引越し(1話目しか掲載してません)
本小説は、指摘を受けたため、18禁に引っ越しました!
池袋駅を出た俺の目の前に乞食が横たわって、哀れみを乞う眼差しを向けていた。それを見た俺は軽蔑を含んだ目つきでそいつを睨みつけた。
「ふざけんじゃねえ」
乞食を見てそう思った。お前ら結局怠けて稼いでないだけだろう。俺みたいにしっかりと倹約しろっていうんだよ。
俺は常日頃から周りの人間に「ケチ」という烙印を押されていた。現在暮らしている東京には大学生として出てきていたが、実家は貧乏で、親からの仕送りなんぞまともに貰えない俺は、財布の紐を引き締め日々暮らすしかなかった。貸した金は期日を決めてキッチリと返してもらう、人には絶対におごらない、割り勘の時は消費税にまでこだわる、こういった一円単位にまでこだわる様が、いつの間にか俺に「ケチ」という称号を獲得させていた。
何とでも言うがいい。TVか何かでもよくやっているけど、世に言う金持ちってのは、その多くが「どケチ」なんだ。一円を笑う奴は一円に泣く。セコセコため込んだ奴が将来には勝つんだよ。俺はそう思うことで、周りの非難を退けていた。
俺はそんな性格からか、あまり多くの友人を持っていなかった。大学入学当初はよくありがちなパターンでテニスサークルに入り、多くの人間と仲良くなった。しかしそれは知り合って間もない頃にありがちな、上辺だけの付き合いだったようだ。三ヵ月もすると、金銭的な感覚の違いが元で、険悪な状態となり、次々と人が離れていった。俺はそのままサークルも辞め、大した交友関係もないままバイト三昧の生活を送っていた。バイトを繰り返しても生活するのがやっとという状態で、付き合ってくれるような女もなく、一人で細々と過ごす他なかった。当然、一抹の寂しさを感じてはいた。しかし俺も強がるタイプの人間だ。意地になって「俺は孤独ではない、孤高なのだ」と信じ込んでいた。
俺は乞食を見て腹を立てながら、池袋駅の地下構内を歩いていた。朝から晩まで、何時の時間でもここは人が洪水のようにあふれている。特に学生や社会人の往来は激しい。皆が何をそんなに急いでいるのかと言いたくなる程、流れが早い。何度も障害物のような人間の波にぶつかり戻されながら進んだ。
俺はいつもここが凄く嫌な場所に感じる。元々、人込みは好きではないし、スリやひったくりが横行しているような噂もあり、切符を買うために財布から金を取り出すのにもイチイチ神経を使う。特に俺のような金への執着心が強い人間には、常に周りの目を気にしていなければならない感じがして、疲れる空間だった。何処からか後を付けられ、金を掠め取る瞬間を狙っている奴がいるような気さえしてくる。それでいて、俺の持っている金は少なかった。ロクに金を所持していないのに、盗られてはたまらない。強烈な猜疑心が胸を渦巻いていた。そんな訳で、俺は人波を掻き分け、足早に地下道を駆け抜けた。
歩を進める内に、俺は現在通っているR教大学の門の前まで来ていた。今日は数少ない友人の一人とここで待ち合わせをしていたのだ。飾り作ったような門の前に立ち、到着してから数十分経ったが相手がなかなか姿を見せないので、俺はイライラし始めていた。腕を組みつつ派手な造りの校舎を見ていると、さんざん俺達生徒から金を搾り取って、こんなものを建造していることに、さらに腹が立ってきた。
全く大学なんてものは金食い虫のような存在だ。あれやこれやと俺達から金を巻き上げて、まるで企業と変わりない。しかも見かけばかりを気にして、校舎の増築や門構えなんかはしょっちゅう修繕しているくせに、未だに学生の使用する教室にクーラーの一つも入っていない。本当にひどいもんだ。
そうして諸々のことにムカつきながらもしばらく待っていると
「わりい、遅くなった」
俺の方に申し訳なさそうに手を合わせつつ歩いてきた男、こいつの名は鴨橋という。友人といったが、俺はこの男をあまり好ましく思っていなかった。こいつは俺と同じ地方出身者ながら、金持ちで鼻持ちならない男だった。金遣いも荒く、ちょっと女がいる席だと、気を引こうというのか、すぐに財布を取出し、何かをおごっていた。
また、実家の父親は会社役員か何かをやっていて、相当に資産がある筈なのに
「俺の家は中流の下だよ」
などとほざき、周りの人間をしらけさせていた。さらに時間を守ることがなく、約束にもいつも平然と遅刻して来ていた。
それと人のことは聞きたがるくせに、自分のことは「秘密」などと言って、何一つ喋らない。周りの気を引こうとしているのかもしれないが、かえって逆効果になり、人を遠ざけていた。
では何故にこの男と付き合っているのかというと、まず奴は羽振りが良く、頻繁におごってくれることが大きかった。金のない俺としてはそれが非常にありがたかったし助かった。それとどういう訳か奴の方から俺に寄ってくるということもある。お互い金銭面で他人と違った感覚を持ち、周りから半ばつまはじきの状態にされていたので、自然とくっついたのかもしれない。でも俺の心の中では奴を友人とは認めていなかったし、認めたくなかった。はっきり言って、奴から良い面を見出だすことは限りなく困難な作業に近かった。「金への変質度」、それだけが俺と奴を結び付けていると言っても過言ではなかった。
今日の待ち合わせは奴からの誘いだった。今朝いきなり電話をしてきて、バイトもなく暇だと言ったら「出てこいよ」と言われ、学校の前で待ち合わせをしたのだ。こいつの誘いに乗るなんて俺もどうかしているな、と思ったが、それが意外な効果をもたらすとは今の時点では夢にも思わなかった。
<本小説は、この先で指摘を受けたため、18禁に引っ越しました!>