34話 長くも変わらず激しい日々でした。
成長しました。
主人公十五歳
ルクシオ十四歳
殿下十五歳
ディーア十六歳
です。
お願いします。
街に行けば攫われて、パーティに出席すれば襲われる。そんなバイオレンスな日々が過ぎ、私は十五歳になった。
あと一年で漸く乙女ゲームの舞台に立てる年齢だ。恐ろしく長かった。
八歳の時にこの世界の悪役だと気が付いて。
九歳の時は戦闘一色の誕生パーティに出席させられて。
十歳の時は治癒師の試験だと魔獣狩りの遠征に連れられて。
十一歳の時には五年に一度の祭りに休みなしで働かされて。
十二歳の時は鍛錬場の古株なんて言われるようになっていていた。
十三歳になると白に対抗できると総当りをやらされて。
去年の十四歳、とうとう私は治癒師と魔術師の二刀流で戦闘員に任命された。
…うん、よく生き残れたよね私。わかってたけどこんなにキツいとは思わなかった。あいつらは私をなんだと思っているんだ? 何故全力で戦闘員にしようとする。
大人衆の卑劣な罠により、今や私は赤や白に匹敵する緑と言われている。白のルクシオが戦う前に降伏したり赤のディーアが戦闘を避けるからその認識はさらに強くなり、誰もが認める戦闘員にされてしまった。
違うんだよ皆。あいつらは…あれだ、幼馴染だからそうするんだよ。私が強いんじゃない。毎年の誕生パーティは勝ってるんだろう、なんて言わないでほしい。あれも毎年恒例のイベントだ。皆そういうノリでやってるんだ。私が強いんじゃない。…てかまさか十五歳になるまで白服出席とは思わなかった。
とりあえず、自分の染み付いた生存本能に感謝するしかない。
着慣れた騎士服に袖を通す。この服は何代目だろうか。無茶な命令のせいで破り続けて数年、十数回は取り替えている服だ。色んな人に成長期かなと生暖かく見守られたのを知ったのはつい最近の話。成長期で服破るってどんな成長の仕方だよ。脱皮か何かですか?
白か赤にと勧誘される日々を乗り越えてきた緑。これからも緑のままであり続けたい。だから破るような仕事はやめて欲しい。
隙あらば更なる高みに連れていこうとする大人衆の笑顔を思い出してため息をつく。また最近何かやらかそうとしているみたいなんだよね。今度はなんだ、私対緑の総当たり戦か? 勝てば出世の白行きか? 大人が絡むと碌なことにならない。歪む眉を揉んで大きな鏡を見た。
ゆるくウェーブのかかった桃色の髪にぱっちり大きな蒼い瞳。シミ一つない真っ白な肌にバラ色の頬。ぷるりとした桜色の唇は可愛らしく弧を描き、全体的に小悪魔な印象を受ける。
数年経てば私も見た目だけはお嬢さんになった。そりゃ十五歳だもんな。結婚出来る年らしいし今が花盛りだ。結婚…したくないなぁ。
ついでに体型は予想通りの低身長だ。この国の男女平均身長である百七十に届かず百五五。伸びる気配もないちびっこ身長だ。
会話する時は基本覗き込まれる体勢、時々気付かれずに素通りされる。そのくせ胸は成長しまして少し大きめで、戦闘云々で腰は引き締まっている。事情はともかく体型もゲームキャラらしい見た目に成長した。
ああ、ゲームキャラらしいと言ったからには勿論。
「……どこから見ても悪役令嬢だ」
どの角度から見てもセレスティナ・ハイルロイド。ゴスっている衣装が最高に似合うあのセレスティナ・ハイルロイドだ。私は見事ちっこくて、小悪魔で、悪役のセレスティナになっていた。
うーん、毎年だんだん近づくセレスティナ・ハイルロイドを否定し続けてきたがもう無理。十五歳で完成系だ。十七歳になれば完璧なセレスティナになるのだろうが……ゴスった制服でも作った方がいいのかな。ここまでくれば銀髪が良かった。いつか銀髪にして完全体セレスティナを作ろう。
「…まあ、このピンクも似合ってる」
けどヒロインの方が似合っている。
私は色違いセレスティナの髪を編んで上で一つに纏める。所謂お団子といわれる髪型だ。以前殿下が一番マシだと編んでくれた。あの殿下が『マシ』なんて言葉を使うのだから余程騎士服が似合っていないのだろう。知ってるけど…知ってるけどこれが作業着なんだ。これ以外は着られない!
最後にもう一度自分の姿を見ておかしな所がないかチェックする。…よし、大丈夫だ。
「今日も一日頑張りますか!」
行ってきますと部屋に告げる。何も反応がないのを確認してから扉を閉めた。
廊下を歩きながら今日の予定を確認する。
午前は新入治癒師の教育、午後は遠征の打ち合わせと鍛錬場。今日はまだ軽い方だ。酷い時はここに対魔術師戦と銘打った集団リンチと後片付けが入る。
遠征が近いから体調を整えろって事かな。えー、あのルークさんが…? いやいやいや、ありえないでしょ。こういう日は大体後から追加されるから今日は全体的に前倒しにして動こう。特に午後はヤバそうだ。鍛錬場とか悪い予感しかしないもん。今日は魔力温存の方向で行こう。
なんだかんだで真面目に仕事をこなそうとする自分から目を逸らしつつ予定表を折る。
ルークさんのためじゃない、ルークさんのために働いているんじゃない。自分の給料の為に働いているんだ。そうだ、金のためだ。と、どうでもいいことを念じながら角を曲がろうとすると誰かとぶつかった。
って痛ぁっ! 角が当たったっ…!
「…あ?」
上から大荷物を持ったそいつのぼやけた声が聞こえる。その声は嫌に聞き慣れた気だるげな声で……くそ、朝っぱらから碌でもない人間と会ってしまった。
顔を顰めて立ち上がろうとすると榛の瞳と目が合う。ぼんやりとした力のない目だ。ルクシオ並に何を考えているかわからない。
目を逸らして逃げようとすると不意にゆるく笑って、丁度いい所にと呟いて…急に荷物を手放した。
「っ、ちょっ、何してんの?!」
起き上がってる途中に何をする! 咄嗟に横へ跳んで凶器から逃げる。当たれば死ぬような硬質で低い音を聞いて目を剥いた。や、何してんのこの人!?
「よう、おはよう」
「…」
「朝から元気だな」
「……」
おはようじゃないよ! もうちょっとで御愁傷様だよ!
不敵に笑うディーアをきっと睨むが、身長が高すぎて何も見えない。ぶすっとしながら立ち上がって再度睨むと等閑に流された。
やはりこいつは手を差し伸べようとはしない。そもそも謝る気など一欠片もない。どうせ勝手に当たって勝手に吹き飛んだぐらいにしか思っていないのだろうな。これで女にモテるとか攻略対象は恐ろしい。
こんなやつと話していたら時間が無くなる。謝ってるだろと面倒そうに言うディーアを無視して通り過ぎようとすると、頭を鷲掴みにされた。いや、団子を鷲掴みにされた。
「まあ待てよ。こんないい天気なんだ、一緒に執務室まで行こうぜ」
「私の中では曇りはいい天気じゃないんだ。ごめんね、手をどけろ」
「動くなよ。これちぎるぞ?」
「ちぎって通してくれるならちぎってもいいよ!」
「んなわけねぇだろ?」
「ですよね!」
あははと楽しげに笑うディーアがいと憎し。こういう所で身長の差が出てくるんだよ。顔が殴れない。
いつの間にか私よりもぐんと高くなった同僚の足を踏むとその前に避けられる。団子を握る手を叩こうとすると止められた。せめて一撃でも喰らえ! 脛を蹴ろうと足を振り上げると軸足を蹴られて倒された。く…赤騎士強い!
「じゃあ行くか。荷物は任せた」
「嫌だ!」
「はっ、廊下で寝るぐらいは暇なんだろ? 困ってる同僚を助けるぐらいしてくれよ」
「寝てないし! 暇じゃないし!」
「お前ならやれるやれる」
「出来るか!」
ぎゃあぎゃあ騒いで荷物の押し付けあい。朝からうるさいと誰も言ってこないのは、これを聞いて起きてくる人が出てくるぐらい毎日やっているからだ。なかなか終わらない時は誰かが私の頭をタイムウォッチのように押して止めてくる。
私はアラームじゃないんだけど。この団子はボタンじゃないんだけど。けど今日はディーアが掴んでいるから誰も止めに来なかった。
「うぅ…絶対運ばないから!」
「ああ、別にいいぞ? 立って寝るのもまた一興、仕事が始まっても掴んでやる」
「くそか! 仕事しろよ!」
「生憎今年から仕事は無いもんでな。時間は有り余ってるんだ」
「え…?」
え、ディーア…クビになったの?
彼のまさかの一言に言葉を失う。将来働かずに養ってもらうと言っていたディーア。この国の番一直線の先祖返りとどうでもいい女に囲まれて嫌な顔をしていたディーア。彼は漸く職から離れたのか。…おめでとう。私も退職したい。
思わず羨ましいなと呟いてしまう。養ってもらうのは嫌だけどここで働くのも嫌だ。他国に雲隠れしたい。するとディーアに肩を叩かれた。大丈夫だと言う彼を見上げるとにやりと笑われる。
「お前も来年から学園行きだろ?」
「……ああ、なるほど」
学園送りか。クビじゃなくてただの長期休暇だった。
そういやディーアは十六歳だっけ? あまりにも老け顔…じゃなくて大人びているからもっと年上かと思っていたよ。そうだよね、あいつらが有望株を捨てるような真似するはずがない。
「…けど君、学園に行かなくとも頭良いでしょ? 止められなかったの?」
ディーアは何でもソツなくこなす男だ、勿論勉強も出来る。学力的には私の方が上だが本気を出せばすぐ抜かれるだろう。ハイスペック美形は人生イージーモードで羨ましい限りだ。
だからこそ学園に行かなくともいいと思う。文官に転職するわけでもない。新たな才能を伸ばしに行くわけでもない。今の時点で仕事に支障が出ていないのに行く意味があるのか。
首を傾げると鼻で笑われる。美形は鼻で笑うなんて行為をしても美形である。
「嘗めんな、そんなヘマするかよ。ちゃんと上にはもっと勉強をしたいと言っておいた。学園を卒業した方が見栄えもいいしな。あっちからも行ってもいいと許可が下りた」
「へ…へぇ。そこだけは真面目なんだね」
「そりゃな。だってここから離れられるんだぞ? 仕事をしないで三年間も遊べるんだぞ? 行くしかないだろ。俺な、あっちに着いたら全力で寝ようと思ってるんだ。もう授業なんて一回も出ない、ひたすら自室で寝る。…とりあえず養ってくれそうな嫁だけ探すか」
「(ここに糞な攻略対象がいる…!)」
完璧だろ!と嬉しそうに言ってくるディー坊。単位をどう取るのかよりも本編をどうするのかよりも、こいつが本当に攻略対象なのか聞きたくなる。
ヒロインはこんなのと恋愛するというのか。顔以外いい所が無いこいつのどこに惚れるポイントがあるんだ? 甘い囁きをされる=養い人にロックオン、でしょ? 大丈夫なの?!
もしかしなくともディーアから憐れな少女を助けるが悪役の仕事なのだろうか。逆にいい人だと言われそうなのだが。…待てよ? それで私はディーアに殺される、のか…? え、普通に嫌なんだけど。下衆で糞で最低な同僚に殺されるとか死んでも死にきれない。
「…という事だ。これを執務室まで運んでおいてくれ」
「却下。仕事ないんでしょ? 自分で運びなよ」
「俺ってか弱いから運べないんだよな。うん、そうそう」
「嘘つくな! さっきまで持ってたじゃん! それにこの前上から落ちてきた殿下をキャッチしてたでしょ!」
「アルは軽いからな」
「殿下で軽いならこれってどんだけ重いんだよ! 何が入ってるんだ!」
「俺の三年間の睡眠道具に決まってんだろ」
「殿下一人分の睡眠道具…重いのか? いや、三年分だから軽いのか?」
「……君達、何の話をしているのかな?」
呆れたような綺麗な声。あ、と後ろを向くと声と同様呆れた様子の殿下が立っていらっしゃった。今日も美しゅうございますな。眩しい限りでございます。
私とディーアの言い争いが終わらない時は基本殿下か大人衆がやってくる。仕事場より離れたところでやっているはずなんだけど…。
しかし今日の殿下は少し不機嫌だ。微妙に眉間にしわがよっているのは軽い軽いと連呼されたからだろうか。
「言っておくけどセレス嬢より重いからね!」
「比べるの私ですか?!」
合っていた。
てか殿下…そこは箱より重いとかディーアと同じぐらいとか言って欲しかった。私基準とか重さがわかりそうで怖い。
ヒロイン成分が注入されてしまった殿下は相も変わらずヒロインとルークさんを足して二で割ったような容姿をしている。なんだろう…キレイめの可愛い系男子? 中性的でドレスを着せたら絶対似合う見た目をしている。しかしながら身長は高い。ディーアより低いが百七十は余裕に超えているだろう。ヒロインは体型も美女だった。
頑張って太るもん、なんて聞き捨てならない宣言をする殿下。頑張ってくださいと言うのが正解…なのだろうか。それともそのままの君が綺麗だよと言うのが正解なのだろうか。
「太れ」
「うん!」
「(頑張れが正解か)」
男心が理解出来ない今日この頃。ディーアに遅れて頑張れと言うと華やかな笑みと共に頷かれた。そしてセレス嬢も頑張ってねと肩を叩かれた。
いや、あの…殿下。そんな女子っぽくきゃっきゃしていう台詞じゃないですよね? 人によっては地雷な台詞ですよね。……苦笑いしかない。今度落ち込んでいたら太れと言ってみようか。
「あ、そうだ。セレス嬢」
「なんですか?」
「今朝帰ってきたよ」
殿下が私の団子をふにふに触りながら言う。思い出した、ってどれだけ体重に集中してたんですか。てかお前も団子触んなよ。
「帰ってきたんだよ! 帰ってきたんだよ!」
「殿下、聞こえてますって」
「嬉しくないの?」
「嬉しいですよ」
嬉しいけどこうもテンションの高い人を見ていたら冷静になるって言うか…ね。いや、久しぶりに会うからものすごく嬉しい。ただその嬉しさを出すタイミングを失ったような…。
「えぇー…セレス嬢、冷たいよ。もっと喜んでもいいんだよ?」
「いやぁ、殿下は可愛いから私の分まで笑っておいてください。私は本人が来るまで保存しておきますよ」
「わかった! 笑っておくね!」
にこーっと満開の花のような笑みを浮かべてぽすぽす押す。…うん、よかったよかった。殿下が嬉しいと私も嬉しくなっちゃうなー、うん。その調子でディーアの手を潰してくれまいか。
嬉しさの連打をしてくる殿下と握りしめるディーアに挟まれて、深くため息をついた。
成長するにつれて主人公戦闘員化が進む恐怖。十歳の遠征でゴーサインが出ました。白にも渡り合えるほどの強さになり大満足です。
主人公含め攻略対象やヒロインが大きくなり本編開始に近い容姿になってきました。しかし性格は変わるどころか酷くなっています。
ありがとうございました。




