Episode1 X'masのその前は。
クリスマスなんでクリスマスやってみました。
お願いします。
「えっと私がここに来て…何週間経ったっけ?一ヶ月ちょっとだったかな?」
私はふと呟いた。
お父さんが付きまとってきて一週間、仕事場に帰って一ヶ月、ルクシオが来て一週間と数日。足して…一ヶ月と二週間ちょっとか。
「と言うことは明日明後日あたりがクリスマスなのかな」
私が来た日が十一月序盤か中盤だったのでそれくらいか。うーん、結構経ったなぁ。
去年のクリスマスは兄がリアルサンタして侵入しようとするのを止めたり、妹がリアルトナカイして窓から侵入しようとするのを止めたりしていた。
私ね、シェアハウスに住んでたから侵入されたら困るんだよ。兄はそのまま侵入したら暖炉で燃えるって言ったが聞かないし、妹は私の部屋の窓じゃなくて隣の大堀さんちの窓から侵入しようとしていた。やめて、マジやめて。
彼氏とか友達と過ごさないのかって?いや、被害増やしたくないし。戦力になるなら呼ぶけど、残念なことにうちの兄妹は運動神経がいいのです。止めようとしたらホワイトクリスマスがブラットレッドなクリスマスに早変わりだ。見たくないよそんなの。
けど今年は気楽な一人クリスマスだ。五月だけど。
この世界は1年12ヶ月365日で回っている。ついでに春夏秋冬もあって三月四月五月が春、六月七月八月が夏以下略だ。要するにあっちとまるっと同じ。そりゃそうしないと学園生活が始まらない終わらない。こっちは60ヶ月が一年です、とかになっていたら混乱するわ!きっと制作陣もわかりやすいように考えてくれた結果、このような月になったのです。ありがとう、制作陣。
クリスマスなー、と考えていると隣に座っていたルクシオが聞いてきた。
「クリスマスって何ですか?新手の魔獣ですか?」
「いや、イベントだよ。ちょ、落ち着け…!魔獣じゃないしきっとその魔獣は美味しくない……!」
クリスマスを食べ物にする義弟、怖い。
「で、クリスマスって何をする行事なんです?謝肉祭ですか?」
「ヨダレ…!ヨダレ垂らすな!違うよ!家族や親密な者がキリスト…はわからないか、すごい偉いっぽい人を奉ってわっしょいわっしょい……あれ、何かが違うぞ…?」
わっしょいは祭り系の行事だ。決してわっしょいなんてしない。
「…結局何なんです?新手の魔獣でもない、謝肉祭でもないってイベントとして破綻してますよ」
「破綻してるのは君の考えだよ!そうだね、簡単に言えば家族でパーティするんだよ。このパーティにはあるシステムがあってね、『サンタ』と名乗る平和の使者が、その人が欲しいと思っているモノを夜中にこっそり置いて去っていくんだ」
「なんでそんな事するんですか?そもそも『さんた』って誰ですか?」
「夢と希望と平和を振り撒くためさ。あと平和の使者は生きる伝説だから会えないよ。夢と希望と平和を運んでくれる伝説は会った瞬間に死ぬの」
色々おかしいがクリスマス文化のないここでは別段間違っていても訂正は入らない。てかもういいんだよ、魔獣狩りと謝肉祭じゃなきゃ。
「ふーん…。『さんた』って美味しいんですか?」
「いやー、平和の使者をパーティ料理にしようとするその心意気に脱帽だわ。…とりあえずパーティなの!楽しい楽しいパーティなんだよ!」
「楽しい楽しいパーティと聞きまして!」
バンっ!と扉が開かれる。そこに立っていたのは…うちのお父さんでした。出たな、害悪人間!
「セレスー!久しぶりー!元気にしてたか?」
害悪人間がすごい勢いで突進してくる。しかし私は何日もあの番犬と相手をしていたんだ。絶対避けるぞ―――なに!
横に跳ぼうとしたらそれを予測していたように掴まれる。そのままグイッと引き寄せられ、いつの間にか父の腕の中に収まっていた。おかしい、なんて速さだ…!
「セレスー!見ないうちにやんちゃになったな!この腕白娘め!」
「ちょ、首!取れる!ぽろってなる…!」
「はぁ、今日も可愛いなー。天使が俺の腕に舞い降りているようだ!」
「死ぬ!その天使死ぬ!いや、ちょ、マジで死ぬから!」
「んーいい匂い。超可愛い…!お、ルクシオ。久しぶりだな。お前も愛でてやろうか?」
「いや…結構です」
「ルクシオてめぇぇぇ!!!!逃げんじゃねぇぞこの野郎ぉぉぉぉ!!!!」
ルクシオ、お前絶対覚えとけよ。
それから数十分後、私は全身打撲の拷問を受けて倒れていた。いや、父が抱っこしているから倒れてはいないけど、心は完全に折れていた。今までの努力は何だったんだ?もしかしてあの番犬たちより強いのか私の父は。
「で、何の話をしていたんだ?何パーティ?セレスを愛でる会?」
「違う!絶対にするなよ!出席しないからな!」
「『さんた』の謝肉祭です、エドウィンさん」
「ルクシオそれ違う!サンタ狩りを今すぐ止めろ!」
「んー、けどパーティだろ?愛でる会でいいと思うが」
「パーティ=愛でる会じゃないでしょ!何言ってんの?!」
「「(セレスは)元気ですね(だな)!」」
「うるさい!誰のせいだと思ってんの?!」
もうやだこの二人。可愛いルクシオまで害悪になった。
可愛い可愛いしてくる大きな手を叩き落しながら父を見る。と、急に閃いたと目を輝かせた。やめて、閃かないで。
「明日か明後日がパーティって言ってたよな?なら明後日パーティ開くぞ!……!」
「は?」
「…?」
「『ハイルロイド公爵家に仕える有能な使用人達に告ぐ。至急1階中央フロアに集合せよ。繰り返す、ハイルロイド公爵……』」
「え、何やってるのお父さん!?てか何その魔法!」
「エドウィンさん、あんた急に何を…」
「さあ行くぞお前ら。我が有能な使用人達は既に集まっているぞ!」
私とルクシオは父に引き摺られながら1階に行く羽目になった。勿論うちの有能な使用人たちは集まってましたとも。イベント大好きだな本当に!
父が校長が立つ教壇みたいなものに立つ。そして使用人達及び私とルクシオに元気よく告げた。
「明後日パーティ開くからお前らも服持ってこいよ。以上!」
「エドウィン様。それは一体どういうパーティですか?」
「使用人への感謝兼ルクシオ歓迎兼セレスを愛でるパーティだ。メンバーはここにいる人間限定だぞ」
「わかりました」
うわぁ!と使用人達のテンションが上がる。凄まじく上がる。いやいやいや、使用人達って毎月月末にお疲れ会してるよね?ルクシオ歓迎とか何週間前の話だよ。あと私を愛でる会をやめろ!
その横では執事長とメイド長と料理長が集まってプチ会議をし始めた。止めに入るのか…?
「ではこちらの班では会場の整備をします。そちらの班では…」
「ああ、大丈夫だ。うちの若い連中もワクワクしてやがる。気合充分だ。こりゃ腕が鳴るぜ!ただ香辛料が足りなくてな…」
「それでは私の班で取って参りますわ。あなたの班は食料を買ってきてくださいな」
「いいや、俺たちの班で香辛料も取る。お前の班はドレスやら何やらを調節してくれ」
「わかりましたわ」
「ではこちらの手が空きましたら手伝いますね」
三人がパンっと手を叩き合わせてそれぞれの方向へ去って行く。え、何それカッコいい。
気がついたらその場にいてるのは私とルクシオと父だけになっていた。
「セレス、ルクシオ。明後日のパーティが楽しみだな!」
「そうですね、エドウィンさん」
「……そうだね、お父さん」
うちのお父さんの行動力と決断力はうちの兄妹より凶悪かもしれない。
主人公はまともなクリスマスを知りません。変なクリスマスなら知ってます。
エドウィンの主人公への愛は時と空間を越えます。勿論ルクシオも大好きなので油断すると主人公のように締められます。
今日の正午あたりに続き出します。
ありがとうございました。




