31話 お祭り騒ぎになりまして。 前
あまり変わっていませんが改稿しました。
お願いします。
騒がしい秋が過ぎて、吐く息が白くなってきた頃。魔術師ではなく治癒師として復帰した私は、前と同じように治癒や書類仕事などの普通の仕事をしていた。
なんというか…実に平和だ。実験台になったおっさん達や玩具になったディーアのお陰で未だ突然襲われるなんて事件は起きていない。その代わりディーアが一日に十回は治癒を頼みに来るようになった。ありがとうディーア、君は私の盾だ。
とりあえず、白魔術師が本格的に動くようになるまでに色々準備をしなければならない。色々あったとはいえ結果として陛下に守られているという事実が嫌すぎる。
いや、別にこれが私の弱点になるとかじゃあない。だって子供なんだもん、知らない振りをすればいい。けど…なんだろう、壮絶に気持ち悪い。相も変わらず手の平でコロコロ転がされている感じがして嫌だ。心配事が減っていいだろう、と言われればそうなのだが…ねえ?
まあこんな不満が言えるぐらいに平和な日々が続いてました。しかしこれは嵐の前の静けさってやつでして、とうとうお父さんに呼ばれました。
赤騎士団団長室前にて。
基本的に下っ端である緑騎士は白騎士や赤騎士の棟に行くことが出来ない。だから私がこの扉の前に立つのは初めてだ。正直お父さんの部屋とか呼ばれても行きたくなかったのだが…赤騎士様が迎えに来たのだから仕方が無い。
私は案内してくれた赤騎士に感謝の意を込めて礼をする。彼はいいから早く入れやと目で主張しながら礼を返してくれた。こんな様子なのにすぐさま仕事に戻らないのは私を送り届ける義務があるかな。…ごめんなさい。すぐに入りますとも。
軽く三度ノックして名前を告げると、父から入れと声が掛けられる。今度は何を言われるのだろうか。対応しきれるだろうか。大きく深呼吸をして、決心がついた所で扉を開けた。
「やっと来たな」
扉を開けると何故かルクシオとお父さん。待ってましたと言わんばかりに父が笑みを浮かべる。
お父さんにルクシオ、そして私。何故だろう、この組み合わせにいい思い出がない。家族なのだからよくあるはずメンバーなのに…不思議だ。徐々に濃さを増す嫌な予感を振り払って私はルクシオの隣に立った。
「お父さん、何の用?」
「なんだセレス。お父様が会いたかったから呼んだではいけないのか?」
「仕事場に私情を挟むなんて驚きが隠せない。よしルクシオ、用事は無いみたいだから帰ろうか」
「そうですか。そういう時もありますよね」
「まあ待て。ちょっと待て」
えぇ…帰りたい。
私は止めに入る面倒な父に顔を顰める。すると父は妙に真面目くさった顔で我慢しなさいとばかりに床を指してきた。私の心が歪んているからかな、来た時点で無事に帰れると思うなよと言われているようにしかみえない。てか我慢させている本人にやられるとイラッとするなそのジェスチャー。
不満たらたらにわざと足音を鳴らしてそこに立つ。伝われ私の気持ち。すぐさま帰らせろ! キッと睨むと満足げに頷かれた。伝わらなかった。やる気見せてるわけじゃねぇよ。
「一週間後の神鳥祭についてを話そうと思ってな」
私の抵抗を物ともせずお父さんが言う。その言葉は予想とは違うものだ。てっきり今から戦場送りだーとか言われるのかと思っていた。…ふむ、神鳥祭…ねぇ?
神鳥祭とは太古の昔、竜と鳥がこの地を奪い取…支配した時から始まる祭りだ。とある神鳥と呼ばれた先祖返りの誕生を祝うもので、国を挙げて盛大に祝う。その為か鳥の先祖返りのテンションが上がりまくる時期でもある。
これだけなら私達に関係の無い祭りに見える。が、実際はそれ以上の意味を持っていた。私達鳥の先祖返り以外はこっちが大本命と言える。
それは…誕生日なのである。自分達の。
この国は生まれた時も場所も関係無く、神鳥祭を迎えると皆が歳を一つとる。年末とか年明けとかじゃなくこんな微妙な時期に、だ。まあ神鳥様の誕生日だから仕方が無い。竜も鳥も狼も皆関係なく誕生日会を開く。
という事から考えられるのはこの城で誕生日会を開く事。陛下があれだから舞踏会とかは気が向けば開く程度にしか開かないが、誕生日会は真面目に開くらしい。
城がパーティを開くと貴族達がやって来る。彼等を守るためには勿論警備する必要があるので騎士がたくさん必要だ。だから父に呼ばれた理由は警備の手伝いか、治癒師としての仕事か。けどそれなら緑か治癒師の先輩に呼ばれるはず、意味がわからない。
「あの…すみません。神鳥祭って何ですか?」
全く意図が掴めない父の言葉に首を捻っていると、不意にルクシオが聞いてきた。そうか、ルクシオは初めてだもんね。誕生日会を開く日だよと言おうと口を開くとその前にお父さんが答えた。
「鳥の先祖返りがこっそり鳥になって飛び回る日だ」
「え、そうなの?!」
「なるほど…楽しそうですね」
「楽しいらしいぞ? 時々遊びすぎて帰ってこなくなるのが困りものだな」
「そこら辺で死んでるんじゃないですか」
「三、四日で帰ってくるから死んではいないだろう」
なんて会話をするんだ男性陣。人間として見てやってよ。完全に鳥として見てない? それにルクシオ、目がキラキラを通り越してギラギラしてるんだけど…狩る気なの?
それに鳥さん、そっちもテンション上がりすぎでしょ。先祖返りは隠れるものって言ってなかったっけ? そんな事をしているからルクシオに狙われるんだよ。自業自得だよ。
「ああ、あと鳥料理が食えない日だな」
「だろうね!」
その日に鳥料理を食べると一斉に嘴が向かってくるらしい。鳥の先祖返りが怖すぎてやばい。…ってそういう話をしに来たんじゃないでしょ。なんだよこの話題。
「お父さん、そろそろ本題に入ってよ。面倒臭いよ帰りたいよ」
「ん? ああ、そうだな」
こほん、とひとつ咳をして姿勢を正す。私とルクシオを交互に見てくる父は至極真面目そうに見える。父は本当に顔面詐欺だ。ある意味すごい顔を見つめていると、これまた至極真面目そうな口調で私達に告げた。
「神鳥祭の舞踏会に『公爵の子供』として参加するように」
「…は?」
「服装は必ず白。セレスはドレスが着たければ着ればいい」
公爵の子供として参加する。要するに騎士でも治癒師でもなく『ハイルロイド』として参加しろという事だ。
いや、けどちょっと待って。舞踏会は成人してから出席出来るもの、子供の私達が参加するものじゃない。え、なに、『舞踏会』って何かの隠語なの? という事はやっぱり警備…と思ったけどドレス着用の警備とか舐めきってるな。多分違うや。
「セレス…警備がやりたいのか?」
「いや、やりたいわけじゃないけど…」
「すまんな、この祭りは鳥が勝手に監視をするから人では足りているんだ。また今度無理矢理にでも空けてやるから今回は我慢してくれ」
「やりたくないから空けないで」
お父さんの冗談は冗談に聞こえないから怖い。
「……という事があったんだけどね」
「はあ、そりゃ大変だったな」
お父さんに呼び出された次の日。今朝から襲われたらしいディーアの怪我を治しながら昨日の話を愚痴っていると、気の抜けまくった声で返事をされた。
さっきから『はあ、そりゃ大変だったな』しか言ってこない。しかも話している途中にも『はあ、そりゃ大変だったな』。てか朝から『はあ、そりゃ大変だったな』しか言ってない…? 絶対何も聞いていないよね。
傷口を広げてやろうかな。それとも痛みを与えながら治そうか。ばっさり斬られた傷口にペンを突き刺そうと腕を振り上げたら止められた。
「お前な、話を聞いてやってんのに何が不満なんだよ」
「…へえ、話聞いてたんだ。じゃあ何を言ってたか言ってみてよ」
「あー…あれだ、あれだろ。うん、あれの話だ」
「やっぱり聞いてないじゃん!」
掴まれていない方の手でばんばん机を叩くと顔を顰めて睨んでくる。聞いてないのにその態度はなんだ! ちょっとぐらい聞いてくれたっていいじゃん!てか何故また机と体がドッキングしてるんだよ! 眠たいってか。じゃあ永眠しろよ!
ウザそうに睨んでくるやつを睨み返していると、その隙にペンを奪い取られる。あ、と固まっている間に壁に投げつけて破壊された。
くそ、武器が取られた。だがペンはまだ机にある! 代わりのペンを取ろうと手を伸ばすとそのペンも弾き飛ばされた。く…! やはり赤騎士の動きは素早いな。
「……セレスティナ。ペンの代わりにこれはどうですか?」
「あ、鋏ね! ナイスだよルクシオ」
「おいルクシオ、ざけんなよテメェ」
「大人しく刺されろ。押さえた方がいいですか」
「うん。あ、その前にこいつの口に何か詰め込んでほしいな。魔法なんて使わせない」
「なるほど」
「お前らなぁ…!」
「はあ…もう何やってるのさ皆。ほら落ち着いてよ」
疲れたような、呆れたような困った声。がちゃりと開いた扉を見るとげっそりした顔の殿下が立っていた。あー…殿下が来てしまった。タイミングが悪いなぁ。
しかしながらですが殿下。ディーアが突っ伏しながらも抵抗して、ルクシオがそれを押さえつけて、私はディーアに鋏を向ける。私とルクシオが疑いようもなくディーアの命を狙っているのですが、この状況は無視ですか。特に慌てる様子もなく落ち着けで止めようとする殿下はある意味凄いと思う。
「ディーア、悪い事をしたなら謝りなよ。ルクシオも煽らないの!セレス嬢は鋏を置いて。許してあげてよ」
てか見てもないのに的確に状況を判断出来るのが凄い。流石突拍子も無い行動をする大人衆に囲まれた王子様だ、対応力が身に付いていらっしゃる。
あと少しでぶっ刺せたのになあ…。仕方無しに鋏を置いて、ディーアの口に大量のペンを詰め込もうとするルクシオを止める。ルクシオ…多分その量のペンを入れたら顎が取れると思うの。しかもペン先が喉に来るように刺すとか本気だね。私より殺意に溢れている。
時々変なスイッチが入る狼を隣に座らせてペンを置かせると思った以上に大量のペンが出てきた。この部屋に置いてあるペンを掻き集めてもそんな量にならない。どこから取ってきたんだそのペンは。
心做しか自慢げなルクシオよりも元の所在が不明なペンの方が気になる。何気なくペンを一本手に取って名前を確認してみる…とそこにはエドウィンと書かれていた。そうか、お父さんのか…って多すぎでしょ!
「でさ、君達は何を話していたの?」
あまりの量に戦慄していると殿下が聞いてくる。え、何。聞いてなかった。いつの間にか数えていたらしい五十のペンと残りを隣に置くとディーアが答えた。
「あれの話だ。あれ…あれだ」
「どれ?」
「知らん」
「あ、わかった。神鳥祭だね」
「(つ…伝わるだと……?)」
おかしい。殿下が覚醒した。最早会話など要らないレベルに進化なされた。これがルークさんの教育…? 一体どんな教育をすればこうなるんだろう。恐ろしすぎる。
「いや、このタイミングでの『あれ』は神鳥祭しかないから」
「ああ…なるほど。推察力高いっすね」
「じゃあルクシオとセレス嬢も出席するのかな?」
「舞踏会に出るようにって言われました」
「舞踏会…?」
殿下が舞踏会なんてあったかな…と首を傾げる。あれ、お父さんは舞踏会に参加って言っていたよね? あれは嘘だったのか? 舞踏会なんて知らないようじゃないか。
昨日の話をもう一度思い出すがやっぱり舞踏会って言っていた。おかしいな…。実は無いのかもしれない、と納得しかけた所でディーアがぽつりと呟いた。
「舞踏会…な。ああ、言い得て妙だ。どこから見ても舞踏会だな」
「舞踏会って言っていいのかな…? じゃあルクシオが白でセレス嬢は赤かな?」
「白? 赤?」
「アル、それを聞くのはルール違反だ」
「むう…」
白? 赤? ルール? 何を言っているんだこの人達は。
赤と白で分かれるルールのあるものなんて運動会しか知らない。けどさ、ドレス着用の運動会って何。奇抜な運動会だね。やはり…舞踏会は隠語なのだろうか。
いや、もしかすると女は参加しないのかもしれない。男だけでスポーツをする文化がきっとこの国に…! あれ、それなら何故私は紅組? 女じゃないってこと?
まあ殿下に比べれば女に見えなくとも仕方が無い。お菓子が作れてヘアアレンジが出来てお花を生ける女子なんて今時いないもん。だからと言って女じゃないってのは酷くないか? そんな事を言ってしまえば私以外の女も男だ!
…って殿下の女子力なんて関係無いや。
とりあえず神鳥祭について調べてみようか。もしかすると一般的な意味と違うものがあるのかもしれない。本当ならこの場で聞きたいけど多分教えてくれないだろう。だってディーアが笑ってるんだもん、殿下が何かを言おうとしても止めるだろう。
あれだね、現時点で分かるのは碌でもない事が起こるってことだね。
突然ディーアが取り出した厚すぎる書類を見ないようにペンを仕舞い込む。さあ、まずどうやってここから出ようか。白騎士にでも渡せば書類仕事なんてしなくて済むかな?
書類仕事が終わって全体の仕事が終わった後、私は図書館へ寄って神鳥祭で貴族がする恒例行事について調べていた。太陽が沈み、館内に光が灯る時間だ。多少眠いが人が少ないから散らかしても大丈夫だろう。それらしきものを片っ端から机に置いていく。
まずお父さんが言っていた『舞踏会』について。調べてみればこれはあった。といっても貴族間での近況報告が主らしく、基本的に夫婦参加。報告が終わった夫婦は片時も離れずに各々で祝い合うらしい。踊る人もいれば飲み食いする人もいるみたいだ。
勿論一人でも参加は出来るらしいが、一人参加はほぼいないようだ。そういう人達はさっさと部屋に戻るかそこら辺で会話する。もう舞踏会じゃなくて報告会だね。
これでわかったのは私は舞踏会に参加できないということだ。だって成人すらしていない子供なのだ、参加は出来ない。てか家の長が行くものなのでお父さんで十分。
次に赤と白なのだがこれは…うん、国旗しか出なかった。白の神鳥と赤の竜神。こいつらがこの国の創設者らしい。もう隠れる気ないよね隠れ里。こんなに自己を主張する国旗って初めて見たよ。けど帝国が獅子だったから国旗でバレる事はないのかもしれない。
これでわかったのは白と赤に分かれてする勝負がこの国を賭けた戦いであるということだ。もうあれだよね、鳥と竜どっちが強いか決着をつけようじゃねぇかってやつ。国が崩壊するよ、そんな事やったら。なので赤と白では戦わない。多分違うことをするんだろう。
結果、何もわからず。他の情報は私が知っているものばかりで興味深いものは見つからなかった。これ以上調べても出てこないだろう。はあ…何故こういう時に限って王族に会えないんだ。どうでもいい時は嫌でも会うのに!
私は本を閉じて棚に戻す。こんな遅くまで申し訳ない。司書さんに軽く礼をするといえいえと笑ってくれた。私は気の優しい彼女に感謝をしながら自室に帰っていった。
神鳥祭当日になった。言われた通り白いドレスに身を包んだ私は城の使用人達によって最後の仕上げをされている。
このドレスは昨日家から送られてきたドレスだ。最近は薄く透けた布を重ねてふんわりと仕上げるデザインや宝石を散りばめたデザインのドレスが流行っているらしく、このドレスはそれを取り入れたものになっている。
そしてそのドレスに合うアクセサリーにどでかい魔導具が送られてきた。赤くて綺麗だが…首が疲れそう。てか何故魔導具なんだろう。
それにしてもやはりドレスは恥ずかしい。首ががっつり空いていようが、謎のスリットがあろうがどうでもいいが、このふわっふわのカワイイを全力投入したドレスを着るのが恥ずかしい。
そりゃ子供の時はお姫様に憧れたよ。私だって子供らしい一面はあったんだ。けど大人となった今ではこんなの着て歩けない。え、今は子供だって? 精神が子供になりきれなくて無理。
本当ならいつも家で着ていた白ドレスを持って行くつもりだった。家で着るものとはいえ公爵家の着る服だもん、いい生地だし汚れ一つない。だから作らなくていいかな、と思っていたら駄目だった。うちの使用人は本当にそういう所だけは細かいな…。
「うふふ、セレスティナ様は可愛らしくいらっしゃるから腕が鳴りますわ」
「髪もさらさらで美しいわ。少し残して結い上げましょう」
「折角の魔導具が髪で隠れるのは勿体無いですものね。白いお肌に赤い宝石は残すべきだと思いますわ」
「そうね、編み上げてしまいましょう」
うわぁお、お姉様がきゃっきゃしていらっしゃる。女子力の高い会話だなあ…。
お姉様方、夢を壊しちゃうから言わないけどこの髪は金の力だよ。実はお高いシャンプーとか石鹸とか持ってきてるんだ。断髪させてくれないからせめて綺麗にしようとした結果です。
「お姉様方の方が綺麗じゃないですか。私と違ってオシャレだしいい匂いだし、何よりも大人の魅力が……羨ましい」
「うふふ、ありがとうございます。セレスティナ様も大変可愛らしいですわよ」
「大人っぽく仕上げましょうか?」
「そうですね、大人っぽく…いや、やっぱり遠慮しときます。私の顔に大人っぽいのは似合わない気がする」
「そうですか? お似合いになると思いますよ」
いやいやお姉様方。私は悪役だよ? 大人っぽくしたら悪役感が凄いことになるじゃないですか。もしも学園で悪役をするのなら今ぐらいは普通の令嬢でいたい。
「…いや、ちょっと待てよ?」
私はゴスゴスしい服装の悪役令嬢だ。奇抜だが可愛いを追求した存在。という事はだよ? 可愛いの逆である大人成分を注入すれば悪役に遠のく…?
よしこれだ。やっぱり大人っぽく、と声をかけようと口を開く。が、既にお姉様方が可愛らしくいきますかー! と化粧道具をかかげていらっしゃった。あ、気合入りまくってる。やっぱり変える、だなんて言いにくいな…。
「どうしましたか?」
「えと、その……」
「大人っぽく致しますか?」
「…はい」
「うふふ、わかりましたわ」
「ありがとうございます…」
あああああその『お祭りだものね大人ぶりたいわよねわかるわよ』的な瞳が居た堪れない…!言い訳出来ないのがもどかしい…!くっそ恥ずかしいわ最悪だ!
顔に手を当てて天を仰ぎたい。そのまま空へ飛んでいきたい。ふるふる震えているとお姉様に『緊張しないでくださいね』と微笑まれる。要するに止まれってか。ごめん。
「セレスティナ様は今年が初めてですか?」
髪を結い上げてくれるお姉様が聞いてくる。お父さんの口振りからセレスティナは出席してなかったみたいだし、私も初めてだ。今年が初体験になる。
「そうですね。初めてです」
「それならば一番可愛らしくしなければなりませんね」
「や、別に軽くでいいですよ。あんまり悪目立ちしたくないし」
「公爵家が何を仰っているのです!セレスティナ様がそのようでは周りに示しがつきませんわ!」
「う…うん?やけに熱心ですね」
「ええ…毎年この日を楽しみにしてましたわ。それをセレスティナ様にも味わって欲しくて!」
「お、おう」
よくわからないがいい思い出なのはわかった。あと真面目な祭りってのもわかった。子供ばかりなのに真面目に…何するんだろう。首を傾げる私にお姉様方が優雅に微笑む。お前らも教えてくれる気は無いんだな。
「完成致しましたわ」
「可愛らしいですわ」
「目立った方が楽し…ごほん、いいと思いますわ!」
「うふふふふ」
思った以上に出来がよかったのか、お姉様方が口々に私を褒めてくれるが、時々口籠もって言葉を変えるのが引っかかる。大人っぽいメイク、セレスティナ要素が減っていい感じなんだけどなぁ…どこが変わったかよくわからないけど。まあ、お姉様方が可愛いと言ってくれるんだから可愛いんだ。お姉様方を信じる。
「ありがとうございました。これから行ってきますね」
「頑張ってくださいませ!」
「負けないでくださいね!」
「見せつけていらっしゃいませ!」
……何この気合の入った送り出し。こわい。
ディーアとルクシオを見ればわかりますが、緑騎士も違う棟に行けます。ただ各色の騎士達が行き来しないだけです。仲が悪い訳ではありません。
殿下は別に覚醒なんてしていません。長年付き合った経験から出た答えです。
ありがとうございました。




