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異世界コンニビ1号店  作者: 音音
第1部 世界は飢えている
2/2

子供殺しの実

前話、加筆してありますが、あらすじ読んでいれば読まなくても問題ないと思います。

よろしくお願いいたします。

 こちらの世界に住居兼店舗と庭や畑と一緒に転移して1週間がたった。

 慌ただしかったのは2日目だけで、それ以外はミサキはのんびりと過ごしている。


 どうしようかと悩んでいた2日目。圏外だったと思っていたのに、突然鳴り出したスマホにミサキは吃驚して反射的に出ると、耳元に持っていく前に母親の絶叫が響いた。

「ミサキ!! 今どこにいんの!?」

 ミサキが異世界に家や庭や畑ごと転移したみたいと言ったら、母親は無言になってしまったので、ミサキは冗談や言い訳だと思われないように、必死に説明したら一応信じてくれた…… たぶん。

 ミサキが母親と話をしてみると、島にはちゃんと住居兼店舗も庭も畑もあるらしい。近所に遊びに行っていたおばあちゃんも無事で、そのまま家で暮らしてるとのことでミサキはほっとしたのだが。

 突然いなくなったミサキを島民一丸となって走り回って探したという言葉に顔が青ざめた。

 普通に考えれば、船で出入りするしかない島で15歳の女の子がいなくなれば大騒ぎになって当たり前なのだ。それでも、ミサキの意志で島から消えたわけでもないし、ある意味不可抗力なのだ、申し訳ないとは思うが、私のせいじゃないから。とミサキは開き直ることにした。

「なんか迷惑かけちゃったね。いつ戻れるかわからないけど…… っていうかどうやったら戻れるのかわからないけど、戻ったらみんなに謝らなきゃなぁ。でも説明どうしよう?」

「あんた落ち着きすぎよ……。それに、全部アイツのせいにしておくから良いわよ。こっちに戻れる方法も母さんのほうでも考えてみるから、危ないことはしないで――」

 という所で電話は圏外になって切れた。

 パニックと落ち込みは初日に落ち着いた。

 だって、自分じゃどうしようもないのは明らかだし、なんでか電気ガス水道使えるし、身に迫った危険があるわけでもないし、衣食住は保障されてるから落ち着くしかないよね。とミサキは思う。

 残念ながら電気はつながっているがテレビを見ることも、ラジオを聴くこともできなかったが。


 それにしても、とミサキは思う。 

「異世界転移を信じてくれたお母さんに私はびっくりなんだけど」

 呆れと、自分を無条件に信じてくれた嬉しさを含んだミサキの言葉は一人きりの部屋に響いた。


 1週間でミサキがわかったことはいくつかある。

 スマホが圏外から圏内になったタイミングでメールを送信すれば相手に届くし、同じようにミサキの方にも圏内になったタイミングで届いてくること。

 そして、圏内になったタイミングで、店舗部分と冷蔵庫が更新され、決まった圏内の条件下でだけ仏壇が更新されること。

 つまり、ミサキがこちらで店舗にある塩を一袋持ち出せば圏内になった時に、おばあちゃんのほうで塩が一袋消える。逆も一緒。

 おばあちゃんが商品を補充すれば、こちらにも補充される。棚に、ミサキが庭で取った果物を置けば、圏内になったタイミングで反映されておばあちゃんも手に取れる。冷蔵庫も一緒な感じだ。

 ならばと、ミサキは棚に横になったりしてみたけれど、圏内になっても、生き物はダメらしく元の世界に戻ることはできなかった。

 圏内になるタイミングも様々で、店舗の商品を私が持ち出すか、おばあちゃんの方で売ったり補充すると、すぐに圏内になって商品棚が更新される。といっても10秒たたないうちにすぐに圏外になる。 冷蔵庫も同じ仕組みのようだ。

この時、待ち構えて操作することで、上手くいけばメールも送れるが、データー量が多かったりすると遅れなかったり受信できなかったりする。

 ミサキ、短文でお母さんにメール送信。お母さん、おばあちゃんに電話で確認して短文メールを私に送信。頃合いを見計らって、商品棚の物を店舗外に持ち出したり、戻したり。もしくは取ってきた果物を商品棚に置いたり、冷蔵庫の物を出したりしまったりして圏内にして受信。といった面倒この上ないやり方でミサキが確認した結果わかったことでもある。

 そして、商品棚に置いたからといって、生き物以外の全てのモノが圏内になっても反映されないことにも気が付いた。

 なぜ気づいたかというと、一昨日、仏壇にミサキ宛のおばあちゃんからの手紙が届いていたからだ。

 仏壇に手紙って…… とミサキは微妙な気持ちにもなったが、どうやら、商品棚に手紙の類を置いても、いつまでたってもなくならないことから、商品棚じゃ届かないのだと思って仏壇に置いてみたらしい。

 そこで、なぜ仏壇に置こうと思ったのか…… と複雑な気持ちをミサキは抱えた。なんか自分が死んだみたいで嫌だな。と。

 しかし、商品棚に置かれた手紙をミサキが見つけることができなかったことと、それよりも前に、おばあちゃん宛に書いて商品棚に置いた手紙が無くならないことから、商品と認識できないものは商品棚に置いても圏内になって更新されたときに、向こう側に反映されないのだということはわかったので、ミサキも不本意ながら、おばあちゃん宛の手紙を仏壇に置くことにした。 

 しかし、仏壇に手紙を置いても商品棚や冷蔵庫のようにすぐに圏内にはならないし、商品棚や冷蔵庫の中身を出したり入れたりして圏内を促しても、仏壇だけは更新されることなかった。

 仕方がないのでミサキが不眠不休で観察した結果、仏壇は、どうやら夜中の2時ごろに毎日5分ぐらい圏内になるらしく、その時に更新になることが分かった。

(なんだろう、この精神的な苦痛は……) 

 ちなみに、精神的にも安全なポストは圏内になっても全く更新されず使えなかった。



 一週間の間に、畑や庭の周りも確認して、最終的に周りが全部森だということをミサキは確認できた。

 人や動物の気配がないことも。

 これだけ、果物が実っているのだから、鳥の一匹ぐらい来ても良いのに、一匹も来なかったことからも明らかだろう。


「う~ん。することがない……」

 今すぐ敷地内からでて探検に行く必要性をミサキは感じていない為、探検に行かないのならすることは限られる。

「梅でも収穫しようかなぁ…… 梅干しと梅ジュース~」

 梅ジュースを炭酸水で割って飲むのがミサキのお気に入りである。

 作るのは梅干しと梅ジュースだけでいいかとミサキは思っていたのだが、近所のオトメばあちゃんが梅ジャムをクリーム代わりにしたロールケーキを御すそ分けした時、とても気に入ってくれたみたいで、お礼にとオトメばあちゃんの息子のしょうおじさんが釣ってきた魚を持ってきてくれた時に「また作ってね」とニコニコしながら言っていたことをミサキは思い出した。

(おばあちゃんも気に入っていたし、夜に作って冷蔵庫に入れておけば、朝ごはんの時に気が付くだろうから、ロールケーキを作って持って行ってもらってもいいかな。念のために仏壇にも手紙を置いておこう)

「となれば、梅ジャムも作ろう~」

 店舗内に片づけてあった網を取り出すと、ビニールひもで良さげな枝にゆったりと網が地面に浮くように縛り付けて、力の加減を忘れずに ――。

「せいや!」

 ポイントは飛び上がっての回し蹴り。枝が揺すられて網の上にボトボトと梅の実が落ちてくる。

(脚立のが丁寧に取れるんだろうけどね、うん。――― めんどうじゃん?)

 というのがミサキの考えなのだが、おばあちゃんの見ている所でやると叱られるため、いつも収穫するときは、おばあちゃんに近所へ遊びに行ってもらうようにミサキはしていた。

 今回は誰にも見られることがないので、遠慮なくできる。 さて、もう一本の梅の木にも回し蹴りを…… とミサキが思ったところで、背後からミサキの知らない声がかかった。


「お前、ちっこいのに凄いな。でも、これは子供殺しの実だべ。食べちゃダメだぞ」

 だれ? とミサキが後ろを振り返ってみると、一番に目に入ってきたのはピコピコ動く耳。

 顔の横じゃなくて頭の上。いわゆるケモノ耳というやつだろうか?

 いきなりあらわれた人物に、ミサキの警戒心が上がった。ミサキは相手を観察してみる。 

 顔は人間だけど、顔の横に耳は無い。

 当たり前か、頭の上についているもんね…… とミサキは一人納得する。

 スマホで読んでいた異世界物の小説によく出てきた獣人だろうか? でも耳以外は人間と変わらないから半獣人というのだろうか? もしかしてお尻見たら尻尾もあるのか? そもそも獣人の定義がミサキは良く分かっていないので疑問だらけなのだが、獣人だということを考慮しないで、普通の人間として考えてみると、その人物は明らかに痩せすぎなのだ。

 それにしても痩せているなぁ~ これが獣人みたいな人たちの標準? とミサキがつらつらと考えていたら……

「にーちゃ。これおいしー?」

 下の方で聞こえた可愛い声に視線を動かすと…… 服を着た犬が二本足で立って喋っていた。

 あまりの可愛さに目を奪われて、ミサキの警戒心もどこかへ飛んで行ってしまう。

 しかし、である。喋る服を着た二足歩行の小型犬。とても可愛いのだが、その可愛さから受けた衝撃を振り払い、ミサキは現実を見た。どう見てもペットではない。だって喋っているのだから。

(え? 私どういう反応したらいいんだ??)

「これは子供殺しの実だから食っちゃなんねぇぞ。どんだけ腹が減ってもこれだけは食べちゃダメだ」

 耳をピコピコ動かしながら、にーちゃと呼ばれたケモノ耳の少年は、子犬? の目線に合わせてしゃがみこんで説明している。

 ちょうどミサキに対して横を向いた感じで屈んだので、ふりふりと揺れる尻尾が確認できた。

「おめーもだぞ。子供殺しの実は食べたら死ぬぞ。大人だって危ねーんだぞ。それに美味しいもんでもねぇし。他に美味そうな実がここには沢山あんのに、なんだって子供殺しの実なんかとってんだ?」

 一番に聞きたいことは決まっているけれど、デリケートな問題だったら困るので…… と、ミサキがとりあえず口にしたのは――。

「だれ?」

「おらはワンゾウ。こっちは弟のワンタだ」

(ずいぶん似てない兄弟だな…… でも、分かった。名前からして犬の獣人だ。うんそういう事にしよう)

 この世界のルールや常識がわからない以上デリケートそうな部分には触れない方が安全だとミサキは納得することにした。

「私はミサキ。えーと、子供殺しの実ってこれのことだよね?」

 梅の実を一つ摘まんで、ミサキはワンゾウに見せる。

「そうだぞ」

(確かに加工していない青梅には青酸だかなんだかの毒があるらしいしけど、それは桃も一緒。毒の大部分は種にあるって、おばあちゃんが言ってたなぁ。熟せば桃はもちろん、梅も大丈夫みたいだけど。

 食糧難の時代に、お腹を空かせた子供が青梅を大量に食べたらお腹を壊したりして本当に死んだりすることもあるからって、戒め的に青梅を食べたら死ぬよなんて脅していたとも言ってた気がするけど……)

 ミサキは梅の実を見つめて、だからと言って、そんな子供殺しの実なんて名前をつけられるほど危険なものでもないと思うんだけど。と首を傾げる。

(獣人だから、なんか違うのかな?)

「ちなみに食べるとしたらどうやって?」

「うーん。食べたことねぇからわかんねぇけど、そのまま口に放り込んでバリバリとじゃねーか?」

 そのままバリバリ? ワンゾウの言葉をミサキは不思議に思う。カリカリならわかるが、梅はバリバリと食べるものではない。

「種は?」

「あぁ、確かちっさい種が入ってんだよな? こんくらいの実の種なら噛み砕いでバリバリいけんぞ。なんてったっておらたちの歯と顎は頑丈だからな」

(それが原因だよ……。生の青梅の種を噛み砕いて食べちゃダメだよ……。確かに、それなら大量に食べなくても死んじゃうよ……)

 浮かべていたミサキの笑顔が引きつる。 

「安全な食べ方教えようか? でも種は食べないでね?」

 加工すれば実はもちろんのこと、種に含まれる青酸配糖体も無くなるとはいえ、バリバリと種を砕いて食べるという犬獣人の食べ方にわずかに不安を覚えたミサキは、塵も積もればの可能性を否定できずに念を押す。

 ミサキの言葉にワンゾウは吃驚した顔をした。

「これ、食えるようになるのか?」

「まぁ…… 好みは分かれると思うけど」

(思わず言っちゃたけど、獣人って梅干しとか口に合いそうにないんだけど……)

 ミサキが自分の言葉を後悔していると、くぅ~ という可愛い音が聞こえてきた。

「にーちゃ。はらへった」

 ワンゾウの服の裾を引っ張ってワンタが訴えている。

「あー。ここになってる、甘い匂いのする色んな実って、お前が育ててんだよな? ワンタの分だけで良いから、ちょっともらえねぇか?」

 その言葉の後に、今度は、ぐぅぅぅ~ と大きな音。音源はワンゾウだ。

「果物じゃ、お腹いっぱいにならないよ。ご飯出すから、家の中に入って」

 ミサキの言葉に、ワンゾウとワンタの尻尾が激しく左右に振られだした。

「いいのか?」 

 いいもなにも、ここで何も食べさせないのは、ミサキが精神的に辛い。

 犬が二足歩行して喋ってるのには違和感があるけど、ワンタ可愛いし。小さい子を年長者が助け守るのは島では当たり前のことだった。まぁ、島では、ミサキも含め、子供自体が珍しかったのだけれど。

 それに、ワンゾウもワンタもミサキの目には痩せすぎに見えるのだ。

 店舗の引き戸を開けて、お店の中に入るとミサキは二人についてくるように促す。

 おっかなびっくりと店内に入ってくる二人を確認してから、靴を脱いで店舗部分から自宅部分へとつながるドアを開けたところで、二人とも裸足だっけ? とミサキが足元を確認するために振り返るとワンゾウが一点を凝視していた。 

(靴は二人とも履いているので、上がる時に脱いでもらえば問題ないと思うんだけど……)

 ワンゾウは何を見てるんだろ? そう思ってミサキがワンゾウの視線を追ってみると、その先にあったのはドッグフードの箱だった。

(え? ちょっとまって?? まじで私どんな反応すればいいのかわかんないんだけど!!)

 思わず固まってしまったミサキをよそに、ワンゾウはふらふらと箱に近づくと、ドッグフードの箱を手に取って食い入るように見つめる。

「なんて可愛いんだ」

 うっとりと呟かれた言葉に、ミサキは思わず脱力した。

 日本語が彼らに読めるわけはなかった。ここは異世界なのだからと一安心。

 ドックフードのパッケージには、つぶらな瞳をアピールしたチワワの顔がアップになっていた。

「なぁ! これ誰だ!? 紹介してくれ! しかし、上手い絵だなぁ。これミサキが描いたのか?あぁ……、でもこんな可愛い子が、おらみたいな貧乏なとこには嫁に来てくれねぇか……」

(その子、普通の犬だから無理だし、知り合いじゃないから紹介できないし…… 絵も写真だし…… 私描いてないし! っていうか、この世界に普通の犬っているの?)

 ミサキは突っ込みたいのを我慢する。

「うん? これは箱なのか? なんか音がする。いい匂いもするけど…… なんか変な臭いもするな?」

 ワンゾウは、パッケージのチワワに見とれていたが、嫁にすることを自己完結で諦めたせいか、ドッグフードの箱自体に興味を持ったらしく。揺すったり箱に鼻を寄せてクンクンと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでいる。

「ミサキ、これなんだ?」

(こ…… 答えずらい質問が来た!! ドッグフードって答えるのはよくないよね?)

「あ―― えっと…… 一定の層に需要のある嗜好品?」

(嘘は言っていない…… と思う。 一定の層=犬、特に小型犬 嗜好品=それなりの値段がするドッグフードだから、食べさせるのは、別にこれじゃなくても良いと思うから嗜好品だよね?

 そもそも、このドッグフードは、5軒隣の、おみよおばあちゃんの買っているマリー専用みたいな感じで仕入れてるし。 他にも小型犬飼っている人いるけど買わないもんなぁ~ うん、嗜好品でOK)

 一人、ミサキが自分のした説明に納得していると………… なぜかワンゾウが顔を赤くしていた。

(―――― なぜ? 今の説明に顔を赤くする要素があっただろうか?)

「そ…… そうか。じゃぁ、これは売り物ってことか? ミサキには必要なさそうだしな」

 そう言って、慌てたように、うんうんと頷くワンゾウを不思議に思いながらも、ミサキは肯定する。

「そうだよ。ここはお店なんだ。だから色んな物あるでしょ?」

「うん、街の店で見たことないようなもんが沢山あるな。貴族向けか? おらたちが入っても大丈夫なのか?」

(あ、やっぱり貴族とかいるんだ。なら異世界だし魔法とかもあるのかな?)

 ミサキはちょっと期待してみたが、魔法なんて自分が使えなきゃ面白くないか。と思う。

 なんせ、周りは森で人がいないのだから、簡単に魔法を見ることもできないだろうと、ミサキは、いつか機会があったら見てみたいなぐらいの好奇心で抑えておくことにした。

「一般の人向けだから大丈夫だよ。もし、よかったら、それ。持って帰っていいよ」

 無意識なのだろう、ワンゾウが力を込めたせいで、箱の形が変形してしまっている。

 いくらゆるい感じで営業しているお店だとはいえ、売り物にするには躊躇うくらいに歪んだ箱を見て、ミサキは苦笑いをする。

「え! ……ごめん。でも、おら金なんて持ってない……」

 赤かった顔が、手の中の歪んだ箱を見て、ワンゾウの顔は一気に青ざめた。

「お金はいいよ。今回はサービスで」

「おまえ、気前のいい奴だな」

 キラキラした目で見られるのはミサキも嬉しいのだが、こちらのお金をもらっても困るし、売れなくなったドッグフードの使い道もないので、ていよく処分できたつもりの為、そこまで感謝されると、さすがにミサキも良心が痛む。

 犬獣人にドッグフードをあげたわけだから。 もし人権団体に知られたら色々と言われる様な行為であることも否定できない。もっとも、もとの世界に犬獣人は居ないので大丈夫だろうし、こちらの世界の人権活動家が居たとしても、ドッグフードが何か知らなければ文句も出ないだろうが。

「ど…… どういたしまして。――― とりあえず、靴脱いで中に入って」

 あえてドッグフードが何かを説明しなかったのは、ミサキの良心がうずいたからだ。

 中身のドッグフードに気が付いて食べるなら、それでいいし、食べなきゃ食べないでそれで良いし。できれば食べないでくれるといいなぁとミサキは思っているのだ。




「これ本当に食ってもいいのか!?」

 目の前に出された鳥の唐揚げに、ワンゾウとワンタはキラキラとした目でミサキを見てくる。

「ど…… どうぞ」

 あまりの喜びように、ミサキはちょっと引き気味だ。

 家庭用の冷蔵庫のほかに、業務用の冷凍庫も置いているため、大量に作っては小分けにして冷凍保存していた作り置き品だ。それでも、レンジでチンではなく、油で揚げて温めたので、衣はカリカリである。

 つけあわせは夕べの夕飯の残りのポテトサラダと、それだけじゃ彩り悪いかな? というミサキの乙女心からキャベツの千切りにトマトを添えた。お椀ものには、インスタントのわかめスープ。そして、お茶やジュースよりも水が無難だろうと考えて、お水の入ったコップ。

 ポテトサラダが好物のミサキは、作る時には大量に作る。毎食食べて、3日分ぐらい持つぐらいに。それくらいなら、冷蔵庫に入れておけば、たぶん悪くならないと考えているからだ。

 炊飯器は圏内になっても更新されて反映されない為、ご飯も大量に炊いて、一食分ずつ小分けにして冷凍しておいたものをレンジでチンして出したので、ご飯の準備にはたいして時間がかかっていない。

 コンロの火にはワンゾウは驚いてはいなかったが、部屋の電気だったり、レンジだったり冷蔵庫だったりには驚いていたし、テーブルや椅子にも驚いていた。しかし、ミサキはそれらをまるっとスルーした。説明の仕方もわかんないし、面倒な予感しかないからと、ワンゾウが何か言うたびに、全部笑顔で

「ありがとう」と答えてスルーした。

 そんな流すようなミサキの態度を興奮のあまりワンゾウも気には止めていなかったのだからお互い様なのかもしれない。

 お箸は使えないよね。とミサキが出したフォークとスプーンを使って、ワンゾウとワンタは食べ始めた。

 勢いよく、ワンゾウとワンタが唐揚げを次々と頬張り、ポテトサラダを口にしてと食べる様子を眺めていたミサキは、あれ? となにかが引っ掛かった。

 何が気になったのだろうと、ミサキは食卓の上をもう一度よく見る。

「……あ」

 幸いなことにミサキの声は、食べることに夢中なワンゾウとワンタには届かなかった。

(犬って玉ねぎ食べさせたらダメじゃなかったっけ?)

 なんかそんなことを聞いた記憶があるな…… とミサキは焦る。

 それもそのはずで、ポテトサラダには玉ねぎのスライスを塩揉みしたものが入っているし、唐揚げも胸肉を柔らかくするために、フォークでぶすぶすと穴をあけた後に、玉ねぎをすりおろしたものと、少量の水を加えて揉んで漬け込んであるのだ。

 しかも、ミサキは面倒だからと、そのあと玉ねぎをふき取ることなく、醤油と酒と生姜のすりおろしたものに、そのまま更に漬け込む。

 たまに玉ねぎを入れすぎて、唐揚げが玉ねぎくさい時もあるのだが、今出しているのは、そんな失敗をしていないものの為、気づくのが遅れた。

「あ――。その、ね。ワンゾウにワンタ。玉ねぎって好き?」

 ミサキの質問にワンゾウもワンタも食べる手を休めて、ミサキを見る。

「たまねぎってなんだ?」

 当たり前と言えば当たり前な返しに、ミサキは言葉に詰まる。

(世界が違うんだから、名前も違うよね…… 梅を子供殺しの実なんて呼んでいたくらいだし)

「えーとね。この唐揚げの…… 隠し味? に使ってたり、こっちのポテトサラダに薄切りにして入ってる透明っぽいやつなんだけど」

「あぁ。フクネギか? おらもワンタも大好物だぞ」

「うん。しゅき」

 そう言って、食事を再開する二人に、ミサキは安心した。

(よ…… よかったぁ。っていうか、犬獣人なんだから、匂いでわかるのか。兎に角よかった。玉ねぎ、こっちではフクネギ? 食べたら中毒起こすとか言われたらどうしようかと思ったよ……)

 食事を再開したワンゾウとワンタだったのだが、どちらともなく、その手が止まる。

「? どうしたの?」

「にーちゃ。ワンタ、もういりゃない」

(え? やっぱり、さっきのは社交辞令で、本当はダメだったとか? 空腹のあまり、玉ねぎに…… じゃなくてフクネギに気づけなかっただけ!?)

 ミサキが内心焦っていると、しょんぼりしたワンタがワンゾウの膝に、隣に座っていた椅子から乗りうつる。

「とーちゃとかーちゃにも。ワンタもういりゃないから、ワンタのぶん、とーちゃとかーちゃにあげたい」

「そうだな。おらたちばっかり食っちゃなんねぇな。ミサキ、これ残り持って帰っても良いか? 父ちゃんと母ちゃんにも食わせてぇ。本当なら、村のみんなにも食わせてぇけど……」

 しょんぼりとした二人の様子にミサキはピンと来る。

 もともと、ミサキは二人のことを痩せすぎだと思っていたのだ。

「もしかして、ワンゾウたちの住んでるとこって食べ物が無いの?」

「あぁ。ここのところの日照りで作物はやられちまった。街も食料は値上がりしてる。

 おらの村では蜂蜜を売って金を稼いでるんだが、こんな時に腹に溜まらねぇ蜂蜜を買ってくれるやつもいねぇし、食べるものもねぇから、生きるために、蜂蜜を村のみんなで分けて飢えをしのいでたんだ。

 でも、普段なら蜂蜜取るのも加減できたんだが、あまりにも食べるものが無くて、蜂蜜取りすぎて蜂の餌に残しておく分まで取ってしまったから、蜂の半分は死んじまった。

 このままだと、残りの蜂も全滅しちまう。おらたちが生き残っても、来年には蜂がいなくなっちまうから、今までのように蜂蜜で稼ぐことはできねぇ。

 おらたちが住んでる土地は痩せてて、ろくな作物が育たねぇからな。身軽な奴は、すでに村を捨てて出ていっちまったしな……」

「そ…… そうなんだ」

(お…… 重い)

 飽食である平成の日本に生まれたミサキにとって飢えとは縁がないものだし、飽食と言われながらも世間では子供の貧困が問題にもなっている。

 しかし、助けあいが当たり前で、島民皆が親戚づきあいをしているような島で大半を育ったミサキにとって、欲しいものが買えないことはあっても、飢えるほどにお腹を空かせることは、自分とは遠く離れた所の話といった認識だったのだが、いきなり目の前に、ドン! と突きつけられた現実に戸惑い、心が痛む。

(なにか…… できればいいけれど。 なにができるんだろう?)

「だから魔の森に入ったんだ……」

 真剣に考え始めていたミサキは、聞こえてきた単語に耳を疑う。

「魔の森?」

「んだ。おらたちの住む村の端に魔の森が広がってるんだ」

(その話の流れで行くとさ…… どう考えても……)

「もしかして、その魔の森って――」

「んだ。ここは魔の森の中だ。知らなかったのか?」

(響きが…… 響きがヤバイ)

「あ、でも勘違いすんなよ。魔の森って呼ばれてるけども、魔物は居ない」

 ミサキの顔色が変わったことに気が付いたのか、ワンゾウはなぜ知らないのかと首を傾げながらも、言葉を続けた。

「あ、そうなんだ」

 一番嫌な予想が外れて、ほっとはしたものの、続いた言葉にミサキは顔を引きつらせた。

「魔物もいねえけど、虫も動物もいねえ。木の実もキノコも育たねぇ森だ。

 森の木を切ろうとしても、どんだけ頑張っても切れねぇ。木の下に落ち葉はあって拾うことはできるけども、木は、どんな季節でも青々とした葉っぱを茂らせてる。

 森の奥に行こうと思っても、いつの間にか森の外に出ちまっている。そんなもんだから、いつのまにか魔の森って呼ばれてたんだ」

「そ…… そうなんだ」

(ある意味安全だけど、私…… 森の外に出られるのかな?)

 外に出る必要性をミサキは今は感じていないが、それも、どれくらいここに居るのか、状況がどう変化するかでわからない。

 ワンゾウの言葉を信じるのなら、ミサキは自分が暮らしているこの場所が、森の中にありながら、異質であることを理解できた。

 いずれ森を出る必要があるかもしれないが、出たら戻ってこれない可能性があるとなると、よほどのことが無い限り自分はここから出ることは怖くてできないな。とミサキは思う。

「それでも、なんか食べれるもんがねぇかと森を覗いてたら、甘い匂いがしたんだ。もしかして、魔の森の奥には、なんか実ってるんじゃねぇかと、ワンタ連れてるのも忘れて、思わず足を踏み込んだんだ。したら、そんなに歩きもしないうちに、ここに着いた」

 そう言って嬉しそうに笑ったワンゾウに、ミサキは少し救われた気がした。

「唐揚げ、タッパーに入れてあげるから、持ち帰っていいよ。他にも外の果物とか、私の準備できる限りで食べ物用意するよ」

 ミサキの言葉に、ワンゾウとワンタの顔が嬉しさに輝くが、すぐにワンゾウは首を傾げた。

「タッパーってなんだ?」

「あ―――。 入れ物…… 箱かな? 洗えばまた使えるから、そのまま使ってくれていいよ」

 ミサキはタッパーの実物を棚から取り出すと、ワンゾウの前で開けて閉めてを繰り返す。

「向こうがぼんやりとだけど透けて見えんぞ。やわらけぇようで、しっかりしてるし。不思議なもんなんだな。タッパーって」

 ミサキは笑って誤魔化した。

(タッパーじゃない方が良かったかな……)


「そういえば、梅の実はなっているの?」

「うめ? あぁ、子供殺しの実のことだな。この日照りにも関わらず、魔の森のそばに植わっているからなのかわからねぇが、しっかり実っていたぞ」

「でも、そんなに危険だなんで言いながら、子供殺しの実がなる木を切ったりしないのはなんで?」

 タッパーに唐揚げを詰め込みながらミサキは不思議に思って訪ねる。

「おらたちの村の近くには、木といったらその木ぐらいしか生えてねぇんだ。

 昔、他の木を植えてみたけど全然育たんかったみたいだ。子供殺しの実の木は、枝が伸びんのも早くて、おらたちが世話しなくても若木が勝手に育つ。だから冬場に使うまきにすんのに助かってるんだ。魔の森の木は切れねえし、落ち葉は落としても枝は落とさねぇからな。実があぶねぇからといって切るわけにもいかねぇんだ」

「なるほど。そんな理由があるんだ」

(薪を料理に使わないってことと、コンロの火に驚かなかったから、料理をするには似たような仕組みのものがあるのかな?)

 ミサキはキッチンの床下の収納を開けると、よいしょ と梅酒の仕込んである瓶と梅干しを詰めてある瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。

「これがね、梅…… 子供殺しの実を食べられるようにしたもの」

 そう言ってミサキが梅干しの瓶の蓋をあけると、ワンゾウとワンタがそろって後ろに下がった。

「え……?」

「ミサキ。それはくいもんじゃねぇ。酸っぱい臭いがすんぞ。腐ってる」

 はっきりとワンゾウに断言されて、ミサキは苦笑いした。

(なんとなくね…… ダメだろうなぁとは思ったんだよね。それに、そんなに食べるものに困ってるとしたら塩とか手に入らないだろうし、作ること自体無理だよね…… そうなると、梅酒も無理かなぁ。氷砂糖と焼酎だしなぁ)

 梅干しの瓶の蓋を閉めると、床下収納にミサキは戻す。

「こっちはお酒なんだけど、ワンゾウはお酒飲める?」

「おら、まだ酒は一度も飲んだことねぇ。まだ13だからな」

 ワンゾウの言葉に、ミサキはまじまじと彼を見る。180センチはあるだろう身長に、もっと年齢は上だと思っていたのだ。

「じゃぁ、こっちは、そのまま持ち帰っていいよ。作り方は簡単なんだけど、氷砂糖と焼酎って用意できる?」

「コオリザトウ? サトウのことか? 甘くて白いサラサラした? あれは高いから難しいな。ショーチューはショッチュウのことか?」

「氷砂糖はないか…… ショッチュウってお酒?」

「街に行けば安く買える酒だ。今は、そんな金持ってるやつは村に誰もいねぇけどな」

(そういえば、蜂蜜売って暮らしてるんだよね)

「ショッチュウってこれかな?」

 床下収納からミサキはおばあちゃんの晩酌用の麦焼酎の瓶を取り出すと、少しだけコップに注いで、ワンゾウに見せる。

「ん。こんな匂いと色だ」

 ワンゾウの言葉に、梅酒ならできるかなとミサキは思う。もっとも、持ち帰ったものを飲んだ村の人が気に入れば、作る方法があるよといった感じでしかないのだが。

「これ、梅酒っていうんだけど、子供殺しの実を綺麗にあらって、青いのは4時間ぐらい水につけたあとに、綺麗に水分を拭き取ってね。黄色く熟したのは、水に浸さなくても大丈夫だよ」

(ん。時間で質問がこないってことは、時間の単位は一緒ってことなんだよね。うん、そこが分かったのは良いけど……作るのに入れ物ってあるのかな?)

「ワンゾウ。蓋つきのびんとかってある?」

「こんなに透明な瓶はねぇけど、一応あるぞ。それでもかめのが安いから、村にあんのは2、3個だと思う」

「甕かぁ。じゃぁ、もし作る時は、甕を綺麗に洗った後に、しっかりと太陽の光に当てて消毒して、その後にショッチュウを回しいれて、甕の内側を全体的に濡らした後に捨てるか、別の入れ物に入れてだれかが飲むかして。それで、綺麗に水分を拭き取った子供殺しの実のヘタ…… ってわかる?」

「実のちょっとへこんでるとこにあるやつか?」

「うん、たぶんそれ。外に行った時に、また教えるね。それを竹串っていう、こんな感じの細い棒でちょこっとつついてとってあげたら甕の中に入れて、蜂蜜入れて、ショッチュウ入れておしまい。

あとは短くても3か月経てば飲めるかな。最初のころは、甕を優しく揺すってあげてね。1年ぐらいたったら、中の子供殺しの実を取り出した方がいいかも。蜂蜜は子供殺しの実の重さの半分ぐらいかちょっと少ないぐらい。ショッチュウは実の倍位の重さから―― このコップ一杯ぐらい少なくしたぐらいかな。好みで、蜂蜜とショッチュウの量は調整してみて」

「わかった。もしかすっと、子供殺しの実が、おらの村の新しい売りもんにできるかもしれねぇ。ミサキはこれ、ウメって呼んでんだよな? これからは、おらもウメって呼ぶことにする」

(えーと。村の人が飲んでダメなら、梅、売り物にならないと思う…… それよりも、ワンゾウの村の食糧事情だよね。私が今、食べ物をあげても一時的なものだし、根本的な解決にはならないよなぁ。それでも、人が飢えて死んでいく可能性を知って無視できないし……)

 とりあえず、お皿に残っているキャベツやトマト、ポテトサラダとわかめスープは持っていけないからとミサキはワンゾウとワンタに食べるように促すと、お米を研ぎ始めた。

(おにぎりぐらいしか思いつかないけど、果物じゃお腹いっぱいにならないからあった方が良いよね)

 炊飯器が一升炊きで良かったと、ミサキは10合のお米を研ぐと、水を入れてセットする。

「ねぇ。ワンゾウの村って、何人ぐらいいるの?」

 ミサキの問いに、ワンゾウは少し考えてから答えた。

「村出て行っちまった奴もいるから…… いまは20人ぐらいだ」

「わかった。となると、3回ぐらいご飯炊いた方が良いかな。お腹減ってるだろうから、一人1合じゃ足らないよね~」

(何も食べてないところに、急にしっかりしたものを食べるのも良くないんだろうけど、ワンゾウもワンタも問題なさそうだし……… そういえば、もち米と、秋おばあちゃんからもらったササゲが、まだ沢山あったよね。明日食べても大丈夫なように1回分はお赤飯にしても良いかな~ うーん。でも日照りだっていうから暑くて悪くなっちゃうかな)

「ねー。ワンゾウ。村に涼しいとこある? 食べ物保管しておけそうな場所」

 ミサキの問いに、ワンゾウは頷く。

「あんぞ。魔の森の寄りの村の中に冷気が溜まる洞窟がある」

「冷気が溜まる洞窟? まぁ、涼しい場所があるならいいや。―― あれ? 梅の実がなっているってことは…… 季節的には、こっちの6月ぐらいなのかな?」

(そういえば、おばあちゃんが、サツマイモは痩せた土地でも育つって言ってたよね。

 食糧難の時代は梅の木伐採してサツマイモ植えてたって言ってたし。お侍さんの時代には飢饉対策のために、ちょんまげに隠して死罪覚悟で藩のためにと密輸したもんだよ。なんて笑っていたけど……… あまりにも見てきたように話すから、小学校の時は、学校の先生に訂正されるまで、それらが、おばあちゃんの若い時の出来事だと思ってたからな……) 

 過去の恥ずかしい思い出に顔を赤らめつつ、ミサキは、庭と同じように季節関係なしのなんでもありの畑にサツマイモが植わっていたことを思い出す。

「果物より、サツマイモが多い方が良いかな。日持ちもするし。やったことないからわからないけど、もしかすると今回から育つかもしれないし。よし! ワンゾウ! ワンタ! サツマイモ掘りしようか」

 ミサキの言葉にワンゾウとワンタは、そろって首を傾げた。



 家の軒下に立てかけておいたリヤカーを出すと、ミサキはワンゾウとワンタを畑まで案内する。

「この緑の葉っぱのしたに、――― よいしょっと。こんな感じのもの、これがサツマイモっていうんだけど、これが育っているから、これを、そうだな…… このリヤカー、荷物が運べる道具なんだけど、ワンゾウが運べるだけ入れていいよ。だけど、あと果物とおにぎりとかの食べ物ものせるから気を付けてね」

 ミサキの言葉に、ワンゾウとワンタは笑顔で頷いた。。

「わかった」

「わきゃった」

 ワンゾウとワンタの返事を聞きながら、自分がさっき使った小さいシャベルはワンタに、リヤカーに載せて持ってきた少し大きめのシャベルをワンゾウに渡そうと、荷台から取るために下げた顔を上げてみると――。

「え……」

 すでにワンゾウとワンタは手で土を掘っていた……。 しっかりと踏ん張った足の間から土をかき出すようにして。

(え? 私、掘って見せた時シャベル使ったよね? え? なんで手で掘ってるの!? しかも早いし……)

「ワンゾウ、ワンタ。ここにシャベル、掘る道具あるから、こっち使てくれて大丈夫だよ。それとね…… できれば、その掘りかたは周りに土が飛ぶから止めて欲しいかな」

「そうか? こっちのが早いんだが…… うん。まわりの作物に土かかっちまうな。ワンタ、これでさっきのミサキみたいに掘るぞ」

 周りを確認した後、ワンゾウは納得して、ワンタと一緒にシャベルでサツマイモ堀りを再開した。

 それを確認すると、ミサキはサツマイモの伸びているツルを先端から8節、30センチぐらいを目安に60本ほどを切り取ると軒下のダンボール箱の中へ入れる。

 時間を確認すれば、なんだかんだと時間が経っていて、そろそろご飯が炊きあがっていても良い頃合いだ。

「ワンゾウ! 私おにぎり作ってくるから、サツマイモ堀り終わったら、ご飯食べたところに戻ってきてねー」

「わかったー」

 答えると、またすぐにサツマイモを掘り始めるワンゾウとワンタを確認すると、ミサキはキッチンへと戻った。



 ミサキがキッチンに戻ると、すでにご飯は炊きあがっていた。

 ミサキはシンク下の戸棚から大きなボールを取り出すと、軽くすすいで、布巾で水気をとる。そのなかに炊き上がったばかりのご飯を全部移すと、時間がもったいないとばかりに、御釜をあらって、新たにお米を9合研いでセットして、サツマイモ堀に行く前に冷凍庫から出しておいた、以前作り置きした鶏牛蒡ごはんの元を半解凍のままお米の上にのせて、炊飯ボタンを押す。

 片手鍋に洗ったササゲを入れて、水に浮いたササゲを取り除いて火にかけると、沸騰するまでの間に、ボールに移したけれど、まだアツアツのご飯の上に醤油をかけ回しいれて軽く混ぜ込んで少し味見。

 棚から取り出した大袋のカツオの削り節をドサッと入れて、さらに混ぜ込む。

 削り節の塩気と旨味がプラスされることを考えて、醤油を混ぜ込んだ時の味は、少し物足りなさを感じるくらいにするのがミサキの好みだ。

 ササゲを茹でている鍋が沸騰したので火を止めて、シンクの中に置いてある洗い桶に煮汁を捨てると、再び水を入れて火にかける。

 ミサキは時計を確認するとラップを使っておにぎりを握り始めた。

 おにぎりの中に、醤油をまぶしたものをいれるのも、おかかを佃煮みたいにしたものを入れるのも嫌いではないが、ミサキの中でのおかかおにぎりは、ご飯に直接醤油と鰹節を混ぜ込んだものがナンバーワンだ。そのまま食べるのも好きだけど、噛り付く場所にマヨネーズを少し乗せながら食べるのも好きで、飽きが来ない。ご飯が余った時などは、これを作って冷凍庫に入れておけば、小腹がすいた時のおやつ代わりになるのでミサキは重宝している。

 出来上がったおにぎりをミサキが数えてみると、全部で25個。

「こんなもんかなぁ~。 ササゲはどんな感じかな。そろそろいいと思うんだけど」

 ミサキは鍋の中から一粒ササゲを取り出すと食べてみる。

 茹で汁は赤くなっているし、豆も固めに茹であがっている。口の中に豆のざらつく感じが残るが、これから炊くことを考えればちょうどいい茹であがり。

「こっちもオッケーだね」

 ミサキは、豆と茹で汁をわけると、ボールや鍋を洗って、次の作業に取り掛かった。

 使っていない部屋に押し込んであった段ボール箱の中から、ちょうどいいサイズのものをいくつか選んでくると、その内の一箱にビニール袋をいれて、その中に先ほど握ったおにぎりを綺麗に詰めていく。それが終わると、ワンゾウとワンタが来たことで中断していた梅を取りに行く。

 ご飯の炊きあがりもあるので、選別はしないで段ボールの中に入れ、網を片づけてキッチンに戻れば、ちょうど炊き込みご飯が炊きあがったところだった。キッチンには良い匂いが漂っている。

 先ほどと同じように、御釜の中身をボールに移すと、今度は内蓋と御釜を洗う。ミサキは少し悩んだ後に、引っ張り出してきたもち米を8合取り出すと、お米と同じように研いで、御釜にいれる。先に茹で汁を入れて、足らない分の水を足す。水分はお米を炊くより少なめに、茹でたササゲを上に載せて平らにならしてセットした。

 蒸す赤飯は手間がかかるので、急に食べたくなった時は、炊飯器で作ってしまう。水加減さえ間違えなければ美味しい赤飯の出来上がりだ。


 鶏牛蒡の炊き込みご飯をおにぎりにしていると、後ろから声がかかった。

「うまそうな匂いだな~」

「おいちそぅ」

 振り返れば、ワンゾウとワンタが尻尾を左右に勢い良く振っている。

「あ、サツマイモ堀り終わったんだね。それにしても…… 泥とかの汚れが無いね?」

 汚れるだろうから、掘り終わったら御風呂でも使ってもらおうかと思っていただけに、ミサキは不思議そうに首を傾げた。

「きれいきれいつかちゃの~」

 ワンタが嬉しそうにミサキに教えてくれる。意味が良く分からずに、ミサキが再度首を傾げると、ワンゾウが説明してくれた。

「あぁ、人間たちは使えねぇから、知らねぇか。おらたち獣人の一部は体を綺麗にするクリミストちゅう魔法が使えるんだ」

 ワンゾウの言葉に、ミサキは顔を輝かせる。

(やっぱり魔法あるんだ!! そして獣人で良いんだね!)

「すごい!! やって見せて!!」

 キラキラと期待感あふれるミサキの顔にワンゾウは困ったような顔をする。

「でも、ミサキ汚れてねぇぞ? それどころか良い匂いするぞ? それに、おらたちも綺麗になっちまったし……」

 くんくん とミサキの匂いを嗅ぐワンゾウに、顔を真っ赤に染めてミサキは一歩後ずさる。

「…… あ、わりぃ」

 恥ずかしさから赤く染めたミサキの顔を見て、ワンゾウの頬も赤くなる。

(うー。良い匂いって…… 汗かいてるし、そんなことないのに。それとも柔軟剤のおかげかな?)

「と…… とりあえず、これ、全部握っちゃうね」

 ミサキはおにぎりを作り終わると、後片付けの間、味見として握ったおにぎりをワンゾウとワンタに渡す。

「このおにぎりの周りの、薄い透明なのは食べれないからはがして食べてね」

「わかった」

「わきゃったよぉ」

 ミサキが洗い物を終わらせて振り返ると、キラキラした目でワンゾウとワンタはミサキを見ていた。

「な…… なに?」

「両方ともうまかった! ミサキはスゲーな! 唐揚げちゅうのも美味かったし、このおにぎりってやつも美味い!」

「おいちーの」

 褒められれば悪い気はしない。ミサキは嬉しそうに微笑むと、気合を入れた。

「よし。じゃぁ外に出て。これからサツマイモの育て方教えるね」

「おらたちでもサツマイモ育てられるだか?」

 不安げなワンゾウにミサキは頷く。

「サツマイモはね痩せた土地でも日照りでも育つよ。苗を植えた後は水をしっかり上げなきゃだけど…… 水ある?」

 最後にちょっと不安げな顔をになったミサキに、ワンゾウは力強く頷いた。

「水は、おらたち水の魔法が使えるから大丈夫だ。それでも、際限なく出せるわけじゃねえし、この日照りで作物に水やっても実が実らないから、飲み水に使うぐらいだったけんども、サツマイモが育つなら村のみんなも喜んで水やり手伝ってくれるはずだ」

(……… え、ちょっと…… かなりのプレッシャーだな。収穫時にツル苗とって育てたことないけど…… あの畑、規格外だし大丈夫だよね? ダメだった時のためと、来年のためにお芋からの苗づくりも教えればいいよね。それに、ツル苗がうまくいったなら、お芋から苗とって育てた分は、街で売っても良いし、冬の備蓄にしても良いし。うん! 信じれば何とかなる!!)

 

 ミサキは畑にワンゾウとワンタを連れて行くと、ツル苗からのサツマイモの栽培方法。サツマイモからツル苗を作る方法。植える時期。収穫する時期。そして育てているときに、伸びてきたツルは持ち上げて、根がはらないように畝のほうに返すのが大切であること。葉っぱや茎も食べることができるが、取りすぎれば芋が育たなくなるので、取るのなら収穫時期が近づいた時に、ツルの先端の方なら柔らかいから、炒めても茹でても美味しいよと教える。

 口で説明するよりも、とキッチンに戻ると、葉と茎を湯がいたり炒めたりして、軽く味付けしたものを出す。

 それから、サツマイモの食べ方。焼き芋の方法を教えてみたところ、燃やすものが足りなくなるということから、茹でるのと蒸す方法を教えて、蒸す調理方法が無いことを知ると手持ちの鍋に入れて、広げることでサイズも調整できる上に値段も安くてお手軽な蒸し器を持ってきて使い方を説明。

 そんなことをしているうちに、お赤飯も炊き上がり、一度にたくさんおにぎりを作ることから、握ってから塩とゴマを振るのは面倒だと、ミサキは塩とゴマをお赤飯に混ぜ込んでから握り始めた。



 リヤカーにはこれでもかとサツマイモが積み上げられ、その上に、唐揚げの入ったタッパーを抱えたワンタとおにぎりの入った段ボール箱と果物の入った段ボール箱、そしてサツマイモのツル苗が入った段ボール箱がバランスよく乗っている。

 蒸し器も在庫を1個残して、残りの3個をビニール袋に入れてリヤカーにくくりつけてある。

 ドッグフードは…… ワンゾウの背中に、ワンゾウ手持ちの布に包まれて、大切に背負われている。

「赤い色のおにぎりは、冷気の溜まる洞窟に置いておけば、明日に食べても大丈夫だよ。サツマイモも2、3日、乾燥させた後、冷気の出る洞窟で保存してね」

 ニコニコと笑顔で告げるミサキにワンゾウは申し訳なさそうな顔をする。

「ミサキは店やってんだよな…… それなのに、こんなに貰っちまって…… 本当は買わなきゃなんねぇのに」

「困ったときはお互い様だよ。それに、サツマイモや果物におにぎりは売り物じゃないから安心して。足らなかったら、また取りにおいでよ。苗を植えて実るのは4か月以上先だし、足らなくなるだろうから。リヤカーは無いと困るから、使い終わったら返しに来てね」

(その時には、また手料理を振舞おう)

 そうミサキが考えていると、ワンゾウは腰元に着けてある小さな袋をミサキに差し出した。

「お金はねぇけど、女ってのはキラキラしたもんが好きなんだろ。

 干上がった川で食い物探した時に、綺麗だったから拾った石ころなんだけど………

 お金の代わりになんてならねぇけど……」

 そう言って説明するワンゾウから、ミサキは笑顔で受け取った。

「ありがとう。大切にするね」

「ミサキ、ミサキの店って何て名前なんだ? 村の皆にミサキや店の話したい」

 ワンゾウの言葉に、ミサキは少し考えてから、店の名前を口にした。

「コンニビだよ」

 ちょっとしたいたずら心。

 本来なら、安勝商店あんしょうしょうてんという名前がついているのだが、看板もないし、おばあちゃんが得意げにコンニビコンニビとミサキに言うものだから、島の中では、面白がってコンニビと呼ぶ人も増えてきている。もともと、おばあちゃんの名前であるサキから、サキばあちゃんの店。サキちゃんの店。ミサキちゃんのおばあちゃんのお店などと呼ばれていて、誰も安勝商店あんしょうしょうてんとは呼んでいなかった。

 ならば、こちらの世界の人には短くコンニビと名乗っても良いかな? とミサキは思ったのだ。

 さすがに、コンビニと名乗るほどの店構えではないことは知っていたので、おばあちゃんを見習ってコンニビと。

「こんにび? コンニビ! 良い名前だな。ミサキありがとうな」

 少し進んで振り返ってワンゾウは手を振る。ワンタは荷台から、ずっとミサキに向かって手を振っている。

 二人の姿にミサキも手を振り返したが、瞬きした後ぼやけるようにワンゾウとワンタの姿はミサキの目には見えなくなった。


「綺麗な石かぁ。記念にガラス瓶にでも入れて飾っておこうかな」

 引き出しの中に、海苔やジャム、佃煮などの使い終わった瓶が綺麗に洗って取ってある。蓋は可愛くないが、そこは布か何かで覆って可愛く装飾すればいいかと、ミサキは考えながら、ワンゾウからもらった袋を開けて、顔が引きつった。

「川で拾ったって言ったよね……」

 袋の中には米粒ほどの金色の塊が沢山入っていた。

「これって砂金? どう考えてももらいすぎ…… これ街で換金すれば食べ物買えたんじゃ……」

 テレビで見たことのある砂金よりも、綺麗に輝いている状態のものに、ミサキは途方に暮れた。

(どうしよう? 次に来た時に価値があるモノだって言って返せばいいかな?)




 ※ ※ ※



 ミサキに手を振り進むと、すぐに魔の森の外にワンゾウたちは居た。 

 日はまだ落ちてはおらず、それでも早朝に出て行ったワンゾウたちが戻らないことを心配してか、動くのもつらいだろうに村の皆がワンゾウとワンタの名前を呼びながら探してくれていた。

「いま帰った~ くいもんももらってきたぞ」

 張り上げたワンゾウの声に、歓声が上がった。

 両親だけならともかく、村人全員となると、1人1個食べれるかどうかと思っていた唐揚げは、タッパーにミサキが詰めてくれていたときよりも量が増えており、気のせいか、タッパーも大きくなっているような気がした。

 おかげで、1人3個は食べれた。

 村人たちは唐揚げの美味しさに顔を輝かせ、口の中に広がる肉汁に幸せを噛みしめる。

 おかかおにぎりと鶏牛蒡ごはんのおにぎりの味の違いに驚き喜び、一口ずつ交互に食べたり、1個ずつ味わってみたり。村の皆の尻尾は左右に大忙しに振られる。

 食べながら、ワンゾウはミサキの事コンニビという店の事、様々な実がなる庭や畑の話をした。

 その際に、子供殺しの実の事、梅酒の事も説明する。お酒を嗜む村人が、その甘さに香りに酔いしれて、試しに村でも一度作ってみよう。と言うことになった。


 明日の楽しみにと、赤飯のおにぎりと、サツマイモをミサキの言うとおり、ワンゾウが冷気の出る洞窟の方へと運ぶ。

 村の皆も、サツマイモを下すのを手伝うために、干し草を編んだマットや木の箱を手に一緒に向かう。

 そこで最初の奇跡をワンゾウたちは目にした。

 赤飯のおにぎりを冷気の出る洞窟に運ぶ。

 サツマイモは乾燥させた後、冷気の出る洞窟へと運びやすいように、洞窟の近くにサツマイモを下す。

 そしてサツマイモを下し終わると、リヤカーがすぅーっと空気に溶け込むかのように消えてしまったのだ。


  たぶん、もう行くことはできないだろうな。と、ワンゾウはミサキに、ありがとうと手を振り、ミサキの店や家から出て行った時に確信していた。

 それでも、リヤカーを使い終わったら返しに来てねとの言葉に、もしかすると、もう一度行けるかもしれないと淡い期待を抱いていたのだが、冷気の上がる洞窟にサツマイモを運んだあと皆の目の前で消えてしまったリヤカーに、もう、ミサキのところに行くことはできないんだなとワンゾウは実感した。


 リヤカーが消えてしまうという奇跡を目にしたことと、久しぶりにご飯をしっかり食べたこと。しかも、そのご飯は、今まで見たこともなければ食べたこともない美味しいご飯。 

 そのことにやる気になった村人たちは、ワンゾウの指導の下、木鍬きぐわを持ち寄り、畑を耕し、サツマイモの苗を植え、水魔法を使い、植えた苗に水を上げるのを日が暮れる頃にはやり終えた。

 そして、翌朝、ワンゾウや村人たちは二度目の奇跡を目にした。

「おらが辿り着いたのは神様の庭だったんだろうか……」

 呆然とするワンゾウや村の皆の目の前に広がるのは、青々と生い茂ったサツマイモの葉。

 掘り出してみれば、丸々とした大きなサツマイモが実っている。

 歓声が上がった。

 涙を流して喜んでる者もいる。

 村人総出でサツマイモを掘るまえに、ワンゾウはミサキに教わったことを思い出す。

(もしかしたら…… また植えたら収穫できるんじゃないだろうか?)

 ワンゾウはミサキに教わった通りにツル苗にとツルを切っていく。そして、収穫が終わった後に、また村人総出で畑に植えてみた。

 翌朝三度目の奇跡は起こらなかった。すこし、がっかりした雰囲気が村人に見えたが、皆、これが普通なんだとすぐに気が付く。

 昨日の奇跡は、神様が自分たちを助けるために起こしてくれた特別なことだったのだと。


 サツマイモは順調に育ち、涼しくなる頃に収穫ができた。

 子供殺しの実をウメと村人たちは呼ぶようになり、ウメシュ作りに成功したことから、翌年にはウメシュの材料として、蜂蜜とウメをセットにして売るようになり、手軽に買えるショッチュウを使うだけで試飲した甘さと香りのある酒が飲めるようになるのならと、作り方が簡単なこともあって年々飛ぶように売れていくようになり、村は蜂蜜だけを売っていた時よりも潤うようになった。

 

 サツマイモは村の痩せた土地でも収穫ができ、日照りの年も村を食糧難から救い続けた。

 村の消費を越えた余剰分のサツマイモは街へと売りに出され、それを見つけた、ショッチュウを作っている商会の会長が、「麦も好きだけど、俺は芋派なんだよ」と喜び泣きながらサツマイモを売ってくれと村を訪ねてきたこと。

 ウメシュとサツマイモ それらがもたらした騒動、ワンゾウがドッグフードを開けた時の事。それはまた別の話。




「ちょっと前はな、村の外に広がるあの森は魔の森って呼ばれてた。

 でもな、あれは神様の森だ。神様の庭を守っていて、困ったときは助けてくれる。

 おらたちは、コンニビって神殿に住む神様の使いのミサキ様に助けてもらった」


 魔の森の南側に位置する村人たちは口を揃えて、村を訪れた人や、新しく生まれてきた子供たちに何度も同じことを言った。信じようとしない者には、神からの贈り物だと、金属製の蒸し器を見せた。

 それを高値で欲しがるものも居たが、村人たちは頑なに売ろうとはせず、神の御意志だからと、神の使いから教わった蒸し料理に日常的に使用した。

 もちろん、心無いものによって盗み出されることもあったが、なぜか、村のあるべき場所へと、蒸し器は盗まれてもいつの間にか戻ってきていたという。




 




 


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