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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
城内動乱編
34/56

27話 教訓は冷静になる、です。

あの後無事に鳥は手紙に戻りましたが結局場所はわかりませんでした。ディーア、激怒です。ルークさんは修復に勤しんでいます。


お願いします。

 只今怪しげな森の中。想像を遥かに超える成長を遂げた鳥を飛ばした後、こっそり殿下の頭を治療したりしながらここまで歩いてきた。草原より森の方がいてそうだと思って…。

 ああ、変態達は毎度恒例の全身拘束具でガッチガチに固めて転がしておきました。肉食獣とか魔獣が来たら食われるかもしれないからそれまでに起きてくれたら嬉しいな。あ、けど起きても外れないようにしちゃった…ごめん、成仏してね。


 で、歩いて半刻。


「ん…」

「あ、殿下。お目覚めですか?」

「っん…ぅん? ……ええ?!」


 どこを歩いているのかわからなくなってきた所で…はい、麗しの美少年が目を覚ましましたー。私の背中で。睫長いわ羨ましいと呟くと慌てまくって暴れられました。元気いっぱいで嬉しゅうございますわー。


「殿下おはようございます。暴れないでもらえませんか」

「え、え? セレス嬢、え? 何故僕がセレス嬢に…? あれ?」

「落ち着いて下さい殿下。…降ります?」

「う、うん」


 コクコク頷く殿下をとりあえず下ろして倒れている木の幹に座る。上着を脱いで木にかけて、この上にどうぞと殿下に言うと眉を下げて断わられた。混乱してるはずなのに気にしないでと気遣える殿下マジでイケメン。寒いから僕の上着を着る?と貸してくれる殿下マジ神。ヒロイン凄い超絶紳士だ。しかし、私は上着を持っているぞ。

 流石に殿下の上着を奪うのは如何なものかと思ったので、結局何もせずに殿下と二人木の幹に座った。


 殿下が頭を抱えながら必死に状況整理している。顔を青くしたり赤くしたりジタバタし始めたりと楽しそう。ふむ、私が攻撃した事は忘れている…のかな? それなら嬉しいんだけど。

 それにしても下手にルークさんに似ているから彼がやっているようで面白い。じぃーと眺めていると不意に殿下が顔を上げた。


「そんなに笑って…僕、何かした…かな?」

「いやぁ…何も無いですよ?」


 あらら…私は笑っていたようだ。いやはや申し訳ない、何だか愉快なもので。にこにこ笑っていると殿下が不満げに首を傾げてまたジタバタし始めた。

 それから数分後、服に付いたゴミを叩いて私を見て。どうやら頭の整理は終わったようだ。先程と比べて随分落ち着いている。もうちょっと慌ててくれてもよかったのに…って慌てられてたら話が始まらん。


「もう大丈夫ですか?」

「うん…大丈夫だよ」

「そりゃよかったです。……じゃあ話しながらでも歩きましょうか。殿下も私がいる理由を知りたいでしょう?」

「そうだね。攫われたのは私だけだったはずだ、君がいる理由を知りたい」

「ではそれの説明からしていきましょうか」


 小さく頷く殿下に微笑んで木から飛び降りる。こっそり対物魔魔法をかけて、私達は獣道を歩き始めた。彼は何故私がいるのか心底不思議らしく純粋な瞳で私を見てくる。魔力を感じ取るのを忘れるほど気になる…という事かな?


 見つめる殿下に苦笑しながらここに来るまで―――勿論都合のいいように言った。嘘はついていない―――を説明する。流石に私一人で飛んできましたー、なんて言えないからディーアはあとから来る設定です。嘘じゃないよ? それから突然消えてすみませんでしたと謝罪する。

 内心キツいかな…と思いながらこっそり様子を窺う。肌に穴が開くほど見つめてくるんだもん、ボロが出そうで怖い。しかしそこで発揮されるヒロイン力、母性溢れる表情で『大変だったね』と労うように頭を撫でられた。疑う気などさらさら無いらしい。

 あー…殿下眩しい。ヒロイン力マジで高い。自分が醜く感じるわ…いや、悪役の私がヒロイン様と比べるのが烏滸がましいのか。


「大丈夫だよセレス嬢。何かあれば私が守るから!」

「え、あ、……ありがとうございます」


 心が痛い。助けて。


「あーそうだ…すまなかった」

「何がですか?」

「えと…その、だね…」


 聖母な殿下が打って変わって気まずそうに目を逸らす。口篭って頬をかいて、なんだか言いにくそうだ。殿下が私に言うことなんてあるのだろうか。逆に私が陛下に狙われてる逃げてって言わなきゃいけないんだけども。

 全然わかんね、と首を傾げていると本当にわからないのかと紫が見つめてきた。素直に頷くと悲しそうに目を逸らす。


「…あれだよ。女の子の君に私を…その、背負わせて……ね」

「ああ、その事でしたか」


 なんだ、すっごい悲壮な顔をしていたからもっと凄い事かと思った。


「大丈夫ですよ。軽かったですしそこまで動いていませんから」

「か、軽…」

「え、そこ気にします?」


 えぇ…そんな悲しそうな顔をしないでください殿下。女の方が成長期が早いんだから仕方が無いですよ。それに魔法でドーピングするぐらいなので十分重かったと思いますよ? …気を失っている人間は重いらしいから違うと思うけど。


「…」

「気にしないでください。あと二、三年もすれば大きくなりますから。ね、大丈夫ですって」

「いや、けど男としてのプライドが…」

「捨ててください」

「私の信条が…」

「捨ててください」


 ヒロインに男のプライドも信条も要らん。バッサリ切り捨てると彼は大きく目を見張ってそれから物凄く悲しそうな顔をされた。え、要らないよね? 乙女ゲームって男子力より女子力を磨かないと生きていけないんだよね? 信条なんて特に無いよね?

 項垂れてしょんぼりする殿下を見ていると違うように思えてくる。しかし激昂するわけでも無く言い訳するわけでも無い、ただ悲しそうに俯いている表情が女子っぽい。儚い系な感じ?

 やっぱり男子力は要らないね。うん、殿下は女子力だけでいい。


 項垂れる殿下と警戒ではなく見渡す私。場所と服装さえ違えば観光地に来た子供のようだ。殿下はあれ、嫌がっているけど連れられてきた子供。先程の誘拐云々など一切感じさせない空気を作る私はある種の才能があるとも言えるだろう。空気を読まずにぶち壊すからこうなるのです。

 いまだうるうるしている殿下を放置して辺りを見回す。空が暗くなってきた。早く見つけないと完全にルクシオが闇に紛れるな。それにお姫様抱っこからの空中移動で森脱出なんて事も出来ないから早めにここから出る必要もある。困った……あ、そうだ。


「殿下殿下」

「…なに?」

「何か魔法使えませんか? 」

「魔法…?」

「転移魔法とか魔力感知とか。そういう便利系魔法」

「て、転移…感知……。ごめんねセレス嬢。まだそんなに上手く、出来なく、て…」

「いやいやいや大丈夫ですすみません泣かないでください!」


 そ、そうか。ディーアを見ていたらあの年でも出来る気がしていたが普通は出来ないんだ。あいつが無駄にハイスペックなだけだった。一家に一台ハイスペック野郎、じゃないないらないわ。って殿下が更にしょんぼりさんに。


「で、殿下」

「…そうだ。私には剣がある!」

「……大変申し訳悪いのですが只今剣は品切れ中で」

「あ…」


 希望に煌めいた殿下がまた沈んでいってしまわれた。…ごめん、うっかり言っちゃったよ。けどルークさんが沈んでるみたいで楽し…いや、冗談冗談。


 ―――ぞわり


「っ!」


 嫌な感覚が背筋を走る。思わず周囲を見渡すが、ただ風が吹いてさわさわと緑葉樹が揺れただけ。また何事も無かったかのように風が止んで木々のざわめきも消えた 。

 何も無い…果たして本当にそうなのだろうか。

 ぞわぞわする体を抱き締めて周囲を警戒する。何か面倒な…身の危険を感じるような不安。間近に危機を察知する時に起こる嫌な感覚がした。そんな感覚を私が感じる時は大抵―――


「殿下走りますよ。速くこっちに!」

「え?」


 ―――変態どもが集団で突っ込んでくる時だ。





「っ、はあっ…はぁっ…」

「げほっ、…っはあ、」


 よろける殿下の手を引きながら周囲を見渡す。何人かはわからない。けど絶対殿下が攫われた時にいた人数よりも圧倒的に多い数が追いかけてくるのはわかる。


「ああもう…!」


 何故このタイミングで来るかな…?! 速すぎるでしょ来るのが! もうちょい待ってくれても良いじゃない!

 今回は事前に防御魔法を張ったし、故意では無いが火の海に出来る魔力を撒いてある。やつらに負ける心配は無い。無いけども…殿下にバレるじゃん。なに、殿下にも全力で口止めする? この状況で?

 それにルクシオはどうするよ。もし間違って着火したらルクシオが爆散する。いや、森の中だから炎系の魔法は使わないけど。氷系なら氷河、風系なら台風の威力になること請け合いだ。

 これ…ある意味詰んでる? 下手したら大惨事とか私魔法使えない?


「…やばぃっ、はあ」

「はあっ…何がっ、どうし……?」


 息絶え絶えな殿下が大きく息を吐きながら私に聞く。そういや殿下に何も伝えてない。よくついてきてくれたな…。人のこと言えないけど殿下も大概警戒心が無い。


「っはあ、まだ走れ…す?」

「え…っ?」


 荒い呼吸を治癒魔法で強制的に戻して殿下にも同様に唱える。


「っ…今何を?」

「治癒魔法…のようなものです。殿下、もうちょい走れます? 」

「走れるけど一体どうしたの?」

「少々予定が変わりまして。急いで森を抜けないといけなくなりました」

「それって……」


 彼が顔を引き攣らせて周囲を見渡す。何かに気付いたようだ、ひゃっと小さく悲鳴を上げて不安そうな目でこっちを見た。


「黒い人が…」

「え、見えるの? マジで?」


 おっと、ため口になってしまった。


「で、殿下。見えるんですか?」

「うん。私を攫ったやつらが追いかけてくる」

「…何人いるかわかります?」

「えと、じゅう…にじゅう……さんじゅ」

「やっぱりいいです」


 マジで見えてるのか。え、動体視力の差なの? どうやって見てるの? 見れども見れども見えるのは緑葉の木々。黒なんて全く見えない。彼の目から赤外線的な、サーモグラフィ的なモノが出てるのだろうか……ってあれ?


 木と木の間から一軒の屋敷が映る。所々窓が割れているそれは最近見た覚えがあるものだ。光が灯っているが何処か静かで中での活動が見受けられない。

 ふと地面を見ると不自然に葉が避けられており、人二人分の大きさの魔法陣が描かれている。掠れていて使えそうもなく、どこに飛ばされるのかも見えなくなっていた。


 私は思わず目を疑った。


 いやだってあの家、私とディーアが監禁されていた……


 ……成金中年の家だし。


「これ…」


 殿下が魔法陣を見て目を見開く。ディーアが描いた城内へ行ける転移魔法陣、下々の緑には書く事すら出来ない逸品だ。それを見てここが私達が攫われた場所だと気づいたようだ。


「…という事はここで待っていればベルドランさん達が来る!」

「え? 本当に?!」

「はい!」


 頬を緩めて殿下に頷くと彼も嬉しそうに微笑んだ。よかった。これで殿下を引き渡せる。引き渡したら引き続きルクシオの捜索をしよう。だからあとは、


「どれだけ時間稼ぎ出来るか…だね」


 三十の変態どもがどれだけ突っ込んでこようとも殿下を守りきらなければ。


 深く息を吐いて森を見ていると不意に黒い外套を身に纏った人間が姿を現す。ふらりふらりと増えていくそれは殿下の言う通り三十人近く。

 子供二人に多すぎやしませんかね。どれだけ捕まえたいんだよ…。私は私達を中心に囲むように立ち塞がる奴らを睨みつけた。


「セレスティナ・ハイルロイドだ」

「アライシス王子もいるのか」

「なかなか素質がありそうだ…」


 何処からかそんな会話が聞こえる。奴らは殺気混じりの視線を向けながらナイフを取り出し、じりじりと近寄ってきた。数人が呪文を唱え始めて実に面倒臭い。今回は物魔混合で来たのか。

 私はせめて魔術師以外だけでも止めようと殿下の前に立つ。が、殿下がそれを遮って私に微笑んだ。


「セレス嬢は私の後にいて。大丈夫、助けは来るんでしょう?」

「え…?」


 その瞬間、私と殿下の目の前に大きな水球が出現した。それは魔術師の一人へすごい速さで向かっていく。急に出てきた水球にぽかんと口を開いている間にも次々と出現し、波のように広がっていく。


 急いで殿下を見ると、彼は真剣な表情でひたすら呪文を唱えていた。簡略された呪文と同時に出てくる水球は魔導具を使っている証拠だ。そうか、魔導具は魔力さえ掴めていたら安定した威力の魔法が出せるもんね。

 けど私の為に明らか大事用の魔導具を使うなんて……やだ、泣けてきた。殿下、あいつらと違って全部がイケメンだぁ…。


「……、セレス嬢大丈夫?」

「目にっ、ゴミが入っただけです…」

「そう」


 彼は私にやんわり微笑んでまた固い表情で奴らを見る。

 奴らはひたすら避けに徹しているらしく攻撃はしてこない。殿下の魔導具が壊れるのを待っているのか、それとも私が攻撃するのを待っているのか。藻掻く獲物をじわりと締めるようなそれに顔を顰める。


 私が馬鹿しなければ奴らなんて一発なのに。くそ、私の馬鹿!


 ―――ピシッ


「…ん?」


 ふうぅ…と頭を抱えていると不穏な音が耳を通過する。何かが割るような…。嫌な予感を抱えてそっと後ろを向く。そこにはひび割れた防御壁と鉈を持った……


「ひょ?!」


 屋敷からすっごいおっさん出てきたぁぁあああ!!!


「でででで殿下! うし、後!」

「え、…ええ?!」


 指を指して叫ぶと凶悪な顔をしたおっさんと目が合う。執拗に私を狙うのは脱出の時の恨みか?!


 私の叫びに後ろを向いた殿下の顔色がサッと悪くなる。衝撃で言葉を失う殿下に前からナイフが飛んできて、また小さく割れる音がした。殿下も私も前はナイフで後ろは鉈や斧で、もう長く持ちそうもない。

 急遽もう一度防御魔法を張り直して殿下にも張り直す。今回は何枚も重ねたがこれ以上囲まれて攻撃されたら一溜りもない。

 これじゃあ壊されては張り直しのデスゲームが始まってしまう。無理、いつ助けが来るかもわからないのにそんな事出来ない!


 しかし後ろからはおっさんの波。前からは変態の波。


「に、逃げましょう殿下! これ無理ですよヤバいですよ!」

「無理だよ! もう囲まれている!」

「ええええいやいやいや! 頑張ればいけますよきっと!私の小ささと殿下の細さがあれば間を拭って、っこう…するっとぉ!」

「セレス嬢、流石にそれは無理があるよ!」


 『いいやいける!』と言い張る私と『冷静になって!』と引き止める殿下。この間に魔導具でも使えば状況も変わったろうに、終わらない押し問答を繰り返しているうちにみるみる差が縮まっていく。

 私は必死に殿下を引っ張ろうとするが思った以上に動かない。仕方が無い、ドーピングで持ち上げてやる!



『―――アンタ何してるんですか。馬鹿ですか?』



「…え?」

「……あ」


 言い合う私達を遮る冷めた声。不機嫌そうに地を叩く音。

 まさかと下を見ると憮然とした表情のルクシオが座っていた。

殿下の目、赤外線かサーモグラフィ説。親が竜の先祖返りなのでもしかするとあるかもしれません。


主人公が苦労する大体の理由は周囲に集まってくる人間や物のせいです。そしてそいつらが周囲に集まってくる大半の理由は主人公のせいです。小さなミスが積み重なった結果そうなりました。

この世界に来てからは下手に大きな力を持ってしまったので頻度が加速しています。


次回、飼い主を見つけたわんこがしっぽを振って喜びます。


ありがとうございました。

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