番外編 それでもこの子は可愛い子
エドウィン視点
少女が狼に炎を放つ。狼はそれをかき消して少女に突進し、飛びかかろうと跳躍した。少女は後退しながら氷の刃を数本打ち込み、鋭い爪を透明な壁で防ぐ。
俺は目の前の戦闘を見て笑みを深めた。
自分の娘がこれほどの実力を隠していたと、誰が思うだろうか。父として、騎士として、これ以上嬉しいことはない。
「……よし!たま、観念しろ!ぽち、ちょっと待って、まだ襲わないで!」
「…ぷすん」
ほら、今日も勝った。なんと鮮やかな手腕か。
当初は1発当てれば終わりと言っていたのだが、丁寧なことに動けなくした上で外した首輪を嵌めている。素早く逃げるこの番犬達の動きを封じるなんて並大抵じゃできない。次はぽちと戦闘し始めた自分の娘を見て、再度笑みを深めた。
そもそもこの子の母親はこの国屈指の魔法使いだった。圧倒的な魔力、効率的な魔力分配、連続して魔法を放つことができる才能、全てにおいて圧倒的だった。そんな彼女がこの子を産んで呟いた。
『私以上に化け物かもしれない』と。
初めはなんの冗談かと思った。天使の笑みを浮かべるこの子が化け物のはずがない。彼女にそう言うと、成長すればすぐわかるとため息をついた。
魔法を使えるかどうかは10歳前後でわかる。大体の子供は10歳を迎えると体の魔力が落ち着き、少しずつ練習する事で初めて魔法を放つ事が出来る。しかし安定感のある魔法を放つにはそれから5年はかかる。魔力が多く、多く呪文を覚えた者だけが『魔術師』と呼ばれる職業に就けるのだ。
この子は8歳の時に才能が開花した。だが魔力は弱く、本人も魔法を使おうとする意志が大きくなかった。だからあの言葉は彼女の冗談だったと安堵した所で……この子が倒れた。
起きたこの子は別人だった。この子の母親に匹敵する魔力を持って目覚め、記憶を失った。もしかすると今回の記憶喪失はこれの影響かもしれない。少女は全ての記憶と引き換えに圧倒的な魔力を手に入れたのだ。
俺は即座にこの子の対応に走った。魔力が多い幼い子供は犯罪者に狙われやすい。まずは急いで警備を固めた。次に念の為に、どうにか魔法に慣れさせた。冷たい反応に何度も心が折れそうになったが、母親譲りの魔法センスですぐに魔力を集めることが出来た。しかし、やる気のない態度だけはどうにも出来ず、手荒だが番犬に襲わせた。見かけ倒しだが相当怖いはずだ。何度か繰り返せば文字通り死ぬ気で頑張るだろうと思った。
結果は良好だった。いや、想像以上だ。彼女が化け物かも知れないと呟いた意味が本当の意味でわかった。
この子は『呪文を必要としない』。普通なら呪文を必要とする魔法職の弱点を尽く無視している。この時点で規格外なのだが、更にこの子は魔法を『一度に何個も作り出せる』。一度唱えるにつき魔法は一つだがこの子には関係ない。『何も言わずに』『同時に何個も』放つ。いかに特異な存在か。
この子が聡いだけまだマシだ。間違いを犯す前に止められる。もしこの子が己の欲に溺れたならば、俺は自分の命を以てこの子を殺すだろう。だがそんな悲劇が起こらないように手を打つのも父の役目だ。
少女がぶつぶつと文句を言いながらぽちの首輪を嵌める。2匹はぷすぷす言いながら、少女にじゃれつき顔を舐め始めた。凄い懐きようだ。うちの子押し倒されてる気がするが…大丈夫だ、きっと。
これならもう心配はいらないな。きっとこの2匹がセレスを守ってくれる。この子も見間違えるほど強くなった。そろそろ仕事場に復帰しても大丈夫なはずだ。
そういえば前に家族が欲しいと言っていたな。一人で食事するのがさみしいと言っていた。気を失う前だから憶えてないだろうけど……。
2匹の涎にまみれたベトベトな頭を撫でる。なんとも恨みがましい視線を受けながら俺は笑いかけた。
「楽しみに待っててな」
不思議そうに見上げるわが子を抱き上げ、頬にキスをした。
3話について、本人は至って真面目に考えた結果あの教育を施しました。主人公の異常性に気づいても自分の教育方針の異常性には気づきません。
ついでに主人公は魔法って何でもありだな程度しか思ってません。
魔法については深く追求しないでいただければ嬉しいです。
ありがとうございました。




