救世主(仮)始めます(試01)
まあ、その、なんだ。目を覚ましたら異世界でしたなんて笑えない訳で。自分でも頭がおかしくなったのではと疑ってしまうのだがどうやらこれは現実らしい。
大の字になって空を見上げるような格好になっているがそもそもその雲ひとつない空が真っ青ではない。若干緑がかっている空なんて生まれてこの方見たことがない。光の加減とか何か靄がかっている訳ではなく空そのものが緑がかっているのだ。太陽らしきものも忌々しいほどにハッキリと見えているのだから空は青ではなく緑なのだろう。
少し視線を横にずらせばどうやら真っ白でさらさらな砂の上に寝っ転がっているようで足下からチャプチャプと音が聞こえるので何処かの水辺だろう。
最も新しい記憶は昨晩遅くに原付きごとガードーレールを飛び越えて真っ暗な森にダイブしたものだった。
つまるところここは死後の世界なのだろうか……
確かに自棄になっていたが、死にたいなどとは思ってもみなかった。
しかし意外とこうなってしまっては受け入れられるもので最初の動揺もすっかり過ぎ去ってしまう。
取り敢えず落ち着こう。どうせ死んだのならお迎えが来るだろうし、最早あっちに来てしまってるにしても水先案内もなしに彷徨いてうっかり地獄に滑落なんて洒落にもならない。
そう思いながら深呼吸を繰り返している内に思った以上に落ち着いてしまったようで、段々と意識が薄れ心地好い日射しと水音に眠りに誘われていく。
まあ慌ててもしょうがないわけだしと諦め半分でそのまま睡眠欲に身を任せてしまう。
次に目覚めたときにいたのはお世辞にも立派とは言えない木造の建物の一室のベッドだった。窓から夜空が見ることができ夜だということがわかる。なにかを煮込む良い薫りと若い女性の鼻歌らしきものも聞こえてきていた。