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どうやら悪役令嬢はお疲れのようです。  作者: 蝶月
お家騒動編
14/56

10話 領内探索中…ですよね。

がっつり戦闘中。

お願いします。

「ルクシオ!」

「っ!」


 急いでルクシオを押す。その瞬間、ぴっと私の頬をナイフが擦り、バランスを崩したルクシオの頭上の壁に刺さった。これ、ルクシオの頭狙ってたよね?


「大丈夫ですか?!頬に傷が…」

「大丈夫大丈夫。かすり傷だよ。それよりも…」


 前を見ると黒衣の偉丈夫が立っていた。いつの間に立っていたのか、気配が全然しなかった。彼は無表情な顔で興味なさげに私を見、それからルクシオを見つめる。

 雰囲気がクレイジーさんやファンキーさんと違う。比べ物にならないぐらいのピリピリした空気が漂っている。その空気、容姿はまるで…暗殺者。

 ナイフをくるりと回し、私達に突きつける。そして、面倒そうに呟いた。


「ルクシオ・オルランド、やっと見つけた。いい加減俺達と共に来い」


 どうやらルクシオと何かあるらしい。おかしい、こんなイベントは聞いてない。ルクシオはお父さんに攫われて、暗殺者にされて、今私といるはずなんだ。何故他の暗殺者らしき人から勧誘が来る?

 ルクシオは唸りながら私の前に出た。余程の事件があったらしい。ルクシオが憎悪に歪んだ目を彼に向ける。


「嫌だ。俺はお前らについて行かない」

「何故だ?今のお前は何者にも縛られてないだろう?」

「それでも、だ。アイツらを…あの村を滅ぼした奴らについて行くか!」

「え、話大きい」


 大事件発生してたよ。攻略対象で村崩壊したよ。マジで?


「今度は貴族に匿ってもらっているのか?ならそいつらを殺せば来てくれるのか?」

「っ!それだけは止めろ!」

「その女は貴族の娘か?娘から付け入るなんて、手が早いじゃないか」

「…!」

「ルクシオ、落ち着いて!」


 殴りかかろうとするルクシオをどうにか引き止める。何故こんな所で羽交い絞めにしなければいけないのか。明らかに勝てないだろうに喧嘩っ早いな本当。


「貴方は誰なの?何故こんなことをする?」

「ルクシオ・オルランド。そんな未来は嫌だろう?さあ、俺達と共に来い」

「おいテメェ話聞けや」

「今ならこの女の命は助けるぞ」

「ガン無視か?ガン無視なのか?ルクシオしか見えてないってか?」


 何なんだ?この男はルクシオの事が大好きなのか?


「ルクシオ・オルランド…」

「ルクシオ、逃げるよ。あの人あの台詞しか言わないし」

「けど…」

「勝てないでしょ。今は諦めて」


 きゅっとルクシオの手を握る。落ち着くように低く唸る彼の背を軽く叩いて、私達は走り出した。


「…待て」

「っ、しゃらくさい!」


 飛んできたナイフを魔法で弾き飛ばす。ウザい、まだ何か語るのか?ならルクシオの会とかでも作っとけ!







「っはぁ…はぁ、誰もいない?」

「は…い。誰もいないと…思います…」


 暗い路地裏で二人座って息を整える。ここ、何処なんだろう…。

 正直今の状況は拙い。

 あの暗殺者は仲間がいたのか凄い頻度で遭遇する。そして毎度毎度ルクシオを勧誘してくる。きもい。

 クレイジーさんやファンキーさんも追いかけてくる。会う度に増えるのは、その度にルクシオがボッキリ折っていくからだ。なぜ折るんだ。


「すみません…。俺のせいでこんな事態に…」

「暗殺者達はともかくクレイジーさん達を折るのは止めなさい。毎回してたら折るところ無くなる…じゃなくて、とりあえず止めて」

「それは無理です」

「即答か!」


 く…!折り放題祭りじゃないんだぞ!

 頭を抱えていると、ルクシオがぽつりと聞いてきた。


「何も…聞かないんですか?俺が追われている理由」

「…いや、聞くも聞かないも暗殺者に勧誘されてるんでしょ?君に何か才能があるのか、それとも必要なものを持っているのかは知らないけどさ」

「何故…貴女はそんなに冷静でいられる?本当は凄く怖いんじゃないんですか?」

「いや、怖くはないよ。ルクシオと一緒だし」

「どうしてそう俺を信じるんですか?俺は貴女に何も言っていない。貴女は俺に今の話を聞いてきても、過去の話には何一つ聞いてこない!気持ち悪くないんですか?」

「じゃあ聞くけどね、ルクシオ」


 涙で潤んだ彼の顔にそっと触れる。びくりとする彼の髪を軽く撫でてさらさらと感触を楽しむ。

 そして、頬をゆっくり包み込み……ぷすっと潰した。


「ふぇ」

「ねぇ、ルクシオ。君さ、初めに言ってたよね?『アンタには聞かせられない』って。あんな顔で言われて聞くほど子供じゃないよ、私」

「でも今はこうやって追いかけられて…」

「そこらへんは君の不始末でした、で終わりでしょ?君は勘違いしてると思うけど、重要なのは私が今のルクシオを知っているかどうかだよ。昔のルクシオは二の次三の次なの!それでも何、今から昔話を語り始めるの?この状況で?」


 彼の瞳から溢れた涙を掬い、にっこり笑う。そしてわしゃわしゃっと髪を撫でて手を引いた。当然手を引いたから彼は私に抱きついてくる形になる。逃げようとする彼を抱きしめて、逃げないようにした。


「…っ!」

「ルクシオ、私は君の過去に興味が無い訳じゃない。けどね、決心も付いてないのに私に語るのは違うと思うよ。落ち着いて、本当に私に話したいって時に話しなよ。その時は真面目に聞いてあげるから」

「……」

「大丈夫。君が何者でも驚かないよ。君の行動には驚かされてばっかりだしね!慣れてきたわ!」


 鳥を捕まえるから始まって、番犬と会話し始めた時は涙がちょちょぎれました。あれ以上驚く事があるとしたら突然熊を背負って来るぐらいか?ダメだ、想像できる。


「ほら、あと一踏ん張りだよ!」

「…はい」


 まずはここから抜け出さないと、夜になったら危険だ。―――と思ったのに。


「…結局こうなるのか。薄々気がついてたけどさ…」

「すみません…」

「いや、大丈夫…ではないけどどうにかなる…のかな?ルクシオは悪くないよ」


 日が沈み始めて早一刻。辺りは暗く澱み、光の無い廃墟を黒く包み込む。夜空に浮かぶ星も今や暗い雲に隠れ、薄気味悪い雰囲気が一帯に漂っていた。

 結局、夜になってしまった。物陰に隠れて逃げながらの移動を繰り返していたが、土地勘がないここでは行きたい場所へ行けなかった。行けたと思ったら違う場所だったし。

 そして今、使用人達と合流出来ず、繁華街にも戻れていない。状況は最悪だ。地理なんて覚えていても帰れないじゃないか!


「ルクシオ…どっちに行けば帰れそう?」

「そうですね…。右、に行けば光が見えますが、不審者がゴロゴロいます」

「遠回りに行くのは?左とか」

「左もいますね。それよりも…今」

「…今?」

「…囲まれてます」

「え、もしかして…」


 辺りを見渡すとゆらり、と影が揺れた。しかし暗くて見えない。何か動いてるのはわかるんだけどな…。残念なことに全く見えない。ルクシオ、目が良すぎないか?


「…ルクシオ、ちょっと横向いて」

「はい」


 ちょっと木が燃えてもいいよね。バレないバレない。

 ルクシオが雰囲気目を逸らしたのを確認して乾いた木材に火を放つ。勢い良く燃えると同時に辺りが明るく照らされた。

 周りを見ると本当にいた。人数は六人でルクシオが言った通り囲むようにして立っていた。眩しい、と目を細めているのが何とも気が抜けるが…急に明るくしてごめんなさい。


「ふん、小賢しい真似を。女、魔導具を持っているのか?」

「魔導具?いや、魔導具…なのかな?」


 魔道具というのは魔法で作られたモノの事だ。魔法は水や炎を作ることが出来る。水は放つことも出来るが飲む事も出来る。要するにそういう事だ。活用の仕方で言い方が変わるだけ。魔法が使えない人もいるので、この手の産業は活発です。


 同じ読み方だが魔導具は全く違う。魔導具はモノ――基本的に鉱物――に魔法を刻み込んだ道具だ。刻み込んだ魔法しか使えないので魔法の補助に使われる。下手な人は大雑把に魔力を詰め込むから高い宝石を砕いたりするが、上手い人は宝石によって入れられる量がわかるらしい。だから魔石師とかそういう職人がいるのだ。

 ただここで問題なのが、魔法で宝石を作った場合だ。魔法で作っているので魔導具…だとは思うのだが、魔法は刻まれていない。なのできっと術者の魔力が切れたら消えると思われる。今使っても消えなかったし。ただの魔導具は、術者の魔力が切れたら吸収されて元の宝石に戻るらしいので、その線が濃厚だ。


 だから危ない実験なのです。宝石電池なんてこの世界に無いし、見た目も美しい。捕まえられたら、延々と作らされて出来なくなったら実験台にされてポイ、だ。冗談じゃない。

 けど一つあれば心強い逸品だ。なんせその人が使えない魔法も使える可能性があるのだから。まあコイツらに言うつもりなんてない。言ったところで碌な事にならん。

 しかしコイツらは気になるらしい、私に再度質問してきた。


「それならば、女。お前は魔法が使えるのか?」

「…それはどうでしょう?」

「お前は呪文を唱えずに魔法が放てるのではないか?暴発もせずに」

「え、暴発?そんなのになるの?え、マジで?」


 知らなかった…。呪文無しって一般的には爆発するものなの?!そんな危ない行為なら誰でもいいから止めてよ!


「ほう…なるほど。女、俺達と共に来い。その才能を使わないのは失礼だとは思わないか?」

「いやー、最近もそんな事言われたよ…。けど、仲間になる気は無い。ルクシオに酷い事をする人間をどう信用しろって言うの?」

「何も酷い事では無い。ルクシオ・オルランドはあの村に縛られていた。それを解放して何が悪い?解放されてルクシオ・オルランドも本望だろうよ」

「っ!俺はあのままで良かった!なのにお前らが…!」


 ルクシオが唸りながら奴らを睨み、悲鳴のような声で吼える。驚いて隣を見ると、彼は既に駆け出していた。


「絶対に…絶対に赦さない!」

「ルクシオ!」

「ふん」


 男は殴ろうとした腕を掴み捻り揚げ、ルクシオを地に倒す。他愛も無い、と吐き捨ててルクシオを冷笑し、胸ぐらを掴み上げた。


「ルクシオ・オルランドの力はその程度か?本気を出せば俺達をすぐに殺せる筈だ。何故やらない?」

「う…るさい…!」

「おっさん、私もいてるのを忘れないでね?」


 男に向かって氷の刃を飛ばす。が、簡単に避けられてしまった。ちっ、そうそう上手くいかないか。まあルクシオを救出出来たから良いとしよう。

 ルクシオの前に立って男を睨みつける。だが男は冷たい笑みを浮かべたまま、私達を見据えた。そして周囲の仲間に呼びかける。


「あの女とルクシオ・オルランドを捕まえろ。多少壊れてもいい。生きて捕まえろ」

「…!」

「くそっ!本当に大人気ないね!」


 一斉に暗殺者達が攻撃してくる。暗殺特化だからかナイフ使いが多いが、対人戦なんてやってない私に戦い方なんてわからない。

 どうしても前の記憶で、人や動物を傷付けるのには抵抗がある。そんな私がルクシオを連れて逃げ切れるだろうか。


「いや、せめてルクシオだけでも逃がさないと…!」


 今漸くわかった。ルクシオはお父さんに暗殺者にされたんじゃない。ゲームの中の彼はコイツらのせいで暗殺者にされたのだ。

 何故こちらではルクシオがハイルロイド家に来たのかは知らないが、確実に言えるのは今逃げきれないとルクシオは暗殺者になる。そしてヒロインを殺しに行くことになる。


「んな事…させてたまるか!」

「…!ほう、なかなかやるではないか」


 私とルクシオを守るように風の壁を創り出す。暗殺者達には炎を放った。しかし、相手もプロだ。軽々と避けられ、更に距離を詰めてくる。


 私と暗殺者達の攻防戦を悔しそうに眺めるルクシオに言った。


「ルクシオ、助けを呼んできて!大丈夫だよ、危ないと思ってもそのカフが守ってくれるから!」

「けどアンタを置いてなんて…」

「私は大丈夫!こんなのに捕まるはずないでしょ!ほら、行った行った!」


 ルクシオに再度壁を張り直しながら周囲の暗殺者達を吹き飛ばす。体勢を立て直している今がチャンスだ。私は思いっきりルクシオの背を押した。


「ふん、二手に分かれようが無駄だ。お前達、ルクシオ・オルランドを追え」

「追わせるか!おっさん達は私の相手をしてよね!」


 ルクシオを追おうとする奴らを吹き飛ばして足止めする。しかし二度目の暴風は受けてくれないらしい。魔法で軽く往なし、ナイフで壁を破ろうとしてきた。

 この調子でどうにか援軍が来るまで耐えないといけない。が、いつまで持つか…。


「女よ、お前は何故俺達に攻撃しない?お前なら俺達を傷付けるなど容易いはずだ」

「そりゃ魔法は防衛手段だからね、攻撃になんか使わないよ!」

「だからお前は俺達に勝てない」

「…!」


 壁にヒビが入り始めた。急いで修復しようと魔力を込める。

 くそ、間に合うか…!


 ―――パリン


「っ!」


 暗殺者のナイフが腕を抉る。同時に、反射的に放った氷の刃が暗殺者の腹に刺さり、どさりと立てて倒れた。倒れた暗殺者の下の、地面が赤く染まる。


「はっ、やれば出来るじゃないか」

「……!」


 突然の出来事に身が竦む。私が…人を殺した?嘘だろう?倒れた…だけだろう?

腕の痛みより、目の前の戦いより、地に広がる赤が頭にこびりつく。信じたくない。あれは…血で、私が彼を……?


 男が投げたナイフがゆっくりに見える。どこか他人事のように、それを見ていると後ろから声がした。


「―――セレスティナ!」


 ナイフが弾かれる。ぎゅっと抱きしめられて、視界が塞がれた。


「ルク…シオ…?」

「すみません。貴女を置いていけませんでした」


 彼は再度、私を強く抱きしめた。


魔道具→魔法で作ったモノ。魔法で作った水を売っても魔道具だし、魔法でノートを作っても魔道具。しかし普通に作ったものと大差はない。人件費はかかる。

魔導具→宝石に魔法を刻み込んだモノ。宝石に刻める魔法は一つだけだが魔力が切れるまで使い続けられる。術者の魔力が切れると吸収されるが質が悪い上にほぼ体外に漏れる。

主人公が作った魔導具→宝石電池。魔法が刻まれていない。術者の魔力が切れると吸収されるので、少ししか魔力を持っていない人間も魔術師のように魔法が扱える。軍事目的にされかねないと作ってから気付いた。


戦闘…終わらせたいです。


ありがとうございました。


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