15話 ネタばらしは壮大にと言われましても困ります。 後
お願いします。
「セレス嬢、そんなに睨まなくてもいいじゃないか。そうだ、ルクシオ。この国はどうやって出来たか知っているかい?」
急に何言ってんだこの国王。なぜ急にクイズする。
「この国…。確か世界各地から来た移民が集まって出来た、とかではありませんでしたか?」
「うん、そうだよ。じゃあその移民はどんな移民だったと思う?」
「…わかりません」
「じゃあセレス嬢、この国の国旗はどんな柄かな?」
「赤竜と白い翼の国旗です」
「正解。それがさっきの答えだよ」
「……は?」
赤竜と白い翼が正解…? どういう事だ? てか何のクイズ?私とルクシオが首を傾げていると今度はお父さんに質問された。
「セレス。お前、前に書庫の先祖返りについて読んだよな? そこに隠れ里について書いてなかったか?」
「う、うん…」
「知らない間に先祖返りと知り合いになってたりするのか、と言っていただろう? それが答えだ」
世界各地から来た移民。赤竜と白い翼。隠れ里。人に近い先祖返り。あ、まさか…。ルクシオも思い至ったのか目を見張って口を隠す。それを見た大人衆はにこやかに笑って告げた。
「我が国、メルニア王国は先祖返りの隠れ里。遠い昔、俺達の先祖が築き上げた古の地」
「勿論我が国民の全てが先祖返りに近いぞ」
「そして、国王である私は竜の先祖返りだよ」
ルークさん竜なんですか。マジでファンタジーじゃん。生まれて初めて竜になれるって人見たんだけど。え、てか本当にこの国って隠れ里なの? それにしてはオープンだよね? 隠れてないじゃん。
「新たな先祖返りが助けを求めて我が国に来たのなら助けなければならないな。それが古からの隠れ里の掟だし。まあ知ってる人はごく一部だけどさ」
「ルクシオが間者ではないとわかっているからな。喜んで受け入れよう」
「私が同胞を疑う訳ないじゃないか。ふふ、これは騙される方が悪いよね」
悪い大人が悪い笑みを浮かべて私達を見る。ルクシオが小さく呟いた。
「俺以外にもいるなんて…」
「そうだよ。君以外にも先祖返りはいるんだ。それも、この国にはたくさん。だから自分を化け物だなんて言わないでほしい。竜である私まで化け物になるだろう?」
「うわ、自分勝手な理由」
「当たり前。私は自分が竜であることを誇りに思っているんだ、化け物なんかじゃない」
―――もっとも、化け物なんて言う輩は燃やし尽くすけどね。
黒い笑みで呟かれて、背筋が冷たくなった。これは怖い。門番さん、笑ってごめんよ。
「ルクシオ、君は先祖返りについてあまり知らないそうだね?」
「俺の村にはいなかったので」
「なら今日から先祖返りについて勉強してもらうよ。ここが隠れ里だと言っても、姿が変えられないほど血が薄い人間がいるからね。そこのセレス嬢のように。本能が近しいとはいえ血が濃い私達とは異なる存在だ。君がここで生きていきたいと思うなら知っておいた方がいい」
「ここで…生きる」
「そうだよ。君はもうここの国民だ。その国民が周りに馴染めないと困るんだよ。それに多少は隠れてもらわないと邪魔になるからね」
「理由が酷い」
「セレス嬢も勉強してもらうよ。君、魔法は上手いくせに魔力は全く察知出来てないよね? そんなのじゃ後ろから刺されるよ」
「さ、刺され…? なにそれ怖い」
「君は存在自体が危ないからね。攫われたりしたらこっちが困るんだよ。寝返ったら殺すからよろしく」
「何その爽やかな殺人予告。すっごい怖いんだけど」
にこやかに言われても困る。無意識に後ずさるとよくわかる大人衆の表情な。三人揃って目だけ笑ってない。え、私そんなにヤバい存在なの?
ルクシオと同様、私にも最初から拒否権は無かったのか。目が、雰囲気が、拒否したら殺すって言ってる。
「あはは…」
まあ監禁されて飼い殺しにされるよりはマシかな。……この世界やだなぁ。
とりあえず、今までの結果をまとめるか。
1.ルークさんがハイルロイド家に突撃お忍び面談。
2.ルクシオに間者疑惑が。連行さ…攫わ…行く。
3.何故か王都に到着。そこには父が。
4.父の衝撃な職業が発覚。ルークさんの本名と職業も発覚。
5.実はうちの国自体が隠れ里と発覚←NEW!
6.ルクシオ間者疑惑は嘘だった←NEW!
7.私は凶器だった←NEW!
…改めて纏めると碌でもない一日だな。クソかな?
そもそも何故ルークさんがうちに来たのかがわからない。陛下だろ、なんでそんなに自由に動けるんだよ。形だけでも椅子に座っとけよ。
てか何故私達ついて行くことになったんだ? あの時のルークさんはただの父の飼い主だ。一回、二回会っただけの人間に『お前の義弟はスパイだ』と言われても、不信感が募るだけで普通は信じはしない。そもそもルークさんと王様が知り合いだと何故思い込んだ?
本人が言ったように彼は意図的に威圧出来る。もしかすると知らない間に、なんらかの威圧の影響を受けていたのか? それか気づかれないように竜独特の特技を使ったか。
…いや、終わったことは仕方が無い。結果騙されて無理矢理働くように迫られているのだ。今更悔やんでもどうにもならない。そんな事よりも何故このタイミングで私達が呼ばれたかが問題だ。事によっては恐ろしく面倒な未来になる。
一つ目は、変態暗殺者の仲間によって私とルクシオの身元が割れている場合。
この場合なら単純に上層部が私達を助けたいがためにした行動と見える。しかし大人衆を見ていればそれは無さそうだ。逆に、囮として呼ばれた可能性が高い。
ルークさんはわざと私達とあいつらを戦わせるような真似をした。それは私達が戦った時に何分耐えるか計っていたのだろう。一掃する気満々ですね。
二つ目は、私とルクシオを監視するために呼んだ場合。
信じたくないが上層部が私達を危険視して…?
何気にまだ十歳未満である私達を手懐けるためか、洗脳するためか。初手から上層部の人間で固めてきている。並の人間なら泣くよコレ。だってこの場にいるのって将軍と陛下でしょ? 威圧感ヤバいストレスで吐くよ。宰相さんまでいたら胃に穴があく。
三つ目は、ヒロインを助けるために呼ばれた場合。
流石にこれは無いと思う。今助けに行ったらゲーム内容変わるし。ただ、心配なのはルクシオがどのタイミングで攫われるかだ。ゲーム内では、ルクシオが変態暗殺者共に攫われるのは十歳あたり。今彼は七歳だ。助けに行く途中で問題が発生し、孤児院に辿り着く可能性がある。ヒロインがいつルクシオに出会うか知らない以上、どのタイミングで孤児院に行くのかわからない。
私は小さくため息をついた。囮にされるか利用されるか誘拐されるか。なんて最悪な三択。碌でもない。…ダメ元で断れるか聞いてみる?
勉強するなら家がいい、と言おうと口を開く。が、言う前にルークさんがごめんねと断った。妙ににこやかだ。
「君達はここで勉強した方がいい。だって君達は『陛下に連れてこられた子供』だよ? きっと私達を見た周囲はどんな逸材が来たのか気になってるだろうね」
「え、」
なにそれ知らない聞いてない。…けどすごい見られてた気はする。戸惑う私にルークさんは更に言葉を続ける。
「その後メイドに連れられた君達はこの国の将軍達に会った。そして陛下である私もその部屋に入った。ただの子供相手にしては豪華な面子じゃないか。この部屋でどんな会話がされているかいろんな人間が考えるだろうね」
「な…!」
「もしかするとこの国の秘密を知っているかもしれないと誰かが君達を狙うかも。ああ、勿論ここにいれば君達を守るよ」
それでも帰りたいならどうぞ、とルークさんは笑みを深める。ぐ…こいつ、どれだけ本気なんだよ! 脅してまで逃がしたくないってか! くそ、色々手遅れじゃないか!ふざけんなよ。睨みつけても無視される。逆に益々楽しそうに宣いやがった。
「そういえば、先程言ったこの国が隠れ里だって事と私が竜であることは皆に秘密だった。ふふ、うっかり言っちゃったよ。この話は上層部のごく一部の人間しか知らないんだけどな」
「…え、」
「ごめんね、二人共。漏らされたら困るから、やっぱりここで永久就職だね!」
花でも飛んでいきそうな笑みを向けながら最悪な事を言ってくる。ダメだ、詰んでた。どうやっても拒否権は無かった。大人気ない大人が大人気なく子供を虐めてくる。やだこの人嫌い。運命はルークさんに目をつけられた時から決まってたんだな…。ああ、結構前からか、キモい。
「ほら、ここで学んでいきなよ」
陛下が面白そうに笑いながら聞いてくる。早く屈しろと言わんばかりに威圧してきてちょっとイラッとした。
あくまでも私達に勉強させるって名目で通すつもりか。どうやら連れてきた内容は教える気が無いらしい。もういい、そっちがその気ならこっちも考えがある。
…すまんルクシオ、勝手に決めるよ。
「…陛下、私達姉弟は喜んで学ばせていただきます」
「そう、それはよかった」
ふわりと目元が緩む。ひかえる騎士も少し雰囲気が和んだ。よし、その調子で緩んどけよ。こっちの条件を飲んでもらわないといけないんだから。
よし、私は女優だ。これからが不安で堪らないって顔で目を伏せるんだ。ちゃんと目を潤ませて庇護欲を掻き立てる感じで! 刮目せよ大人共! セレスティナの無駄な美貌が今ここに…!
「しかし陛下、私達は不安です。だって私達は『様々な勉強』をするのでしょう?」
「そうだね」
陛下がゆっくり頷く。
『様々な勉強』。
大半が血なまぐさい内容に違いない。ルクシオは勿論、私もいつかいっぱい人を殺すんだろう。ヤバい、演技とかじゃなくて震えてきた。落ち着け、落ち着け。噛んだら終わりだ。ああ、声すごい震える。
「私…私は自分がいかに特異な存在か理解しております。それはルクシオも同様、私達は一般人と違うところが多々あります。…もし私達が勉強をしている間に異常な部分が他人に漏れてしまった場合、どうすればいいですか?」
「それは、この城に裏切り者がいるかもしれないって事かな?」
「そうとは言っておりません。ただ、もしも王宮の魔術師に見られたらどうしますか? すぐに私の異常性を理解し、解明するために私を調べるでしょう。勿論実験もするはずです。……その場合、この国の被害は莫大なものになりますよ」
私の魔法は一般的な方法ではない。一つのミスで不発暴発の危険があるのが魔法というもの。私のやり方は他人から見れば、崖と崖の間をロープ一本で踊りながら渡ろうとするようなものだ。だって呪文を唱えずに、魔力を制限せずに、想像だけで発動させているから。私ができる理由はこの世界の魔法が『気合』で成り立つと思い込んでいるからであって、『気合』で押さえ込んであの結果に持ち込んでいるだけである。
そんな危険な事を他人がやろうとしたら言わずもがな。ちょっとでも油断したら溢れ出る魔力と比例して想像以上の威力が出てしまう。脳筋の白隊員なら奇跡的に一回は出来るかもね? 二回目は爆発だろうけども。
暴発はその人の魔力が制御不可能に陥り、体内で爆発する事だ。て事はそこらへんでやると人間破裂からの二次災害で周囲の人間も死亡。やだー、有望株が全滅だね!
勿論私はベテラン魔法使いさんに抵抗なんて出来ないから。対魔法は無理です、攫われっぱなしです。魔法使いさんに連行された時点で城が爆発すると思ってください。大丈夫です、確実に爆破させる為にそういう説明の仕方をします。
と、最後の一文を除いて丁寧に言うと大人衆の顔が固まった。この人達は私が特殊な能力を用いて魔法を使っていたと思っていたらしい。なに、そうだったら私を解剖するつもりだったの? 弱点が無くなった魔術師は良い戦力になるもんね。怖いわー。まあ私が暴発してもルクシオは助かるはずだから彼だけ生き残れば何でもいいや。
「なので緊急事態でない限り、私は通常の魔法を使う事を、ルクシオは常に人間である事を認めてください」
「了解したよ」
よかった。これで人体解剖されないぞ! あと一つ。
「もう一ついいでしょうか?」
「なに?」
「私達が自衛出来るようになるまで、勉強に専念させてもらえますか? 」
「それは勿論」
よし、これでルクシオが戦場送りになる事もなくなったぞ。狼になれないルクシオはただの子供だしね。漸くひと段落だ。
これで大体は対策できたはずだ。私はいつも通りの魔法が使えない、ルクシオは狼になれない。これで囮になれない。簡単に私達を監視できる。ヒロインについてはルクシオをこの城から出さないように頑張るか。
心の中で気合を入れ直していると、ルークさんがため息をついた。こっちがため息つきたいよ。子供相手に大人三人とか恥を知れ!
「まあそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君達は勉強以外にも仕事があるんだからね」
「え、仕事と勉強は違うのですか?」
「勉強は君達のため、仕事はその対価だよ」
えぇ…それ聞いてない。
「ふふ、そんなに心配しなくとも大丈夫だよ。勉強が終わっても雇ってあげるから」
「遠慮したいです」
「まあそう言わずに」
「結構です」
「勉強もずっと見てあげるよ?」
「もっといらないです」
「……仕事って何の仕事なんですか?」
黒く笑うルークさんに負けじと満面の笑みで断っているとルクシオに話が進まない、と睨まれた。いつの間にかご丁寧に口を塞いでいる。これ以上話すなって事かよ、おい。手を掴んで引っ張って文句を言うがもごもごしか言えない。
「……もご」
「はいはい、黙っていれば離しますよ」
「ぶー」
「…早く仕事内容を言え」
「急かさずとも」
ルークさんがふふ、と笑って二人の騎士を見る。赤は満面の笑みで頷き、白が申し訳なさそうに私達を見てきた。陛下、対象過ぎる表情が気になるんですがそこの所はどうなのでしょう。
これのどこにゴーサインを見つけたのかルークさんがよし、と頷く。そして、世にも奇妙なとろけた事を宣った。
「私の子供……アリスに仕えてほしい」
……相手ヒロインかよ! 誘拐されてねぇし!
陛下VS主人公は先手必勝、陛下の勝ち。結局思い通りに動かされる主人公、哀れです。
陛下共々本来の目的は殿下と会わせる事です。主人公の能力は運が良ければ研究出来るかな、と考えていましたが真実を知って撃沈。一石二鳥とはなりませんでした。
ルクシオがゲーム通りで無い以上ヒロインもゲーム通りではない。って事でヒロインは攫われていませんでした。朧気な記憶をもとに考えるからこうなるのです。
ありがとうございました。




