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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
プロローグ
2/56

2話 馴染めるか心配です。

お願いします。

 こんにちは!私、セレスティナ!ただのマンションが城の一室になって、自分が美少女になって、よくわからんやつが父親だったっていう説明するのも面倒臭いあの日から数日、私は新しい困難に直面しているの!

 それはね、この国の着る服について!ドレスしかねぇ…ないの!すっ…すごいひらひらなの!…ふざけんじゃねぇよ!


「だぁああ!!!」


 そこかしこに散らかしたドレスを薙ぎ払ってベッドに飛び込む。ひらひら!ふわふわ!かわいい!を凝縮したドレスを見続けて早く一時間。こんな可愛い服を着てられるかと諦め悪く探しているのだが、セレスティナは子供なんだよなぁ…淡い色のふりふりドレスしか見つからない。くそぉ…セレスティナは子供なのか。なんで子供なんだ。こんな七五三でも着ないドレスなんて着てられない。

 この世界に知り合いはいないし、多分着たら似合ってるし、こういう服しかないのは分かっているが…大人としての羞恥心がね。私の中の大人が『よかったでちゅねー』と茶化してくるのだ。恥ずかしい…着れない…。

 悩みに悩んだ末、一番大人しめな白いドレスを着た。可愛い系の私の顔にはよく似合ったドレスだ。もうちょっと動きやすかったりしたら嬉しいんだけど贅沢は言ってられない。いいんだ…いつかジャージを作るから。流行れ、だるだるファッション。


「さて、これからどうしようか」


 兄妹のイタズラかと思ったら、どこか知らないお嬢様になっていました。なんて素敵なんでしょう……うん、素敵ではないな。

 何の冗談か皆の髪の毛は色とりどりだし文字の形も見たことがない。月も2つあった。けど文字も読めるしドレスも着れる、ご飯も自分とは思えないぐらい綺麗に食べられる。月と髪の毛はぎょっとしたけどまさにファンタジー。こりゃ魔法を見る日も近いぜ!


「(…私はボケたのかな)」


 そう思わないとやっていけない。


 コンコンと扉を叩く音がした。どうぞと言うと失礼しますと言いながら年若いメイドが入ってきた。名前は確か…。


「おはよう、キャビィさん」

「おはようございます、お嬢様。名前…覚えてくださっていたのですね」


 うん、高級魚卵っぽくて。なんて言えないので勿論と答えておいた。大丈夫、顔は美少女だよ。綺麗系だよ。髪の毛魚卵色だけど。


「泣き止んで。あなたの名前を忘れるはずないよ」

「お嬢様っ……」


 彼女の顔を覗き込むようにして笑うと、キャビィさんの瞳がうるうると揺れる。えっ、泣くの?まさかのリアクションに後ずさると、キャビィさんは優雅に泣き崩れた。…えと、ギャグかな? 罪悪感しかないんだけど。

 あの、セレスティナ…だっけ。君は何をしたら使用人をこの状態にできるの? そういう調教をしたの?恐ろしい子だ。


「いや、まあ、とりあえず…私は以前のセレスティナとは違うけど…これからもよろしくね」

「お、お嬢様ぁぁぁ!!!」


 ……本当に恐ろしい子だ。






 朝食は無駄に長くて大きい机でいただいた。もの凄く騒いでいた父親(名前は知らない)と食べると思っていたからいないとわかってホッとした。別に嫌いじゃないよ、面倒くさい臭がするから近寄りたくないだけで。彼がいると美味しいご飯の味がなくなるんだ、うるさすぎて。今日は珍しく味のする朝食だった。毎日こんな感じなら嬉しいな。

 あと、あれだけ泣いていたキャビィさんは今キリッとした顔でテキパキと仕事をこなしている。彼女はセレスティナの使用人だったらしい。それなら私が覚えてたら号泣するか……いや、やっぱり号泣はしないだろ。キャビィさんにキャビィさんの名前を聞いたのをはっきり覚えているぞ。ヒステリック美少女なのかな?



 朝食を食べた後は図書室に行くことにした。調べたいことはこの世界のこと。前とは全く似ても似つかないこの世界だ、油断するとちょっとした事で問題に巻き込まれてしまう。文化によっては手の動き一つ、足の動き一つで不敬になったり敵意を表すものになるのだ。こういう礼儀作法は早目に覚えておくことに越したことは無い。

 この世界は自分しか自分を守る人間がいない。誰かを守らなくていい分楽だが頼る人がいないのはきついものがある。今のうちに自立して一人に慣れておかないと。

 だから、まずはこの世界の常識を知る事が先決だ。のだが…


「身長が足りない」


 懸命に背伸びをして目当ての地理っぽい本に手を伸ばす。が、身長が低くて取れない。セレスティナ小さいな。本棚が高いのか…? どちらにせよ本が取れない。

 うーん…いつでも逃げれるように今のうちに退路を覚えたいんだけどなぁ。逃げるとか無しにしても、地図を見ると分かることは沢山ある。この国と隣国の大きさは超重要だし、世界地図が本に載っているのなら一般的にも地図が布教しているとみれるから、この国の教育水準は悪くないだろう。ただ私が貴族らしいから平民と違うかもしれないが、少なくとも私の教育環境は悪くない。地理公民の本はその国の性質を見せてくれる説明書みたいなものだ。なんでもいい、読ませて。


「あーうー…跳べば取れるかな。あ、椅子持ってきたら取れるか?」

「止めとけ止めとけ。落ちたらどうするんだ」


 苦笑と共に『ほら』と、お目当ての本を手渡される。なんて優しい人なんだ。取れないのにひたすら手を伸ばす哀れな私に手を差し伸べてくれるなんて…!

 予想外の助けに感謝も忘れておずおずと手を伸ばす。本には『メルニア』と書かれており、中を見ると地図が書いてあった。これだ…これが読みたかったんだ!


「やった!」


 嬉しさのあまりにきゅっと抱え込む。これを読んでいつでも逃げれるように覚えるんだ。頬を緩ませながら彼に感謝を述べようと後ろを向く。ありがとう。口を開けて言おうとした瞬間、私ははて、と首を傾げた。


 そこにいたのは見上げるほどの偉丈夫だった。何かしらの武術を嗜んでいると窺える隙のない立ち姿。意思の強い鋭く深い蒼色の瞳に同色の髪。すっと通った鼻にきゅっと結んだ口。見たことがあるような…ないような、そんな美形が気難しそうな顔で立っていた。

 この美形、どこかで見たことあるぞ。その時はぐしゃぐしゃに歪んでたような気がするけど…いや、普通に朝に会ってたな。視線を合わしたくなくてずっと下を向いてたんだけど……えーっと、あれだ。


「お父さんか」


 そうだ、セレスティナの父親だ。あの碌でもない父親。号泣顔と差がありすぎて誰だかわからなかったよ。


「セレス、今日も可愛いな。お前の可憐な見た目にそのドレスは似合ってるぞ」


 一人で納得しているとお父さんから何やらよくわからない呪文を言われる。おっと、聞いていなかった。気難しい顔をしているからさぞ気難しい言葉を発したのだろう。…『かわいい』とか『可憐』とか言ってない。多分聞き間違えだ。こんな表情で言う台詞じゃない。


「なぁ、昨日から冷たくないか?もっと『お父様も素敵!』とか『ありがとうお父様、大好き!』とかやってもいいんだぞ?ほら、恥ずかしがらず!」

「……」


『抱き着きながらでもいいぞ!』と両手を広げる父に冷たい目をしてしまうのは仕方ないだろう。詐欺だ、これは詐欺だ。呆れて何も言えない。

 わかってた、わかってたよ。ここ数日間会ってもまともに顔を見なかったし、全部聞き流してた。私が悪かったさ。初日が酷かったからって流石に存在自体を消したら駄目だよね。

 だからって、だからって何故神はこんなに見た目と中身をかけ離れさせるのか。黙れば真面目なお硬い騎士様なのに!黙っていればかっこいい美形様なのに!


「…冗談はさておき、何を調べているんだ?」


 ニコッとオノマトペが出てきそうな笑みを浮かべる父が私の抱える本を覗き込む。さっき取ったはずだから本の題名を知らないとは言わせないぞ。違和感を覚える笑みに後ずさる。…っ、後ろは本棚だった。くそ、逃げられない!


「お父さん、手がわきわきしてて気持ち悪いんだけど。ちょ、近寄らないで」

「ほうほう、地理の本かー。なんだ?地理に興味があるのか?」

「抱きつかないで。その手、右、右手が鳩尾に刺さってるの。殺意高くない?」

「疲れてるだろうに…セレスは偉いなー。よし、俺が懇切、丁寧に教えてやろう!」

「ちょ、首折れる…!首折れるから撫でないで…!」

「はははっ、遊んでほしいのか?」

「抵抗してんだよぉぉぉ!!!!!」


 和やかに笑いながら決め技を繰り出す父を誰か止めてください。死にます。



 父は数分間私に思う存分技をかけたあと、漸く私を解放した。全身打撲ってこんな感じなのかな。節々が痛いや。なぜ抱きしめられるだけで殺されかけなければならないのか早急に議論したい。生命の危機を感じる親子の語らい…か。これはセレスティナ号泣しただろうな…。大人の私が泣きたいんだから子供ならトラウマになってる。

 あまりの痛さに悪態をついているうちに父は違う本を取りに行ったらしい、鼻歌を歌いながらフラフラと行ってしまった。何そのファンシーな曲。『わんだふぉぉおお』じゃねぇよ。お前の頭はクレイジーだわ。せめて顔面と表情を合わせてから歌えや。

 そのまま帰ってこないでほしいなー。一人で勉強したいなー。どこかに消えてくれないかなー。父が消えた方向を遠い目で見つつ、まだ見えぬお星様に願ってみる。神様って私たちのことを見守ってくれてるよね。無神論者にも関わらず願ってみるが…まあ、神は無慈悲だよね。数分後嬉しそうに帰ってきた。両手に分厚い本を持って。


「今日中にこれ全部覚えるぞ!」

「…は?」


 机を揺らす分厚い本に目を疑う。辞書級の分厚さの本が一、二、三、四…四冊?!

 何言ってんだこいつ。ありえないものを見る目で父を見ると、笑みを浮かべたまま心外だと言わんばかりに指を振った。


「これ、相当分厚く見えるだろう?」

「見えるだろう?じゃない!分厚いよ!」

「だがな、中身は案外、」


 ペラリと開かれるページ。まあ、文庫本よりも字は大きい。大きいが…考えてみてよ。ページ数の事を考慮すると…


「な、身構えるほどじゃあないだろ?」

「身構えるわ!分厚いわ!ふざけんな!」




 …前々から思ってましたが、この屋敷の人間は全体的におかしいみたいです。私が想像する貴族じゃないっていうか、ただの大家族?

 あと、やっぱり私の父親は面倒くさい部類の人間でした。久しぶりに地獄を見ました。鬼畜の所業です。もしセレスティナにもこんな事をやっていたのだとすれば父のせいで倒れたとしか思えません。恐怖のあまりに全てを忘れてしまったとしても誰も咎めはしないでしょう。もう嫌だ。近づきたくないです。


主人公は苦労人ですが半分は自分のせいです。気づかないうちに引き寄せられてます。

父は娘の事が大好きです。両目に入れても痛くない。むしろ両手上げて喜びます。今週一週間は娘のために休みをもぎ取りました。


ありがとうございました。

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