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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
城内動乱編
30/56

23話 私と同僚の脱出劇です。 前

次も遅れるかもです。すみません。

お願いします。

 いやぁ、やっぱり魔法っていいね! 最近自由に使えなかったからこの爽快感を忘れていたよ!


 漂う火球にそっと触れると、それは真っ直ぐ飛んで鉄格子を溶かす。ここが臭い原因は腐った食べ物らしい。それも一緒に燃やし尽くす。

 鼻歌を歌いながら牢を闊歩すると光が全方向へ飛んでいき、目の前の邪魔な物が消えてなくなっていく。踊るように回る火球が周囲を壊していくのを見て笑みが零れた。


 光を纏いながら悠然と歩く姿はとても脱走者に見えないだろう。

 光を拒絶する牢獄を昼間のように照らすいくつもの炎に誰もが目を疑うだろう。


 実に楽しそうに笑う可憐な少女は規格外の恐怖を撒き散らしながら歩いていた。


「だいぶ臭いもなくなってきた。ね、ディーア」

「あ…あぁ」


 ディーアが弱々しく返事をする。顔が蒼白なのはこの状況を見てなのかそれともただ疲れているのか。荒い呼吸を整えようとする彼は、顔の青白さといい震える手足といい、どう見ても病人にしか見えない。

 そりゃ常に飛んでくる火球を避けていたら疲れるだろう。手足の重苦しい枷が無くともキツいはずだ。それでも完全に避けるのは、当れば即消失という恐怖の現象を見たからかな。うんうん、その調子で頑張って避けてほしい。


 え、当てなければいいって? いやぁそんなぁー。私のような緑の攻撃が赤様に当たるわけないじゃないですかー。

 ……本心は治癒師は魔法攻撃出来ないから死んでも知らない、のただ一つだけど。一応治癒師を守るために身を盾にしたって言っておいてあげるよ。名誉ある殉職でハッピーじゃん?


 治癒師は治癒しか使えない。魔術師は破壊しか使えない。

 この世界にはそういう固定概念があるらしい。流石気合で使う世界だ。刷り込まれて使えなくなるなんて。

 …実は本当に片方しか使えないのか? いやいや、やっぱりそれはないだろ。だって気合で世界を救えるんだよ? 気合で治癒が出来てもおかしくない。これは深い謎がありそうだ。まあ余程魔法に興味が無い人なら両立出来るんじゃない? あ、興味が無いなら気合が無いから出来ないわ。……まあそういう事もある。


 私は人差し指をくるりと回す。するとディーアの呼吸が少しずつ安定してくる。顔色は何故か治らなかったがこれで幾分かは楽に動けるだろう。彼が不思議そうな顔で私を見る。何かあるんじゃないかと疑う目に笑いかけた。


「もうすぐ出口だからさ、何かあったら危ないでしょ? それに君は―――」


 ―――これからが出番だからへばられちゃ困るんだよ。


 無意識に上がる口角にディーアの顔が引き攣る。ぎこちなく数歩下がるのを首を傾げて眺めた。後半の事は言ってないはずなのにおかしいな。なかなか勘がよろしいようで。

 大丈夫大丈夫、と軽く言いながら最後っぽい扉の前に立つ。漸くここまで来た。鉄格子の先に木の扉が見えるなんて今まで無かった。最後の扉に火球を当てた瞬間に弾けて消える。やっぱり最後の扉だ。


「おい、どうするんだよ」

「そうだね…」


 もう一つ火球を当てるがこれまた消える。鉄格子は傷一つ付いておらず、あと一つ当てるがやはり傷が付かない。おかしいと近くで見ると、物凄い細さで陣が描かれていた。

 うわぁ…ここまで来てこれか。しかも知らない陣だし…。


「ねぇディーア、これ何の陣か分かる?」

「あ? ……ある特定の人物しか入れない陣、と魔力吸収の陣…だな」

「ああ成程、じゃあこれは違う陣か。で、こっちがそれと一緒ね」


 ディーアの手錠をちらりと見る。…うん、最悪だ。手首のやつを外すだけで気分が悪いのに、それ以上の大きさなんて…多分内臓が飛び出すわ。

 上を見て下を見る。どこを眺めても全体的に魔法陣。隙なんて無い。…これは駄目なヤツだ。壊せば十中八九倒れる。魔力が全然足りないわ。

 最後の手段、宝石電池を使うって手もあるけど…今後の事を考えたら使いたくない。さて、どうしたもんかな。

 ……あ、そうか。


「……ねえねえ、壁って硬いよね?」

「硬いな」

「木の扉って遠いよね?」

「ああ」


 何言ってるんだと白い目で見られる。いやいや、巫山戯てるわけじゃ無いよ。確認したかったんだよ。じゃあ最後に一問。


「―――この壁に穴開けても崩れないよね?」

「ああ……は?!」

「大丈夫だよね」

「え、ちょっと待てよ! んな事するのか?!」


 ディーアが素っ頓狂な声を上げて目を剥く。『だって扉から出れないじゃん』と言うと乾いた声でぎこちなく笑われた。

 何故彼は悟りを開いたような目をしているのかな。目に力が無いんだけども。どうやら彼はお疲れのようだ。


「大丈夫だよディーア。多分この壁丈夫だよ。生き埋めはないから心配しないで」

「そ…そうだな」


 元気無いなぁ…まあいいや。


 壁に指を付けて少しなぞる。イメージは岩が細かい砂になって崩れ落ちる感じ。で、真っ直ぐ掘って横に掘っての鉄格子と木の扉の間の壁に穴開けて……ほら出来た! いやぁ、やれば出来るもんだね!

 穴に残っている砂を掻き出すと子供一人余裕で通れる穴が出来る。屈んで入って出てみると予想通り格子と扉の前に出た。穴を挟んでディーアと目が合う。


「……塞ぐ?」

「おい?!」

「冗談だよ」


 そんな顔しないでよ。かっこいい顔が台無しだよ。虐めたくなっちゃうじゃん。

 ディーアがこっちに来た所で彼と私に魔法をかける。急に何か飛んできても困るから物理反射で。魔法…もかけておこうかな、魔法反射。


「よし、準備万端! あとはディーアの武器だね」

「え、」

「持ってるかなぁ…」


 そっと扉を開けると、そこはこの国らしい赤と白の綺麗な部屋だった。その部屋にそぐわないならず者臭漂うおっさんが二人、トランプを興じている。楽しそうなおっさん達が座っている椅子の近くには斧が置かれていた。


 よし、こいつらから盗ろう!


 私は扉の隙間から狙いを定めて魔力を落とす。魔力は空気の塊となっておっさんの頭に直撃し、トランプタワーに突っ込んだ。てめぇ!と掴みかかろうとするあと一人の後頭部にも塊を落とす。先に倒れたおっさんの頭に当たって鈍い音が鳴った。

 周りに仲間がいたらしい。どうしたんだと慌てて近寄るおっさんの頭にもプレゼント。何だかんだで計六人が部屋に転がった。人間目に見えない攻撃には弱いものです。魔法使いって最強だなあ、うん。


 扉を完全に開いて武器を物色する。色々手に取るが…斧と鉈しかない。今のディーアは魔法が使えないから剣の方がいいんだけど。…仕方が無いから斧でもいいかな?


「ディーアって斧使える?」

「……あ、いや」

「そっか…」


 絵的にもよろしくないし…やっぱり剣の方がいいかな?

 何故か呆然としているディーアを置いて部屋を探す。と、壁に飾ってある綺麗な剣を見つけた。飾りっぽいけどこれでいいか!


「ディーア、はい装備!」

「え、」


 ディーアに無理矢理持たせる。戸惑う彼ににっこり笑って少し下がった。

 赤い騎士服に純白の剣。何処からどう見てもか弱い治癒師を守る騎士様じゃないですかー。え、手錠? 無視の方向で。…という事で。


「殿下に仕える赤騎士で、私の同僚でもあるディーア様。私のお願いを聞いてくれるかな?」


 表情をそのままにわざとはっきりとした口調で提案する。はっと意識が戻ってきた彼の顔が面白いぐらい強張った。それを小さく笑って言葉を続ける。


「今までの事をバラされたら困るんだよね。だから…」

「…黙ればいいのか?」

「うん、絶対誰にも言わないでほしいな」


 わかった、と神妙に頷く。強張った顔を若干緩めてため息をついた。

 もっと酷いことを言われると思ったんだろうか。安心したようでなによりです。…けどもっと酷い方ならまだあるんだなあ、これが。

 私は二つ目の提案を言った。


「ここの制圧をしてほしいんだ。もちろん一人で」

「あぁ……は?!」


 やっぱり驚くか。けど、そもそも君に手伝ってほしいって言った理由がこれの為だからね。そうじゃなきゃ一人でやってるわ!


「城に戻るならこうなった理由ぐらい捕まえないといけないでしょ? けど私ってか弱い治癒師だからさ、強い騎士様に守ってもらわないと死んじゃう」

「っ、お前のどこが―――」


 か弱い治癒師、だって? ダメダメ。


「―――騎士様。私は攻撃出来るはずがない『治癒師』なんだよ? 言いたい事わかるよね?」

「いや、でもっ」

「バレちゃ駄目なのに君は私に守られてここから出るつもりかなぁ?言っておくけどそれをしていいならとっくのとうに私だけでここから出てるからね?けど、問題は解決しないと駄目だからさ」

「っ…」


 今さっき散々使ったけど、本当ならやってはいけない行動なんだよね。陛下に魔法は使わないって宣言したからさ。これを破ったらあのクソ陛下は嬉々として私とルクシオを戦闘員にしてくる。ルクシオを守る為に付けた条件を私が破ってどうするよ。絶対に出来ない。

 ディーアが眉間にしわを寄せる。何か他の道を探しているようだ、俯いて唸っている。いやいや、ここで冷静になられちゃ困る。一気に決めよう。


「先に言うけど地下の牢屋、元に戻せるから。地下見たらお前がやったってバレるーってのは通用しないよ。それに私なら君の魔力を吸い取ってばら撒けるからね?私の魔力の跡も薄れるだろうさ」

「ちっ、駄目か」

「どちらにしろこの状況がバレるのは時間の問題だし? 魔法が使えない君は戦うしか生き残る方法は無いんじゃないかな。回復無しで全員殺れる?」

「……」

「君が戦うしか道はないんだよ。だからさ騎士様、私と共に参りましょう?」


 彼へ手を伸ばして了承の握手を。


 彼は数回手を見て、躊躇うように手を彷徨わせる。珍しく緊張しているらしい、手が小さく震えている。気長に待っていると漸く決心したようで、ゆっくりと手を伸ばした。彼の震える手が私の手をそっと握る。私はそれを見て彼に見えないように黒く笑った。


 漸く手に入れた赤騎士様。なかなかに混乱してくれたようで簡単に仲間になってくれた。完全勝利って嬉しいわー。あとは正気に戻る前に終わらさないとね。頑張ってここを制圧してもらわなくちゃ。

 それにしてもよく頷いてくれたなディー坊。結構無理矢理だったと思うんだけど。


 まずこの事を黙れって言うのが無理。塞ぐこちゃ塞げるけどさ、魔力なんて吸い取れないから。いや、頑張ったら出来るんだろうけど…下手すりゃ君、ミイラになるよ?自分については感覚で出来るけど他人の感覚はわからんからな。死ぬまで吸い続けてしまいそう。

 それにここの制圧は一人でしなくてもいいと思うの。気付かれないように攻撃出来るし。けど彼が一人でやるって言ったもんね、放置放置。

 まあ…言ってしまえばそれ以前に制圧なんてしなくていいんだけどね。援軍呼べるし。いつも嫌に冷静な彼にしては混乱しすぎだ。


 全てが終わった後に彼の手錠を外そう。全部ディーアに押し付けて私は知らない振りをするんだ。陛下の無理難題に応える赤騎士様だもん、ただの牢屋を溶かすぐらい出来るよね?


 君は攫われた治癒師を守る英雄になってもらわなきゃいけない。その為に生かしているんだから。


 最年少の赤騎士様、どうぞ私の掌で踊ってください。今までの恨みが溜まってる分苦しいと思うけど…自業自得と思ってね。


意味無く燃やして意味無く穴を開ける主人公。相当イラついている様子。

ディーアはディーアでありえない光景に混乱気味。魔術師としての一面がある彼からすれば全てがおかしい。主人公の存在そのものが恐怖の塊になってきています。


ついでにディーアが序盤で燃やされている場合、主人公はそのまま脱走して一人旅をするつもりでした。屋敷全壊の証拠隠滅です。


怒らせちゃいけない人を怒らせましたね。どんまい!


ありがとうございました。

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