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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
城内動乱編
36/56

29話 わかりきった結果です。

お願いします。

「―――ふふ、ご苦労だったね」

「いやあ、本当困っちゃったよ。俺達が行った時には手遅れだったからさ」

「だが回収は出来たのだろう?」

「あの…」

「それは勿論! 首尾は上々いい感じ」

「今回は被害も大きかったけど恩恵も大きいね。小躍りしたくなるよ」

「あのー」

「俺も嬉しいな。人手が減ったからどうしようかと思ってたんだ。ちょうど良いから頂戴?」

「ふふ、そうだね。いいんじゃ」


「すみません話を聞いてください御三方! 盛り上がらんでください」


 只今殿下執務室。そこにはメルニア王国の重鎮であるエドウィン・ハイルロイドとベルドラン・オートフェルト、そして王であるルキアノス王がソファーで寛ぎなから至極楽しそうに談笑していた。


 本当ならば私のような一介の治癒師が彼らの会話を止めるのは厳禁である。将軍の言葉は勿論陛下の言葉を遮るなんて誰にも出来ない事だ。その場で斬り殺されたって文句が言えない。

 けどね、けどね…一番の功労者の私達を首輪で繋ぐとか酷いと思うの。せめて床に正座辺りで手を打ってほしい。…じゃなくて、何故ここにこいつらが座っているのか。陛下執務室じゃ駄目なの?


 手錠をかちゃかちゃと鳴らして叫べば大人三人が眉を顰める。私達の会話を遮るとは何事だ、とでも言いたげな目だ。ついでに殿下とディーアが荒波を立てないでくれと言わんばかりの目で見てきた。うるさいな、君達も繋がれてるくせに!

 てかベルドランさん、さっきから何言ってるんですか。全く手遅れじゃなかったですよ。まさに最悪のタイミングで来ましたよ! そりゃあれだけすれば上々でしょうよ!


 私はつい数刻前の出来事を思い出して意味も無く虚空を見つめる。

 詰んだ。私もルクシオも完璧に詰んだ。その証拠があの金髪野郎の、陛下の溢れんばかりの笑顔である。不機嫌そうな表情に隠しきれない勝利の愉悦が見えるのだ、これはもう覆しようがない。

 私は全身に突き刺さる視線から目を逸らして薄く、薄ーく息を吐く。覚悟を決めるしかない―――




 突然ルクシオが狩りを始めて、せめて人間に戻れと駆け寄った今日の夕方。

 暗殺者はほぼ全滅って所でベルドランさん達がやってきた。森から出てくる騎士は全て白騎士。魔術師が多いって事は本当にあのカフだけでこの位置を特定したのか。冗談で渡したけど…危ない才能だ。今回限りにしよう。


「お嬢ちゃんさっきぶりだねー。何故こんな所にいるの? 執務室にいなかったっけ?」


 くすくす笑いながら白騎士達の中央から出てくるベルドランさん。わざとらしい口調で白騎士達に聞こえるように私に言う。なんだろうこの悪者な感じ、笑みが真っ黒で怖すぎる。

 明らかに裏がありそうな彼の言葉に、白騎士達が興味深いと目を細める。前々から私を怪しんでいた魔術師達が目を眇めて不気味に笑う。何故だろう、援軍のはずなのに彼らの事が敵としか認識出来ない。

 それにしてもなかなか嫌がらせなタイミングで来たなベルドランさん。治癒師ってそんなこと出来たかな?なんて呟く面が憎々しい。さっきの言葉は確信犯か。


 せめてルクシオだけでも逃がそうとこっそり見ると…Oh、彼は関係無いとばかりに残りを殺り始めていた。ばっさばっさお見事である。

 っておいぃぃいいい!!! ルクシオ見て、周り見て! 白騎士が見てるよ! そんなばっさばっさ殺らないで!!

 ああもう手遅れだ。ルクシオは確実に先祖返りだってバレた。


「お嬢ちゃん、気になるからってこんな所まで来たら駄目だろ」

「ひょわっ」

「それに拘束魔法を破壊するなんてどうしたんだ? そんなにあの狼が気になる?」

「は…」

「うちの隊の拘束魔法を壊すなんて相当の実力が無きゃ出来ないのに…。どうやったか知らないが今度からは止めなよ、怪我するから」

「……。(私も手遅れだった…!)」


 彼は『わざと』白騎士達に聞こえるように私を咎める。その内容は私が下っ端治癒師だと知る者なら耳を疑う内容。彼はそれを超絶軽く漏らし始めた。


 そもそもただの治癒師が転移魔法陣を描いてこんな敵だらけの森に来るだろうか。誰も引き連れずに。防衛手段も無いのに。魔導具は材料が宝石だなんていう高価な物なので安月給なぺーぺー治癒師が持てるものじゃない。だから私がいるのは不自然。


 次に、防衛手段が無い治癒師が魔法を止められるだろうか。私がルクシオにかけた魔法は『攻撃された時に緩和する防御魔法』、要するに拘束するだけの魔法は入っていない。だから破壊したが…治癒師は回復しか出来ないものなのだ。破壊なんて出来ない。


 そして多分だが、あの拘束魔法は壊したらトゲトゲが飛ぶ。風で撃ち落としたら飛んできたから急いで燃やした。それを魔法使いのプロが見ていたとすれば…これはもう実行犯だ。セレスティナ・ハイルロイドは確かに攻撃魔法を使った。はい確定。


 そんな団長様の意図を汲み取った白騎士達は目を輝かせた。玩具を見つけた肉食獣のような目だ。何故そういう所だけ勘付くのが速いんだ脳筋達よ。いつもは馬鹿みたいな事をしているのに!

 一方魔術師は私を見つめながら舌舐りをしている。目が、体が研究材料見つけたって叫んでいる。隙あらば飛び掛ろうとする彼らに震えながら後退した。


 彼らの血走った目に既に頭は真っ白。口が異常に引き攣って言葉が出ない。それなのに意味を成さない呻きが口から漏れる。この時何故か竜の群れに投げ込まれたような映像が脳裏を過ぎった。ルークさんに捕まるみたいで縁起が悪い。


「んーまあお嬢ちゃんについては後でにしておいて、まずは生存人確認してきて。ここら辺はルクシオがやっちゃったから奥の方ね」

「了解ー」

「ああ、あと魔術師隊は転移魔法陣の準備を。この人数を運ぶから大きめのやつ作っておいて」

「はーい」

「残りはあの屋敷の中を捜索。ついでに屋根の上の殿下も回収してきて」

「わかりましたー」

「…お嬢ちゃん」

「っはいぃ!」


 いつの間にかベルドランさんの顔が目の前にある。さっきまで遠くにいたのに。榛が明るい金のような色に変わった瞳をにぃと細めて、打って変わって冷たい声で囁いた。


「逃げたら容赦しないから」


 ……気絶しそう。




 こんな事があったらからにはもう死刑でしょ。ルクシオは戦闘員、私は実験台で確定だ。

 あー…もうやだ、ルクシオと逃げようかな。ほら、この国がおかしいだけで他国はもっと平和なのかもしれない。そういえばルクシオってこの国出身のような口振りじゃなかったよね。ルクシオの祖国とか行ってみたいなあ。


 ふむ…逃げるなら宝石電池を大量に作る必要があるな。私三人分ぐらいの魔力があればここから抜け出せると思うからまずは三つ。ルクシオの分も三つとしたら最低二週間はかかるか…。追っ手が来ることも考慮に入れれば十個はほしい。うーん…今から三週間なんて私もう解体されてるんじゃないか? なかなか厳しいラインだ。

 それかいっその事この城自体を破壊する? 前に考えた暴発で城爆破。私はともかくルクシオは宝石電池で完全防備にしておけば守れるでしょ。残念な事に死人が出るけど兄妹も言ってたしね、目的の為なら他人の不幸なんて関係無いって。成程、初めてそのクソみたいなモットーが分かったよ。手段を選んでいたら死ぬって事を言いたかったんだ。


 よし、まずは宝石電池を作ろう。最低六つ。これが出来次第ルクシオに計画を―――


「セレス嬢。そんなに考えてどうしたんだい?」

「話を振っておいて黙るだなんて気になるなあ」

「それとも何も無しに話を止めたのか?」


 ―――ああ、そうだった。思考が飛んでる大人衆の話を止めたんだっけ?


「……話し合った結果はもう出てるんでしょう? 焦らさないでバッサリ言ってくださいよ」

「そうだねぇ、君は…白騎士に見られたんだっけ。折角頑張って隠していたのに…残念だね?」

「まあお嬢ちゃんが無茶苦茶な魔法をぶっ放した時点で皆にバレてたけどな。ああ、そうだ。本気で隠したいならこんな金属を渡しちゃダメだよ。あいつら面白がって特定するから」

「…はあ、マジですか」


 屋敷前の吹き飛ばしで居場所を突き止めるなんて。カフなんて渡さなければよかった。くそ、自分の考えの至らなさが憎い。


「セレス、ついでと言ったらなんだが…その、赤騎士にもバレたぞ」

「え、なんで」

「お前が飛ばした伝令、なかなかに凶暴でな? 聞きつけた赤騎士が解析したらバレた」

「……はあ」


 私の行動が全部裏目に出るなんて。何故凶暴化したセレス鳥(仮)よ。いけ好かない金髪野郎云々って言ったけどそんなに凶暴化しなくてもいいじゃないか!


「…で、なんだけどね」


 ルークさんが紅茶を傾けながら私以下子供達を見る。緩やかに上がった口角といい愉悦に歪んだ紫の瞳といい、実に人を小馬鹿にした表情だ。

 勝ち誇った笑みにイラッとして顎で促すと、まずは…と指を振ってある一点に止めた。


「ルクシオの処罰からかな」

「処罰…? 受ける気ないけど」

「ふふ、言うと思った」


 くすくす笑ってクッキーをぱくり。受けてもらわないと困るんだよね、と笑みを深めた。


「君さ、私が初めに言った言葉を覚えているかな?」

「は?」

「はぐれるなって言ったよね? 君、どこまで行ってたの? まさか二週間も帰ってこないとは思わなかったよ」

「…それは」

「そんなに外が楽しかったのかもしれないけど…心配させるのはいけないよね。君が早く帰ってきていれば彼女の安全は確保出来たのに結果彼女の身は危うい」

「…」

「反省しなよ馬鹿犬。その頭の足りなさが命取りだと知れ」

「ちっ…」

「という事で、君の処罰は報酬無し。あと、一年後までに白騎士になれるように調きょ…教育するから」

「なっ、ルークお前…!」

「せいぜい頑張りなよ」


 驚愕するルクシオを鼻で笑って次はー、と指をさ迷わせるルークさん。報酬…ってなんだろう。てかやっぱり戦闘員にされるのか。睨んでいるとディーアに指が止まった。


「ディーアの処罰だね」

「はい」


 ディーアがびくりと肩を震わせながらも神妙に返事をする。本当こいつ顔面だけ取り繕うのは上手いよね。ルークさんも同じように思ったのか眉を少し顰めて指を回した。


「君は前にも言ったけど他人に任せすぎだよ。楽をしたいのかもしれないけど今回はやりすぎ。アリスに付き従うのも結構だけど与えられた仕事もきちんとしようね」

「はい」

「ああ、あと君さ。あの屋敷から脱出する時セレス嬢の手を借りたようじゃないか」

「…はい」

「赤騎士は一人で潜入脱出なんてザラにあるのに…君、本当に出来ないの? あれ、君って赤騎士だよね?」

「…」

「という事で、君の処罰は一ヶ月間白騎士の玩具になる事。大丈夫だよ、実験台はいっぱい手に入ったから戦闘面での玩具だね。これを機に『発想の転換』とやらを習ってみなよ」

「…は?」

「これを機に父に愛の指導でもしてもらいなよ。頑張ってね」


 ぽかんとするディーアににっこり笑って死刑通告。そういやディーアって白騎士に人気なんだっけ? けどひと薙ぎで体を真っ二つにするような脳筋の玩具になるとか…もう二度と会えないかもしれない。別にいいけど。

 カタカタ震え始めたディーアを尻目に陛下の上機嫌な指を見る。次は誰に当たるのか、ぼうっと見ていると不意に私に止まった。少し心臓が跳ねて、それが嫌で顔を顰める。


「次はセレス嬢の処罰だね」

「……」


 キッと睨むとルークさんが至極愉快だとゆるりと笑う。ああもうやだ、あの顔殴りたい!


「君はもうちょっと深く事を考えるべきだよ。…うん、そうだよ。逆に何も知らずにここまで巻き込まれるとか尊敬に値する。君って本当に運が無いね」

「え、何、何故私だけ憐れまれてるの?」

「どうやって知ったの? 私何も言ってないよね?」

「何も知らないし言われてないですが」

「……運が無いね、本っ当に運が無いね」

「何故二回言った」

「うーん…そうだね、漏れてしまったのは仕方が無いから君はちょっとの間、領に戻っていいよ。けど遊ぶのは許さないから。白魔術師に捕まらないように魔法学を学んできて。いい? この城を吹き飛ばしたら全先祖返りに追われると思って学んできてね」

「…はあ」


 謹慎…なのか? 思った以上に軽い。


「これを機に常識を学びなよ。魔法に関しては無常識すぎる。本当に生き残りたいなら普通の魔術師の魔法を覚えて。そうじゃないと…解体されるよ?」


 全然軽くなかった。真面目にやらないと命の危険があるのか。何をするつもりなんだろう白騎士達。怖すぎて寝られない。

 最悪、なんて漏らしながら指をさ迷わせるルークさんに震えながら行方を見ていると、まあ分かっていたが殿下に止まる。殿下にも処罰ありってどういう事だよ。やっぱりあの拷問まがいの事をするのかな。


「最後は君だね、アリス」

「…はい、陛下」


 殿下が冷めた面持ちで陛下を見る。殿下らしからぬ暗い瞳だ。そんな息子に、相変わらず拗らせてるねと眇めてルークさんが言った。


「君は勝手に動きすぎだよ。私はただ気をつけろと言っただけだよね? 何故首を突っ込むのさ」

「それが最善だと思ったからです」

「ふぅん…。そうだね、君達のおかげで事件は早く解決したよ。けどね、王子の君が攫われたら元も子も無い。君は最も愚かな選択をした」

「何故です? 私が死んでも弟がいるではないですか。私よりあれの方が王の素質があります。彼が守られるなら私の命など些細なものでしょう?」

「まだそんな事を言っているのかい? 何度も言ったろう、王は血に選ばれるのではないと。それが何故わからない」

「私はこの国の出来損ないだからです。ルクシオのように先祖返りでも無ければ、ディーアのように器用に何でもこなせるわけでも無い。セレス嬢のように圧倒的な力があるわけでもない。……私に残っているのは王の子であるという事だけ」


 吐き出すように、悲鳴を上げるように吐露する。その内容はずっと心の底から思っていたのだろう、才能のある者への嫉妬と深い深い嘆き。本当に自分には価値がないと思っているかのような口振りだ。

 成程、これは拗らせてる。物心が付く前からこの国最大の混沌の中で育ったからこうなったのか、ある意味才能溢れるこいつらに囲まれていたからそうなったのか。責任感の強い殿下が一番悪い影響を受けてしまったらしい。


 けど考えてみればそうだよね。だってヒロインはこんな殺伐とした場所で育つ予定はされてないもん。平和で楽しく幼少時代を過ごし、有り触れた女の子に成長して、学園に入学する。それ前提で設定されている。

 だからステータスは言わずもがな平々凡々。頭も普通だし運動も普通。ヒロイン爬虫類化なんて設定されてないだろうから先祖返りも無し。唯一魔力は高いがそれがわかるのはずいぶん先の話だ。幼いヒロインにあるのは無駄に高い女子力だけ。

 そんな子供がこんな場所で過ごしてみろ、確実に一日で死ぬ。彼が生き残ったのはそれもこれも小さな努力が実った結果だ。どれだけ頑張ったのだろうか…ある種の執念を感じる。この時点で凄いのに、下手に責任感のある殿下はそれ以上を求めるらしい。但し自分が王になるとはこれっぽっちも思ってないようだが。

 殿下がこうなったのは全部こいつらのせいだな…。


 でもね、殿下。本当にこいつらが君を無能と思っているなら執務室なんて与えないと思うよ? 陛下執務室で仕事を共にするなんてもっての外、近付くことすら許さない。陛下はプライドが高いから叱るなんて事をすれば一瞬で消し炭だ。

 少なくとも君はこの大人達には認められていると思うんだけどな。


「…そう、わかった。もういいよ」

「っ、」


 ため息混じりの声に体を震わせる。けど…あれ、ルークさんの目が紫じゃなくて金色に変わっているような……。それに威圧が、威圧が強くなって…?


「…君の望み通り強くしてあげる。そうだよね、君はまだ子供だった。執務なんて早すぎたんだ、もう手伝わなくてもいいよ。その代わりに毎日課題を出そう。その薄っぺらい頭でもわかるぐらいじっくりと一から十まで教えてあげる」

「え…」

「君が君基準で使え物になるぐらい扱いてあげるよ。…なかなか厳しそうだけどね」


 震える殿下に再度ため息をついて目を閉じた。




 こうして殿下誘拐事件は幕を閉じた。けどわからない事が多すぎる。結局私を攻撃した人も攫った人も、誰だかわからなかった。そしてルークさんの処罰がわからなすぎる。まるで私は関係が無かったのにといった雰囲気だった。

 絶対裏で何かが起こっていたはず。なのに誰も教えてくれない。誰に聞いても困ったように微笑むだけ。私はただのけ者にされたように感じながらもいつしか忘れていった。


結果発表を主人公が分析。

セレスティナ:令嬢→(緑騎士?)→治癒師→実験台

ルクシオ:緑騎士→白騎士見習い→戦闘員

ディーア:赤騎士→玩具

アリス:殿下→?

合ってるけど合ってない分析でした。


ベルドラン、折角遊べると思っていたのに遊べませんでした。既に気絶しているおっさん達と血祭りにあげられている暗殺者達を見て半ギレです。

殺意と共に暴露しました。容赦ないなこの大人。



ありがとうございました。

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