半年程が過ぎた。
春、少し暑くなってきた頃、いつものように病院に行くと、いつもの看護師さんが慌てた様子でこちらに来た。 毎週行ってたおかげで、看護師さんとも仲良くなったのだ。
「彼女の容態が急変したの。今手術しているわ……」
彼女の容態が急変? あんなに元気にしていたのに、いつもの、綺麗な笑顔を見せてくれていたのに。
頭の中が真っ白になった。 考えられなかった。 それは僕にとって、あまりにもショックな出来事だった。
「彼女は…… 彼女は助かりますよね!」
声を荒げて看護師さんに迫った。
「わからないわ、彼女のは重い病気、助からないかもしれない……」
僕は、膝から崩れ落ちた。 涙が溢れてきた。 でも諦めてはいなかった。ほんの少しの希望がある。助かると信じて。
扉の上には、手術中という文字が赤く光っている。手術が始まってから5時間が経過していた。 僕は無言で、ただひたすら待っていた。強く手を握りしめて、気持ちを抑えながら。
パチッ
手術中の文字が消えた。 扉が開き、先生が出てきた。
「か、彼女は……」
「……」
「え……」
「最前は尽くしましたが……」
先生の反応は、首を横に振るだけだった。
「うそ……だ……」
今度は、大きな声で泣いた。
彼女に聞こえるかもしれないくらいに大きく。
周りの人はみな、俯いているだけだった。
何も無くなった彼女の病室に、1人立っていた。
何も無い部屋は、とても静かだ。 今はもう、聞き慣れた声、いつもの笑い声、そして、綺麗な笑顔も何もかもが無くなってしまった。 そう思うと、また涙が溢れてくる。
僕の目には、初めて会った日のこと、一緒にゼリーを食べたこと、沢山の思い出が流れるように映る。
そして胸が痛い。締め付けてくるような、ヅキヅキするような痛み。
僕は思った。会う度に増えていった、胸の中の気持ち、想い、全てが、
「あぁ…好きだったんだ……君のこと……」
どうしようもない気持ちになった。
僕は1枚の紙とペンを出し、書き始めた、彼女に贈る、最初で最後の手紙を。 楽しかったこと、初めて知ったこと、沢山。
そして、自分の気持ち。
直接伝わることはもうないけれど、正直な気持ちを1枚の紙に。
僕は今、手紙を書いている。
僕が初めて愛した、もう会うことのない彼女に。
文末に『好きだよ』と書いた。
伝わるのだろうか。わからない。
立ち上がり、彼女がいつも見ていた窓の外を見る。
そして決意する。 彼女の分まで生きようと。
僕の気持ちに答えてくれるような、彼女のように優しい、夏を知らせる風を感じながら。
初めまして。
赤水捺南です。
今回が初めての投稿になりますが、これは暇つぶしに書いた作品なので思いっきり自己満です。
ごめんなさい。
この「小説家になろう」の仕様などよく分かってないのですが、たまーに小説を書いていきたいと思ってます。
ちょっとでもいいも思ってくれるだけでも嬉しいです。
いつになるか分からないですが次の作品も読んでいただけると幸いです。