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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
お家騒動編
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12話 領内探索の後ですが。

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 領内探索からの帰宅後、私とルクシオは一日の休息を得た。


 …と思いきや帰って早々、父の書斎に呼び出された。今までの経験上、父に呼び出されてよかった事は一度も無い。

 凄く行きたくない…。けど行かないと面倒臭くなるから、私は服やら何やら身の回りを整えてから父の元へ向かった。本当に面倒臭いな…こういう日くらいは寝させてほしい。


 部屋に入るとルクシオとお父さんがいた。その光景はルクシオが初めてこの家に来たときと似ている。前と違うのは私が睨まないぐらいか。書類に埋もれるお父さんに、書類整理ぐらいしろよと思いながらルクシオの隣に立った。


「お父さん、話って何?」

「まあそう急かすな。セレス、ルクシオ、今日は楽しかったか?」

「……まあ、そうですね」

「あー、うん。楽しさは無かったね」

「そ…そうか」

「それよりもね、お父さん。私、言いたいことがあるの」


 邪悪な顔になっているだろう笑みを浮かべて机を叩く。拍子に書類が崩れたが気にしない。

 今回の領内探索は私達が悪かった…わけじゃない!どう考えても初手の囲みが悪いと思う。あれはおかしいだろ!すごく文句が言いたい!


「お父さん。今日ね、使用人達に包囲されながら街を歩いていたんだ。包囲、だからね。おかしいと思わない?『俺達は貴族だ!』って看板背負いながら歩いてるようなもんだよ。平民の服を着ていてもバレるわ!」

「え…」

「その上、あの街は人通りが多すぎる。あの囲み方じゃ私達が潰れるから!迷子になったのは悪いと思ってる。けどあの囲みは酷いよ。もしお父さんがそうしろって使用人に言ったのなら…恨む」

「……そうか」


 何故かお父さんが涙目になっている。きもい。


「…次は囲まないように言っておいて。本気で逃げるよ」

「え、ああ…その……すまんな。悪かった。……迷子になった時、お前達はどうしたんだ?」

「私とルクシオは広場で使用人達を待っていたよ」

「お前の魔法を使えばすぐに使用人達と合流出来るだろう?何故やらなかった」

「…初めはやろうと思ったよ。けどいい考えが思いつかなかったんだ」


 まず街中アナウンスをしようと思った。けど絶対街がパニックになる。恥ずかしい。

 次にテレパシーでも送ろうと思った。詐欺っぽくなるから駄目だと思った。

 最後に空でも飛んでやろうかと思った。けどルクシオを連れては飛べないし、空飛ぶ子供ってアウトだと思う。だって並大抵の魔法使いじゃないと飛べないらしいし。

 結果、魔法を使うと目立つから出来なかった。街に入る前から目立っていたのに、もっと目立つ行動を取ったらマジで襲われる。やだよ、売られるよ。


 と言うと、微笑まれた。どこに微笑ましい要素があった。

 もしかしてお父さんも『攫われるなら殺れ』な殺伐系思考回路の持ち主なのか?!…うちの人間はまともな奴がいねぇ。


「…けどちょっと面倒な事になっちゃってさ」

「不良に襲われたんですよ」

「うん、そうそう。変なおっさんに絡まれたの」

「ほう…そうか」


 あのクレイジーさん達…腕大丈夫かな?ボキボキ折られてたよね。南無…と心の中で拝んでいると、お父さんの目がキラリと光った。…あれ、嫌な予感がする。


「そうか…。セレス、そいつらの見た目を詳しく教えてくれ」

「やっぱりか!そんな殺意の篭った目をしながら聞かないでよ。殺ったら怒るよ!」

「エドウィンさん。腕が折れてる不良とその取り巻きです」

「なるほど」

「ルクシオも答えるな!お父さんも頷かないで!」

「今度行った時は街が綺麗になっていそうですね。よかったです」

「良かねぇわ!」


 私の頭の中に『死亡確定』の文字が飛び回る。クレイジーさん達…ごめん。私には止められそうもないよ。今度行ったら墓は作らないけど魚の小骨ぐらいは供えてあげるね。


「南無…」

「どうしたんです?」

「元気に暮らせていけるように…ね」


 天国に行けたらいいね、あの人たち…。





 っと冗談はともかく、そろそろ本題に入ろう。


「お父さん、なんで私達を呼んだの。あんまり焦らさないでよ」

「…ああ、そうだな。ルクシオ…大丈夫だよな?」

「はい」


 お父さんとルクシオの目が合わさる。それぞれがゆっくり頷いて私を見る。そしてお父さんが静かに話し始めた。


「セレス、お前…ルクシオが先祖返りと何時気付いた?」

「え…と、知ったのは今日だったけど結構前から…かなとは思ってた」

「そうか…。実物を見てどうだった。あいつの様子を見ただろう?あいつは人を殺すのに躊躇が無い。いや、あいつは殺すのを楽しんでいる節がある」

「いや、そんな事は…」

「お前、全身濡れてたよな?どうせ返り血を洗ったんだろ?」

「えと、その……」


 しどろもどろに答えるルクシオに、隠しきれてないじゃんと睨んでしまう。おい、目を逸らすなよ。


「こいつは先祖返りの中でも特に血が濃い。獣に姿を変えられるのがその印だ」

「え、姿が変わらない先祖返りっているの?」

「いるぞ。血が薄まったら変わらなくなる」

「じゃあ知らない内に先祖返りの人と知り合いになっていたりするの?」

「そうだな」


 …そりゃそうか。先祖返りと人間からの子供は血が薄い。だんだん薄まれば変化する能力も落ちてくるから変化しない。納得だ…が、なんで本に書いて無い事を知ってるんだろう。

 首を傾げていると、不意にルクシオと目線が合った。何処か不安そうだ。


「セレス、どうだった?ルクシオを…恐ろしいと思ったか?」


 お父さんが私に聞く。お父さんもルクシオ同様不安そうに、しかし何処か希望を持った目を向けてきた。

 ……なるほど。この親子はとても無駄で面倒な心配をしているらしい。真面目に答えた方が良さそうだ。


「……私は、人を殺すのが恐ろしいと思った」


 私がそう呟くと、二人、息を呑む音が聞こえた。


 あの時、私は恐怖に飲まれていた。男の腹に刃が刺さった瞬間、私の時は止まった。崩れていく様子が力無くて、流れる様子が淡々としていて、あの静寂が怖いと思った。

 これはゲームだ。私はずっとそう思っていた。今だってそう思っている。

 けどあの時は、一つ外から眺めている冷静な私じゃなくて、この世界で生きる私だった。

 他人事ではなく、前のセレスティナでもなく、私が殺意を持った。無意識に刃を出した。『殺す気があった』。私は気付かない内に彼を殺そうとした…!


 理解した瞬間、頭が真っ白になって血の流れが消えた。その癖、刺さる音と流れる血がやけに耳に、目に焼きついた。血腥いあの光景が一枚の絵のような、完成された死に見えた。


「けど…どうしてだろう。私と同じ事をしている、あの時のルクシオはとても綺麗だと思った。目の前で人が殺されているのに、恐ろしいと感じる前に…美しいと思ってしまった」


 決してゲームの一画面だからではない、圧倒的な美しさがあった。意思の強い瞳に力強い四肢、軽やかに舞う姿、全てが綺麗だった。あの時私は、ルクシオに見惚れていた。そして、それ以上に。


「…まさか目の前ですると思わなくて吃驚した。散々折ってたからやるかなとは思ったけどさ、あんなにあっさり殺ると思わないじゃん」


 お父さんとルクシオの目が見開く。二人は顔を見合わせ、もう一度私に向いた。

 それはもう一度言えって事かな?まあどうでもいいや。


「お父さんとルクシオは何を心配してるかわからないけどさ、ルクシオが先祖返りであろうがなかろうが変わらないよ。前からあんな性格だったし行動もあんなのだった。それを今更どうやって怖がれっての?」


 意味分からん、とこちらを向くルクシオの頬にそっと触れる。ほら、こんなに涙目になって…本当によく泣くねこの子。頭撫でたら涙止まるのかな?


「どうせもう一つの君を知って私が嫌ったら、出ていくつもりだったんでしょ?」


 ルクシオにそう聞くとゆっくりと頷いた。それに、思わずバカだなぁと笑ってしまう。

 私が身内を見捨てるわけないだろう?


「で、お父さん。ルクシオはこの家に残るの?それともどこかに行くの?」

「いや、セレスが大丈夫ならいいんだ。ルクシオはずっとこの家にいるぞ。…お前が偏見の無い良い子に育ってお父様は嬉しい」

「偏見も何も先祖返りに会ったのはルクシオが初めてだもん。他のを知らないから判断しようがないよ。もしルクシオが悪い人だったら、全ての先祖返りを怖がったと思うよ。その点、ルクシオには感謝したい」


 その代わり全ての先祖返りが野性的な感じなのかなとは思うようになったが。きっと野性的なんだろうな、うん。


「ねぇ、ルクシオ。君はこれからも私の家族でいてくれる?」


 俯いて震えるルクシオの頭を撫でながら小さく言う。

 彼が答えるまで待ちながら二度、三度と上から下へ手を滑らせる。と、ルクシオが突然抱きしめてきた。


「これからも…よろしくお願いします」


 掠れた声が耳に届く。私も抱きしめ返しながら言った。



「これからもよろしくね、ルクシオ」


ルクシオは狼の姿を見られた時、主人公に怯えられたらハイルロイド家から去ろうとしていました。が、変身するぐらいで驚く主人公ではありません。どちらかと言うと血塗れの戦闘光景の方が気になります。

エドウィンも娘の予想外の回答に驚きが隠せませんでした。なんせ『人が獣になる』事は重要視していなかったのです。眉一つ動かさずに性格重視を主張した娘にある意味感動しました。


ありがとうございました。

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