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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
お家騒動編
7/56

5話 義弟とお茶会をしてみましたが。

お願いします。

「ここが私の部屋だよ。君の部屋とあんまり変わらないと思うけど」


 ルクシオ君の手を引っ張ってご案内。無事閉じ込めることに成功した私はただいま上機嫌で部屋に案内しております。ルクシオ君の部屋と構造は変わらないのに興味深げに見渡すルクシオ君がとても可愛い。本か小物しか置いてないけど、珍しいものがあるのかな。まるで初めて訪れた犬か猫を見ているような気持ちになって心が和む。この拭えきれない野生動物っぽさが彼の魅力なのかもしれない。


「そこのソファーに座ってて。今、紅茶入れるから」


 彼の手を離してティーポットとカップを用意する。正直どの茶葉がどういう味でどんな性能を持っているのかなんて知らないので自分の好きな味にする。よし、アップルティーにしよう。最近読んだ紅茶の入れ方の本を思い出しながら鼻歌交じりに材料を突っ込む。


「この林檎。うちの領地で取れた林檎なんだけどね、なかなか美味しいんだよー。あとで剥いて食べようね」

「…はい」

「ちょっと待ってね、茶菓子もどこかに隠していたような…」

「…」

「戸棚の中に入ってるのかな…ってあれ?」

「…?」

「なんで座ってないの?」


 ルクシオ君は何故かソファーに座らずに棒立ちになっていた。ソファーを見て、私を見て、自分を見て悩んでいる。私は首を傾げながら紅茶を机に運ぶ。


「ほら、座って。一緒に飲もうよ」

「でも…」

「遠慮しないで」

「…」

「もしかしてお尻が痛いとか?持病?」

「違います」


 冗談混じりに言うと食い気味に否定される。じゃあ座ればいいじゃん。不満げに彼を見つめるとすっと目を逸らされる。言ってくれないと理解できないぞ。困ったな…と悩んでいると彼は小さく言った。


「俺のことは気にしないであんただけ座ってください」

「なんで」

「…」


 理由は黙秘か。訳わかんねぇ。無表情本当にわからないからせめて顔に出して。リアクションで読み取るから。

 …あ、もしかして。


「…私と一緒に座りたくないとか?」

「……は?」

「紅茶じゃなくて水がよかった?」

「ちが、」

「そもそも部屋に来たくなかった?」

「違います!」

「じゃあ何よ。ソファーが嫌なら椅子でもいいよ」

「…違います」

「あーもう面倒くさい!」


 私はルクシオ君に思いっきり抱きつく。押し倒して無理矢理ソファーに転がそうかと全体重をかけるが、彼はぎょっと目を見開いただけで私を受け止めた。私の謎の行動に狼狽えている。いや、そこはソファーに押し倒されてよ!


「くっ、手強い」

「あの…服が汚れます。離れましょう?」

「はーーもしかして汚れるとか思って座らなかったの?!服なんて汚れてなんぼでしょ!誰も気にしないよ!」

「でも…」

「あーもうわかった!汚れたよ!汚れついでだよ!汚れついでにソファーに座りなよ!後でどうにでもなるわ!」


 魔法で筋力を上げてもう一度押す。ぐらりと彼の体が傾く感覚に内心やりすぎたかと焦ったが、気の抜けた音と共に沈んだ彼を見て安心する。呆ける彼を押し倒したまま、逃げないようにクッションを押し付けて、漸く私は勝利を収めた。

 逃げたら何度でも押し倒すからな。お姫様抱っこでも俵担ぎでもしてやんよ。

 逃げられないように手早く茶菓子を引っ張り出して机に置く。どこぞの有名らしい店のクッキーを缶ごと開けて、こっそり温め直した紅茶をカップに注いで、やっと完成。本職に比べたら雑すぎるが大目に見て欲しい。


「うちで採れた林檎のアップルティーだよ。美味しいから是非飲んでみて」


 林檎の爽やかな匂いが鼻をくすぐる。見た目だけは上手く出来ているので期待出来そう。甘い香りに頬を緩めて一口口に含む。ふむふむ、ほうほう……。


「……くっそ不味いわこれ!渋っ!うわ、口がイガイガする!なにこれ!?えっ不味!」

「…」

「ごめん、これ本当に不味い。どこで失敗したんだろう。煮出しすぎた?待ってて、すぐに淹れ直すから!」

「……!」


 こんなもん飲ませられねぇと立ち上がって彼のティーカップを手に取る。と、彼は慌てたようにそれを奪い取り、一気に飲み干した。不味いって言ってるじゃん!?


「~~~~!!!」

「なにしてんのっ?!こんな不味いもの…っ、一気に飲んだら熱いに決まってるでしょ!ほら、舌出してこっち向いて!」


 この子馬鹿なの?!人の話聞いてないの?!クール系黒猫みたいな見た目をしてるのに伴ってねぇ!

 つんとした表情を崩して涙目で舌を出す彼に私は突っ込みたくて仕方が無い。この子は見た目の割に慌てんぼうなのかもしれない。残念。けど可愛い。赤くなった舌に氷を入れて早く治るように魔法をかける。


「…どう?マシになったでしょ」

「…ん」

「はぁ、よかった。もうちょっと落ち着いて行動してよ。怪我治すとか初めてしたよ」

「口調…」

「あぁ、口が汚くてごめんね。お嬢様言葉が苦手だから普段はこういう口調なんだ。君も普段通りに自由に話してね。『テメェこの野郎!』とか言っても怒らないから」

「それは流石に…。貴女は公爵様で俺はただの孤児だから…」

「いや、今日から君も公爵様じゃん。私の義弟なんでしょ?」


 何言ってんの?と首を傾げると彼は若干驚いた顔をする。彼は私にいじめられるとでも思っていたのだろうか。心外だ。こんなアニマルセラピー全開な義弟が出来たら構うに決まってる。


「もっと肩の力抜いてよ。取って食おうとしてるわけじゃないしさ。さっきも言ったけど私は君のことが知りたいんだ。急にこんな可愛い義弟ができて存在を無視するって失礼でしょ?」

「可愛いって…」

「急いで紅茶を一気飲みして治癒してもらってる姿のどこにカッコイイ要素があると?」

「……」


 ほら、そのムスッとした顔が可愛いって言うんだよ。全然気づいてないのもまた可愛いし。


「では改めまして、私の名前はセレスティナです。呼び方はセレスティナでもお姉ちゃんでもご自由に。君は?」

「…ルクシオです」

「うん、よろしくね。ルクシオ」

「よろしく」


 うんうんいい調子。ここからが勝負だぞ、私。如何に彼の機嫌を損ねずに聞き出せるかがポイントだ。軽く調べていこうか。


「では早速質問タイムにしようか!君も聞きたいことあるでしょ?順番交代で質問し合わない?」

「わかりました」

「じゃあ初めに…年齢は?」

「七歳」

「んんん」


 渋いお茶を吹きそうになった。

 全然大きくないじゃん!

 まだ十歳いってないじゃん!


「あっ…え、うそ、てっきり十歳越えてるかと思ってた。き、君大人びてるね?」

「あんたも相当大人びてるよ」

「そ、そりゃ……ね。…私は八歳だよ。ふふん、君より年上だ!」

「…やっぱり子供っぽい」

「はいはいごめんなさいねー」


 やっばいどういう事だ?こんなに早く攫われてなかったはずなんだけど。私の勘違いだったのか?そんなはずが…いや、この家が孤児院っていう第三の選択肢を待て待て何言ってんだ私落ち着けそんなはずないだろう。

 おかしいな…と考えていると彼が呟いた。


「あんたは…急に得体の知れない男が義弟になって気持ち悪くないんですか?」

「いや、別に?お父さんの方が数十倍気持ち悪いから大丈夫。急に来たのは驚いたけど、色々事情があったんでしょ?」

「え…だって俺の髪色とか目の色が気持ち悪いって…」

「なんで?どういう常識?私は落ち着くから好きだよ、その髪色。目の色なんて宝石みたいで綺麗じゃん。どこも気持ち悪い所なんてないけど」


 逆にそのつやっつやの髪の毛が羨ましい。私の髪は金と努力で出来ているが彼の髪は天然モノだ。手入れなしでこの髪質、羨ましすぎる。

 それよりも君本当に七歳なの嘘じゃないの?孤児院は何処に行ったの?そもそも孤児院に行ったことあるの?そこまで知らねぇぞ私。


「急に黙ってどうしたんですか?」

「え?次は…な、何質問しようかなって。そうだ、君って趣味とかあるの?」

「趣味はないです。あんたは?」

「私もない」

「貴族なんだから花眺めたり本読んだりしてるんじゃないんですか?」

「君ね…一般の貴族はそうかもしれないけどうちは違うんだよ!花なんて眺めてたら襲われるし本なんてまともな本がない。私だってそんな優雅な暮らししてみたいわ!」

「は…?襲われ…?」

「君も建物から出る時は気をつけなよ。背後見せたら襲われるから」


 うちは一般の貴族とは違うのです。公爵家だからとか自慢とかじゃなくて。

 ただ屋根と壁のある、衣食住出来るサバイバル空間だから。味方が敵になることなんて日常茶飯事だから。主に父が関わると。


「今までどんな暮らし方してたんですか…」

「知らないよ。気がついたらこんな事になってたんだ。怖い、本当に怖い。家に帰りたい」

「…家はここじゃないですか」

「あぁ。そうだよ、ここだよ。不本意ながら。君もこれから毎日体験できるから楽しみにしてて」


 ゲーム内ではメインぐらいの強さを誇ってたキャラだけど、今はただの少年だ。あの獣達に噛み付かれたら死ぬ。最低限鍛えておかないと帰るまでに亡骸になってしまいそうだ。私と同じことさせたら死ぬかな…けどやってもらうしかない。残念だがあの方法は短時間で自衛を覚えるには最適だ。


「君の方はどんな暮らし方をしていたの?」

「俺?俺は…」


 何かを言おうとするが言い淀む。目が虚ろで苦しそうな顔になり、失敗したと思った。

 よく考えてみれば今まで平和に暮らしていたのに、あの馬鹿に攫われてここに来たんでしょ?彼はずっとヒロインと楽しく、平和に過ごすはずだったのに。好きで来たはずではないのに。

 話の流れで聞いてしまったが良くなかった。話が弾んでたからって調子に乗りすぎた。そもそも会ってすぐに孤児院の場所なんて聞けるはずなかった。うわぁ…失敗した。もっと段階を踏めばよかったな。


「…ごめん、今の質問はなかった事にして」

「……」

「好きで連れてこられたわけじゃないもんね…。ごめんなさい」


 静かすぎる沈黙が広がる。…きつい。なんにも話せない。

 小さく彼が、私を嘲るように言った。


「…貴族のお嬢様に話せる内容じゃない」

「…うん」

「今ここで俺達は姉弟になった。だが俺とあんたは違う。あんたの本質は貴族のお嬢様で、俺は薄汚い孤児だ。それはいつまで経っても変わらないし、俺とあんたは別の世界の人間だ」


 だからあんたが知る必要は無い―――と、そう呟いた気がした。


 ……おいクソ親父ぃぃぃ!!!!何をどうしたら子供がこうなるんだよぉぉぉ!!!!おま、ちょ、マジで碌でもない攫い方でもしたのかよぉぉぉぉぉ!!!!!

 すっごい裏事情抱えてますみたいな感じになってんじゃん!なんでこんな年齢の子供が『汚い部分、見てきました』みたいなセリフ吐いてんだよ!おかしいだろ!

 逆にまさかの調教済みなのか?!暗殺者になっちゃってるのか!?ならなんでうちに連れてくんだよ仕事場で使えよぉぉぉ!!!!

 もういい、孤児院送りは無しにしよう。この調子じゃ孤児院自体残ってるかわかりゃしない。ここは一丁、彼の心を癒す為に頑張ろうじゃないか!目指せ、独り立ち!目指せ、誇りある職業!


「ルクシオ、私は君のことなら何でも知りたい。けど今言えないならそれでいいよ。私からは聞かないから…」

「……」


 私は彼を見つめる。その濁った瞳、輝かせてやる。満面の笑顔でクソ親父を殴れるぐらいまで元気にしてやる。なんならそのまま一ヶ月ぐらい動けなくしてもいい。だから―――



「私と家族になってくれませんか」



 ―――私はルクシオ・ハイルロイドに自由を与える。


主人公は苦労している人を見たら助けずにはいられません。特にエドウィンから受ける苦労は身を持って知っているので全力で人助けしようとします。

父のプレゼントは娘に気に入られる以前に犯罪疑惑があがる代物でした。娘から父への好感度は父の愛情に比例して下がっていきます。


ありがとうございました。

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