6話 生徒会長
さて、この話…と言うより命令をどう受け取れば良いのか。
一般の生徒からすればそれはいい事ではあるのであろう。エリート校であるこの学園の生徒会の一員だったという事実は今後の魔術師活動において少なからずいい影響を及ぼすことは予想できる。
だが、実に怪しい。この話にはなにか裏がある。まず、入学したての生徒を生徒会に入れるというのはまず普通ではありえないだろう。つまり何か原因があったことになる。
そして、その原因は明白である。
先程の決闘だろう。
だが、わざわざ生徒会長が直ぐに声をかけてくる理由が分からない。
確かに先程使った魔力障壁や魔力弾はとても奇妙に見えただろうし、天才と呼ばれるこの人ならカラクリに気づいたかもしれない。
しかし、生徒会長のような人からすれば、それは小手先の手品でしかない。
1度見て少しでも練習すれば、恐らく直ぐにでも出来るようになるだろう。
わざわざ魔力弾を使ったのもそんな理由があったからであり、力技などでなければそこまで注目はされないだろうと思ったのだが。
「…理由をお伺いしても?」
「あなたが1番理解していると思いますが?」
変な言い方をする。これは何か情報を引き出そうとしているのか?
「決闘のことですね?」
「ええ、あなたは少し、物騒な所に喧嘩を売ったようですので。生徒会に入ればあのような輩も簡単に手出しは出来ないでしょう」
「なるほど」
そうきたか。確かに理由としては十分であるかもしれない。
「わかって頂けるのであれば、ぜひ快諾していただきたいのですが」
「こちらもそうしたいのですが一つだけお聞きしたいことがあります。」
「なんでしょうか?」
俺は少しだけ声音を低くして言った。
「…本音は?」
「というと?」
「しらばっくれなくてもいい。手だしをされて困るのはただの平民だろう。だが、そもそもただの平民に生徒会、しかもあの生徒会長が直々に声をかけてくるはずがない。つまりあなたはなにか別の目的があって声をかけてきたはずだ。そうだろう?」
そう、そうでなければおかしいのだ。
平民の生徒を一部の物騒な貴族から保護するという目的で、生徒会という地位を持たせるのはありだろう。生徒会のイメージアップというメリットになりえるかもしれない。だが、それを行うと貴族達の反感を買うという大きなデメリットがある。メリットがデメリットとあまりに釣り合わないのだ。つまりなにか別の目的があるということになる。
マリーはチラリとセレナの方を伺ったが、大丈夫だと判断したのか本当の理由を話し始めた。
「…私は魔術の天才などと呼ばれていますが、武術の心得も多少持っています。そして、あなたのあの気づかせないような自然な動き…あれは軍で使われている武術の技
ですね?」
「…なんの事だ?」
「答えるまでの少しの間が答えです」
予想外の答えだったために答えるまでに少し間が空いてしまったのが、墓穴を掘ったようだ。
まあ、考えてみれば当然のことでもある。
相手は貴族、それも超がつくほどの名家なのだ。子供のうちから英才教育を受けているだろうし、軍の技術の一つや二つ知っているのが当然とも言えるだろう。
さらに生徒会長はそれにと続けた。
「私は入学式の間、風の魔術で全ての生徒の会話を聞いていました。その中には当然あなた達が話しているものもありました。…自惚れる訳ではありませんが、私の事を知らない、という会話を聞こえたので、あなた達のことを少しだけ注意していました。」
どうやら入学式の時に見られていた気がしたのは気の所為ではなかったらしい。
「私はなぜあなたが、いやあなた方がここに来たのかは知りません。ですが、軍の技術を持ち、奇妙な魔術を使い、そして今や誰もが知っていることを知らない。そんな輩を野放しにはして置けません。ですから、自らの手の届く範囲に置いておきたいのです。」
どうやらアリスにもそんな輩の一員らしい。
「…ご丁寧にどうも。その後丁寧ついでにもうひとつ聞いてもいいか?」
マリーは眉ひとつ動かさずに即答した。
「なんでしょう」
「なんで、セレナにこの話を聞かせた?」
俺の発言によりマリーに見られたセレナはビクッと反応した。先程から生徒会長に緊張してか動けなかったセレナは俺を涙目で睨んだ。それはまるでなぜ私を話題に出したの!!とでも言いたげであった。
「彼女は決闘の原因になった人。つまり無関係ではいられないのよ。彼女だって物騒な貴族に目をつけられるのは避けられないでしょう。」
「…つまり、俺が生徒会に入らなければ、セレナがどこの誰かわからない貴族になにかされると」
これは脅しだろう。俺が生徒会に入らなければ彼女が貴族に危害を加えられるという未来が待っている。その貴族がどこの貴族かは分からない。
それはダン・ザイウスの手先かもしれないし……目の前にいる生徒会長の手先かもしれない。
意味が分かっているのかいないのか、セレナは不安そうな表情をしている。
「さて、どうしますか?」
生徒会長が結論を迫ってくる。
どうするか。
俺やアリスは大丈夫だろう。正直に言ってどんな貴族に襲われようがたかが学生などに引けを取ることはないだろう。
だが、セレナはどうだろうか。まだ、知り合って間もないため、力量は未知数ではあるが、未知の部分は大きいとは思えない。セレナは入学したての学生なのだから。
そうなると自ずと答えは決まってくる。
俺は親指を下に向けながら言い放った。
「だが、断る」