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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
開始前生存確認編
39/56

30話 とある晴れの日のトラブルです。

レビューにはコメントが返せない、との事ですのでこの場をお借りしまして。

この作品お初のレビューをいただきました! 然堂木葉 様、素敵なレビューをありがとうございます!

これからも応援よろしくお願いします!


あ、途中視点変わります。

お願いします。

 澄み渡る空は秋晴れの名に相応しく、頬を撫でる風が少し寒い。じんわり冷たくなった手を擦りながら広大な芝生を歩くと、目の前に大きな赤い屋根の城が見えてきた。王城と良く似ている、真っ白な石で出来た大きな城。その前には屋敷を守る使用人達が立ち並び、美しい姿勢のまま頭を下げている。


 やっとついた。私は手前すぎる場所に転移させた陛下の頭を心の中で叩きながら前を見据える。ここからが勝負だ。わかっている、油断したら一発でやられるって。


 ―――ぁおぉぉぅん

 ―――ぉぅおぉぉおん


「っ、来た!」


 左右から姿を現す大きすぎる黒い獣。こういう時にバラが邪魔すぎる。優雅さなんていらないよ! いや、逆にこいつらの身を隠せるように配置している…?



 私はセレスティナ・ハイルロイド。ゲーム内では蝶よ花よと育てられた超絶我侭なご令嬢だ。ごってごての改造制服を身に纏い、学園内でヒロインを邪魔する悪役令嬢ポジション。最後は誰かに殺されるか何かされるのではないだろうか。詳しくは覚えてない。

 覚えてなくとも大丈夫なのか、と自分でも思うのだが多分大丈夫だと思う。何故ならやってない私でも分かるぐらいゲーム内容が狂っているから。

 だってさ、考えてみてよ。私は我侭なご令嬢。大切に大切に育てられたお嬢様だ。そんな子が飼い犬に襲われたり、変態に殺されそうになったり、誘拐されても放置されるだろうか。

 否、断じて否! ただ一言死ぬからと叫びたい。普通は初っ端から死んでるから!

 もしかしなくともゲーム内の彼女もこのような生活を送っていたのだろうか。そしてその過度なストレスを発散するためにあのごてごてしいドレスを…? セレス嬢は強キャラだったのか。

 私の思考は迷走する。


 それはさておき、私は諸事情により謹慎を命じられました。謹慎と言わずにこのまま家にいちゃダメですかね。そっとしておいてほしいんですけど。

 あの事件が起きてからのそれから。結局何も真相が分からず三日ほど放置されて、漸く家に帰ってもいいと許可が出た。その間ルクシオが勉強から逃げたり、ディーアが鍛錬から逃げたり、殿下が現実から逃げたり楽しそうな事が……まあそれは関係ない。

 もうね、あの三日間よ。子供三人の逃走劇よりも三日間のアレがやばかった。


 私はいつ白が来るのか警戒しながら部屋に閉じこもっていた。しかし待てども待てども奴らは来ない。訝しんで窓から覗くと白魔術師がおっさん達を実験台に遊んでいた。そして脳筋な白騎士達はディーアを玩具に遊んでいた。よかった、白サイドはまだ仕掛てくるつもりはないらしい。

 安心したのもつかの間、乗り込んできたのは赤サイドだった。


 聞くによるとどうやら私の作ったセレス鳥(仮)は命令通りにルークさんに突っ込んでいったらしい。だがそこにお父さんとディーアがいたらしく二人が止めた、と。そのまま突き刺さればよかったのに…なんて事は言わないが物凄く残念だ。

 一見すぐに終わったような感じに聞こえる。だが本当はもっと予想外なことになっていた。あの鳥は私が離した後ムクムク育ち、着いた頃には城内で電撃を繰り出せるほどの魔力を取り込んだ魔鳥に成長していたらしい。カラス防止のビリビリがそんな事になるなんて凄い。ばら撒いた魔力の量に自分で引く。

 そしてそのセレス鳥(仮)は私の精神状態を反映したらしくお父さんに突き刺さった。そこは嬉しい。頑張ったね鳥。


 まあそれは特に問題ない。私がやったのは陛下に対する反逆行為? あれはお手紙なので知りません。って事で問題は父が大人しく刺さらず、結果陛下執務室の壁に大穴を開けた事だ。大人しく刺さればすぐに手紙に戻ったのに馬鹿なのだろうか。

 赤騎士達はそんな荒れ果てた部屋に突入してしまったらしい。城内で事件が起きていたからかなぁ、来るのが早い。そういう事がありまして、私は赤騎士様達に大目玉を喰らいました。

 理不尽だ。私はただ善意を込めて手紙を送っただけなのに。ちゃんといい紙も使ったのに酷い。

 ああ、余談だけど十五分に一人回って怒っていくスタイルだったよ。すっごい回転が速かった。あれ、この人見たぞって人が数人いた。赤様は皆理知的だから手を出すって事は無かったんだけど、淡々と怒っていくのが怖かった。何度窓から飛び出そうと思ったか。


 ということで、三日間拷問されてました。はい。

 しかしながら私、セレスティナは説教ぐらいで心が折れる事はない! てか赤騎士達はきちんと筋を通して話してくれるので素直に話が聞ける。説教って国語力が必要なんだね。


 お父さんとかね、陛下とかね。そこら辺になったら、人の話は聞かないわ急に話が変わるわ無茶振りされるわ最悪なんだよ。ベルドランさんなんて会話=戦闘になりそうで会話が出来ない。

 赤騎士の説教はこう…なんだろう、人間と会話してるって感じがしてよかった。十五分コースはもういらないけど普通には会話がしたい。今度勉強も兼ねて誰かに質問しに行こうかな。

 うんそうそう、赤騎士様にね。





「……だけどお父さんになんか質問しない!」

「どうしたんだセレス。威勢がいいなぁ」

「五月蝿い!」


 何故家に帰ってきたのに父がいるのか。いや、帰ってきてもおかしくないけど! おかしくないけど何故このタイミングで帰ってくるの?!


 ぽちとたまの洗練を受けて、使用人達の歓迎を受けて、半刻は経ったのではないかという所で漸く入れてもらえて。やっと我が家だと扉を開くと立っていたのはお父さんでした。

 …ルークさん、嫌がらせなの? 今回の帰省に慰労は含まれていなかったの? 目の前でお父さんがにこにこしてるの。これってクーリングオフ効くのかな。

 頭の中で箱詰めされる父を想像して、流石に無理があるなと肩を落とすと父が不思議そうに見てくる。何をがっかりしているんだと聞こえてきそうである。

 もういいんだ、無理だってわかってるから。今この瞬間から楽しいマイホーム生活は消えてなくなった。


「セレス…この前はすまなかった」

「お父さん……城に戻ってくれたら許すよ?」

「無理」

「やっぱり?」


 なかなか強力な呪いがかかっているようだ。装備しなくとも離れないなんて。


「…はあ、一週間コースか」


 私はこれから起こるであろう出来事に閉じこもりたくなった。




 ***




「家に帰りたい…」

「…」

「もうやだ…家に帰る……」

「……」

「面白くない…飽きた」

「…ルクシオ、うるさいよ」

「うぅ…」


 俺はルクシオ・ハイルロイド。少し前にエドウィンさんに連れられてきた孤児だ。色々と、まさに色々とあって今はこの国で働いている。意味がわからない。何故俺が城で働いているんだ? 去年の今頃は山であいつらの相手をしていたんだけど…。

 ふと目の前に積み上げられた本をちらりと見る。それは算術であったり歴史であったり…まあやった事があるものだ。俺は何故これをやらなければならないのか。これが…白騎士になるための勉強? ならなくていいから帰りたい。


 勉強するなら彼女と一緒がよかった。彼女は物覚えの悪い俺にわかりやすく教えてくれるし、合っていれば頭を撫でてくれる。何よりかっこ悪いところを見せたくないから頑張れた。それが結果として何も知らない俺が生きていくための知識となった。

 けどな…これをやったら結果はどうなる? ただ騎士になるだけだろう? 別になりたくないし俺に必要ではないものだ。それにアリスと一緒とか正直やる気が出ない。褒められたくもないし頭なんて撫でられたらその手を咬み砕く自信がある。

 もう嫌だなぁ…。ただひたすらに家に帰りたい。彼女と日向ぼっこがしたい。


 抑えきれない声が情けない音となって出てくる。俺だって好きでこんな場所に来たんじゃない。ルークが勝手に連れてきたのが悪いんだ。だからこんな声が出ても仕方が無いだろ? もう俺の事は子犬と言ってくれてもいい。いいから家に帰してくれ。


「ねえ…ルクシオってこんな性格だったっけ? もうちょっとさ、こう…『近付くな』的な感じじゃなかった?」

「…殺す」

「ああそれそれ…って何故殺す?!」


 お前のその飄々とした声がいらいらするんだよ。なんかこう…ルークって感じがして殺意が沸く。


 ああもう、あの時俺も連れていってくれと頼めばよかった。彼女がすぐ戻るなんて言うから頷いてしまったが我慢が出来なくなってきた。まだ一日も経ってないのに…。

 くそ、あいつらを殺して回っていた時俺はどうやって耐えていたんだ? …全然思い出せない。こっそり帰ろうかな…。


 そもそもだがルークは酷い。無理矢理ここに連れてきて俺に働けと言う。

 彼女が俺のために取り付けてくれた精一杯の制約は『君の追っ手が来たから自分でカタをつけろ』で潰されてしまった。そして『彼女の名も知られてしまったかもしれない』と言ってくる。極めつけには『臨時収入をあげるよ』なんて言われたら…。

 こいつ…俺に誰か付けているのか? 何故俺の嫌がる事だけを言ってくる。


 仕方が無いから身が引きちぎられる思いで引き受けた。城内の敵―――明らかにあいつらではない人間も含む―――を殺さずに捕らえた。俺にしては真面目にしたと思う。だがルークはそれだけじゃ飽き足らず、アリスに難癖をつけて、俺に外で様子を窺う奴らも殺れと言ってきた。

 俺に殺れと言ってくるのだから国内にいる全員を殺れってこと? そう思って監視兼相棒のエドウィンさんを撒いて単独で殺ってきた。いや、エドウィンさんと一緒でも良かったんだけど…本来単独でやってたからそっちの方が早く帰られるかなと。狼状態で奇襲が一番楽だからな。ほら、どこからどう見ても真面目じゃないか。最新記録だぞこの速さ。


 それなのに賞金は無いとやつは言ってくる。巫山戯るなよ。何のために働いたと思っているんだ…!


「うぅ、あの野郎いつか咬み砕いてやる…!」

「ぶ…物騒だね」

「うるさい!」


 無意識にぐるる…と低い唸りが洩れる。何かに噛み付きたくて仕方が無い。

 出来ればルーク似の血が出る物体は無いのかな。手軽に砕けそうな、苦痛の表情が見れそうな人間は……


 ああ、目の前にいるじゃないか。


 物音一つ立たさずに席を立つ。目の前に座るルーク似の子供は勉強に集中しているようだ、俺が立ったのに気が付かない。細い首だ。一咬みで死んでしまうかもしれない…。


「けどいいよな…」

「……ん? 何が?」

『俺の心の平穏のために…死んでくれ』

「えっおおか…え? ちょ待っ、ルクシオ?!」


 早く帰りたい。


主人公の行く手に平穏なんてありません。父と家はワンセットです。そして一週間チャレンジもおまけについてます。

ルクシオ、帰りたい病を発症。『待て』はしますがその分のイラつきは周囲に撒き散らされます。

殿下の今日の課題『猛獣(ルクシオ)の側で言われた範囲の勉強をこなす事』。あの後鬼ごっこになりました。


ありがとうございました。

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