Episode2 聖なる夜に降る雪は。
前回の続きです。
お願いします。
パーティ前日。なにやらうちの家が凄いことになった。いや、そのままの意味で。
パーティ予告会(仮)を終えた後、使用人達はそれぞれの役目を確認するために分かれていった。
執事長チームはパーティ会場の整備をするために外へ出た。メイド長チームはドレスやら何やらを持っていない使用人達のために服をかき集め、その人用に採寸を合わせるらしい。一日では間に合わないと思うのだが、無駄に有能な使用人達はやりきってしまうのだろう。そして、料理長チームは屋敷外の山に行って狩りをしてくるらしい。ぽちとたまがついて行くらしいので大量に動物の肉が手に入るだろう。
ついでに警備している使用人達は一刻ローテーションで中の人と交代らしい。適度に休ませながらの強制労働、お見事です。
そして、言い始めた父は一旦仕事場に戻っていった。どうやら上司に話をつけてくるらしい。おい、昨日はどうしたんだ。勝手に帰るのは職務放棄じゃないのか?
そして、私は今、キャビィさんに採寸されている。
「別に新しいドレスは要らないんだけど…」
「お嬢様、これはパーティですよ?きちんと着飾らないといけませんわ」
「けど時間無いって言ってなかった?」
「大丈夫です。今あるドレスを作り替えますわ」
作り替えてもいいドレスってあったっけ…。
「ルクシオはどうしたの?彼も採寸してるの?」
「お坊ちゃまは既に作ってありますわ。お嬢様はお召し物は要らないと仰るので作ってありません」
「え、怒ってる?」
「いいえ、怒っておりませんよ。ただドレスの流行を追求することは公爵家の義務でもありますが、お嬢様は全く悪くございません」
「そ、そうだったの…」
「ええ、最近ではメイド長とお嬢様の採寸が出来ないと寂しがっておりましたがお嬢様は悪くございません」
「ごめん。マジごめん」
最近キャビィさんの愛が重い。辛い。
午後になってから漸く解放された。くったくたになって部屋を出たら、ルクシオもぐったりして出てきた。あれ、ルクシオの採寸は終わってたんだよね?
「ルクシオ、お疲れ様。結構疲れてるようだね」
「急に採寸をされて…。あんなにいっぱい服あるのに意味がわかりません」
「わかるわー。ってルクシオも作るの?」
「新しくリメイクするらしいです」
「私もよ。その上もっと服作れって言われたよ」
「アンタはもっと作ってください!」
「なんで?!」
なぜルクシオにまで言われないといけないんだ!そんなにみすぼらしいの私?!くっ…なんか悔しいわ!
「…まあ私の服が適当なのは前からだし今更だよね。そうだ、ルクシオ。好きな色って何?」
「は?好きな…色、ですか?」
「うんそう。どうせ今からやることないし実験でもしようかなって」
「…はぁ。そうですね…青、が好きですね」
ルクシオが首を傾げて言う。超可愛い。そっか、と思ったら急にルクシオが顔を覗き込んできた。
「俺、アンタの瞳の色好きですよ」
「ああ、そうか。青いもんね」
て事はうちのお父さんとか大好きなんじゃないか?真っ青だし。君、うちのお父さんは憎むべき存在じゃないのか?
「…もういいです。忘れてください」
ぷぅ、と頬を膨らませて横を向かれた。なに、ハムスターの真似?勿論可愛いよ。拗ねたままで部屋に戻ります、と帰っていったので私も自分の部屋に戻ることにした。
さあ、成功したら危険、失敗した方が絶対良い実験の始まりだ!
パーティ当日。うちの家が昨日以上にすごいことになった。
夜。空が今日を祝福するかのように星を散りばめてキラリと輝く。星空の下、『使用人達への感謝兼ルクシオ歓迎兼セレスを愛でる』パーティが開催された。
1階フロアとその扉を開けると続く中庭がパーティ会場だ。気の置けない仲間達で行うパーティは規律も何も無い。
公爵様?令嬢様?パーティ開催前にお父さんが『今宵は無礼講だ!セレスを褒めろ!』って叫んだので関係ありません。なにやってんだ!
「セレスー、パーティ楽しんでいるか?」
お父さんがにっこにっこしながらこっちに来た。流石にパーティだからか、抱きついてこないがすごいジロジロ見てきた。
「今日も可愛いな。可憐な白い蕾が、今かと咲き綻ぶ可愛らしさがあるぞ」
「えっと…ありがとうお父さん」
素面でこのセリフを吐くとは…イケメンは怖い。急に角砂糖投げないで。
…こっちのイケメンは誰だ?使用人じゃないよね?
「…お父さん」
「ああ、こちらは…彼は友人のルークだ。どうしてもって言うから内緒で連れてきた」
「よろしくね、お嬢さん」
ふわり、と金髪さんが微笑む。壮絶綺麗だヤバい。麗しすぎる。こういう人を可憐な花って言うんだよ。…じゃなくて。
「御機嫌よう。今宵は楽しんでくださいね」
一応お嬢さんな礼をしておいた。それから一言二言無難な会話をして、お父さん達は使用人の波に流れていった。もう帰ってくるなよー。
「けどあの人…気づいてないのかな。威圧感すごいんだけど」
絶対子供には好かれないだろうな。
なんとも失礼なことを思いながら歩く。
よく見ていたら使用人達は飲み物やら何やらを配り歩いていた。その人の雰囲気と気分で欲しいものを見極める使用人達だ、パーティして遊んでいるが同時に仕事もこなしている。自然と手渡して去る姿はプロだ。ただ配る相手も同職だけど。
「セレスお嬢様。お飲み物はいかがですか?」
「あ、ああ。ありがとう」
リンゴジュースを受け取って喉を潤す。さっき威圧感半端無い美形と会話したから喉が乾いてたんだよね。……あれ、私いつの間にジュース持ってたっけ?
なんだかなー、と思いながら歩いていると目の前に料理の乗ったテーブルが見えた。肉汁滴るローストビーフにハーブが香るローストチキン、色鮮やかなマリネやグラタンなど、料理長チームのテンションの高さが窺える料理だ。
てかあの氷の像って誰の趣味なの?いや、なんでぽちとたまなの?妙にリアルだし。
その氷の像の周りにはケーキが並んでいた。甘い香りが漂う中、うちの料理人の何割がパティシェなんだと問いたくなった。時間無いって言っていたのにここまで完成させる料理人の底力、感服いたします。
ブルーベリージャムがかかったレアチーズケーキを貰い、一口食べる。なんて濃厚で滑らかな味わい…!口開けたら幸せが飛び出そう!
職人ぱねぇとぱくぱく食べていたら隣から談笑する声がした。そちらを向くと、赤いドレスに身を包んだ淑女とぴしっと紺のスーツを着こなした紳士、白のエプロンと帽子が眩しいごついおっさんが楽しそうに会話していた。
ああ、メイド長と執事長と料理長ですね。着こなし方が完璧すぎて誰だかわからなかった。…料理長はエプロンが正装だよね!
周りを見ると皆ちゃんとしたパーティ服を着ている。ファッションとか流行とかに疎い私だが、その人の魅力を最大限に引き出した服に身を包んでいるという事はわかった。すごい、感動する。
とりあえず、うちの使用人はすごい。この事だけよくわかった。
特に行くあてもないのでふらふらしていると、今度はルクシオに遭遇した。
滑らかな黒地に赤い刺繍。それはまるでルクシオの髪色と瞳の色を表しているようだ。そのしなやかな体によく似合い素晴らしい。ルクシオの服を仕立ててくれたメイド長チームよ、ありがとう。
「ルクシオ、御機嫌よう。今日は一段とカッコイイね。夜の王が現れたかと思ったよ」
「アンタも可愛いよ。すごく似合ってる」
ルクシオがふにゃ、と笑いながら照れる。どちらかと言うと月夜の妖精な気がしてきたぞ。
ルクシオに今まで何していたのか聞いてみると食事をしていたそうだ。だから一回料理人達が消えたのか。…食べすぎだろ。
「アンタは何をしてたんですか?」
「えっと…お父さんに絡まれたりケーキ食べたりドレス見たり?皆楽しんでるよね」
「昨日は夜遅くまで起きてたらしいですよ」
「そうらしいね。完徹してまでやった猛者もいてるよ」
例えばあそこの長三人とか。
「そういえば、何時になったら『さんた』は潜入してくるんです?」
「潜入…。いや、大人しくプレゼント貰っておきなよ」
「今欲しいものはありませんし大丈夫です。侵入経路の確認とかしなくていいんでしょうか?」
「貰う気すら無しか!」
「何言ってるんだ?」
「あー…お父さん」
お父さんと威圧系美人が帰ってきた。私達小さいのに良くわかったな。
威圧系美人とルクシオが挨拶している間にお父さんが聞いてきた。
「で、その『さんた』とか言う奴は誰なんだ?」
「このパーティの最後を締めくくる平和の使者だよ。その人が欲しいと思っているモノをプレゼントしてくれるんだ」
「ならお父様がここで『今日はセレスを抱っこして寝たい!』って叫んだらプレゼントしてくれるのか?」
「大人は対象外だよ。あと私が同意しないよ」
「じゃあお父様は今夜限り子供になる!」
「悪い子供も対象外だよ」
「悪い子供ですか…」
「ルクシオはいい子だよ!大丈夫だよ!」
ルクシオいい子、ルクシオいい子、と言っていると横からくすくす笑う声がする。うわぁ、美人は笑い声まで美人だね!
すると、何故かお父さんがバツが悪そうに言った。
「ルーク…笑うなよ」
「ふふ、こんなに楽しそうなエドウィンは久しぶりに見たからさ。強度の高いいい子供を持ってよかったね」
「(強度の高い子供って何)」
突っ込みたいけど突っ込めない。この美人さんはそういう雰囲気を纏っている御方なのです。
「そうだ、ルクシオ。君にプレゼントだよ」
「え?『さんた』とかではなく?」
「私からだよ。ほら、昨日好きな色が何か聞いたでしょ?完成したからあげるね」
ドレスのレースに手を突っ込む。そこから小箱を取り出した。
「どこから出したんですか」
「イリュージョンです」
これは企業秘密なのでお教えしかねます。
「ほら、開けて開けて!」
「うわ、ちょっと待って…。……は?」
その中には蒼い宝石が散りばめられた銀の耳飾りが一つ、入っていた。私はイヤーカフが好きなのでルクシオもカフです。女らしくならないように、しかし繊細さを失わないこのデザインは、キャビィさんと考えました。
「綺麗ですね…」
「ありがとう。ほら、私も作ったんだ」
私のは紅い宝石が散りばめられた金の耳飾りだ。デザインはルクシオのものと同じだ。ルクシオの瞳の色に近づけるのが大変だった。
「…俺の目の色ですね」
「うんそう。私、ルクシオの瞳の色が好きだからさ。綺麗でしょ?」
「…はい。ありがとうございます」
真っ赤になって照れてる。可愛いなー。うわ、耳まで真っ赤だ。
赤い耳にカフを付けて、私にも付けてもらう。お互い、似合ってるよと褒め合い笑った。
しかしこれを見ていたお父さんが不満げに声を上げる。
「セレスー、俺も欲しい」
「えっと…お父さんの分は……ない」
「え…」
「ごめんなさい嘘ですだからそんな絶望しきった顔しないで!」
今初めて父の絶望と希望を見た。
こんなことがあろうと思ってちゃんと作ってきた。…すごいピンクのカフを。見た目だけお堅い騎士様がピンクの耳飾りなんてしていたら、失笑ものだろう。
だが、父はそれを気に入ったようですぐに耳につけた。とても嬉しそう…なんで?
「ありがとう。お前の髪色のような色の宝石が可愛いな」
…くそ、私今ピンクだった!
「よかったねエドウィン。これで毎日仕事頑張れるね」
「ああ、やる気が出るな」
「これからもバリバリ働いてね」
ふふふ、と微笑むルークさん。もしやお父さんの飼い主の方ですか?なら今すぐ仕事場に連れて帰ってくんない?
……まぁいいか。今更取り返せないし。折角だし使用人達にもプレゼントをあげよう。
「ルクシオ、お父さん、ルークさん。少し外へ行かない?見せたいものがあるんだ」
外へ出ると使用人達が会話や食事を楽しんでいた。
「ここで何をするんだ?」
「秘密」
空を見上げると星空が見える。うっすらと雲が流れて、いつしか空を覆った。ぱらり、と雨が降り始める。使用人達はお開きかと中へ戻っていった。
「中に入りましょう。風邪引きますよ」
「まあまあ見てなって」
空に手を伸ばす。うちの家全体を範囲にするのは骨が折れるからやらないが、ここの中庭だけなら出来るはず。
「クリスマスプレゼントだよ」
―――ぽたり
私の手に雫が落ちる。その瞬間、中庭の雨が結晶に変わった。何処からともなく風が吹き、ふわりと雪が舞い踊る。
屋敷の中から見ると家の光を浴びた雪が淡く輝き、さぞ幻想的な光景になっているだろう。使用人達がほう、とため息をついた。
隣を見ると三人が目を丸くして呆然としている。イケメンの驚いた顔は面白くていいね!
あっはっはー、と笑っていると真横から若干生臭いにおいがした。吃驚して吐いた?と思ってそっちを向くと……たまでした。
「グルルルルル」
「え、ちょ」
「ガウ!」
咄嗟に横へ跳ぶと、何か生臭いにおいがした。横を見ると……ぽちでした。
「グルルルルル」
「ひょっ!」
「ガウガウ!」
え、いや、お前達と遊ぶ為に魔法使ったんじゃないから!
「グルルルルル」
「お、落ち着け…!」
「グルルルルル」
くそ、雪が滑る…!逃げられない!
そのままぽちとたまに飛びつかれ、押し倒された。
…とりあえず。
「メリークリスマス」
良い夜をお過ごしください。
ハイルロイド家の使用人達は楽しいことをやろうとすると動きがいつもの3倍速くなります。気分は文化祭前のテンションの高い子供です。交代で仮眠を取りながらあそこまで完成させました。
エドウィンはこっそり外から人を入れましたが使用人達は平常運転です。だって使用人への感謝パーティだもん。無礼講無礼講。
ありがとうございました。




