表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いいものとわるいもの

作者: 東京 澪音
掲載日:2016/05/31


東京駅から東名バスに乗り込んだ。

普段は電車ばかりで、東名バスにはあまり乗らないけど、なんとなくバスに乗りたいそんな気分だった。


僕は一番後ろの席の窓側に座った。

発車まで少し時間があって、窓の外に見える東京の街を何となく眺めていた。


ドアが閉まり、バスが出発する。

車内案内が流れ、前を向いた僕は、視線を感じた。


その方向に目をやると、斜め前からじっとこちらを見ている女の子に気が付いた。

なんだか凄く見られている。


ニコッと笑いかけてみると、さっと隠れる。

実際には隠れられないんだけど、身を屈めるようにし、どうやら僕を警戒しているようだ。


子供には結構好かれる方なんで、ちょっとショックだったんだけど、怖がらせちゃったらかわいそうなんで、僕はまた窓の外に視線を戻し、流れていく景色を見ていた。


どれくらい走っただろうか?

車内アナウンスが流れ、サービスエリアで少し休憩となった。


僕はトイレを済ませ、少しお腹が空いていたので、サンドイッチとオレンジジュースを買ってバスに戻った。

席に戻る時、女の子の姿が目に入ったが、お母さんと話をしているみたいだった。


再びバスが出発し、車内アナウンスが流れると、また視線を感じる。

その視線の先にはやはり女の子がいる。


気になった僕は、思い切って女の子に話しかけてみる事にした。


「こんにちは!どうしたの?」

そう尋ねてみると、ビックリするような答えが返ってきた。


「おにいちゃんは、いいもの?わるいもの?」

どうやら、いい人か悪い人かを尋ねたかったらしい。


「どっちだと思う?」

僕は尋ねてみた。


「うーん、わるいもの!」

少しショックだったけど、なんでそう思ったのか聞いてみると、黒い服を着ているから!との事だった。

僕が着ているライダースジャケットが、女の子には悪者の着る服に見えたらいい。


少し笑ってしまった僕に、隣のお母さんが平謝り。

女の子は僕に慣れてきたみたいで、気が付くと隣に来てちょこんと座っていた。


お母さんから少し聞いた話、どうやら身体が弱くて、入退院を繰り返していたみたいだった。

今日は病院を退院して、久し振りの外の世界。東名バスに乗るのも初めてだったらしく、最初のうちは結構はしゃいでいたみたいだが、黒服の僕を見て少し警戒していたらしい。


お母さんにも同じ事を尋ねたらしい。

「あのお兄ちゃん、いいものかな?わるいものかな?」


これは名誉挽回しなくてはって事で、僕はさっき買ったオレンジジュースを女の子にあげた。

一応お母さんにご許可をとった。


どうやら食事制限等はない様子。

サンドイッチも半分こして、色々な話を一生懸命僕にしてくれた。


しばらくすると少し疲れてしまったのか、ウトウトし始め眠ってしまった。

お母さんが申し訳なさそうに頭を下げてきたが、気にしないでと伝えると、女の子について少し話してくれた。


これから名古屋に向かうらしいのだけど、しばらくしたらまた名古屋の方で入院し、手術になるらしい。

ご家族の事情なんかも色々あって、お母さんは少し疲れた様子だった。


手術についても当たり障りのない程度で話してくれたが、ひょっとしたら少し後遺症が出るかもしれないとの事。


僕は少し胸が痛くなってしまった。


ほんの少し前に知り合った女の子だけど、とても明るい子。

色々な事に興味津々で、とても真っすぐに物事を見ている。


僕はこの子の様に、世の中を真っすぐに見ているだろうか?

自分を信じて、自分に嘘をついてないだろうか。


なんだか涙が出そうだった。


降り停留所が近づく頃、女の子は目を覚ましていた。

女の子は、僕の左胸の上、襟に刺した缶バッチを見ていた。


どうやらそれが気に入ったらしい。

僕は缶バッチを外すと、女の子の掌にそれを乗せてあげた。


女の子は笑顔でありがとうと言った。

よっぽど気に入ってくれたのか、お母さんにせがんで洋服に缶バッチ刺してもらって、自慢げに見せびらかす。


お礼だろうか?

女の子はかわいいポシェットから飴玉を取り出すと僕の掌に一つのせてくれた。


「おにいちゃんて、悪いものじゃないね!いいものだね!」


どうやら悪いものからいいものに昇格したらしい。


僕は女の子と握手すると、停留所でバスを降りた。


女の子は、手を振り見送ってくれた。

貰った飴を口に入れると、僕も昔食べたイチゴミルクの懐かしい味がした。


先日、洋服ダンスから出てきたライダースジャケットを見てふとそんな出来事を思い出した。


女の子は元気だろうか。


名前も知らない女の子だったけど、僕は今でも君の事を覚えているよ。


今の君が僕を見たら、ひょっとして君の瞳には悪いものに映るかもしれない。


でも僕はずっと君の幸せを願っているよ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ