火竜と生け贄の乙女(試01)
実は「はい、マイマスター」(http://ncode.syosetu.com/n5259ct/)より随分先に考えてた話のプロローグ的なものです。
いつか本編も投稿できればとは思ってたりします。
「今投降するなら命は助けます。貴方に懸けられた懸賞金は貴方の生死に拘ってはいません」
人気のない夜の森の中、場違いな真っ赤なドレスを身に纏う少女のその宣言だけが響く。そのまだ十代前半と思われる彼女の前には伸ばし放題の髭とボサボサの髪、ボロボロの衣服に身を包んだ男が抜き身の剣を構えて半ば震えている。
それもその筈で周りには彼と同じ様に襤褸を纏った十数人の仲間が既に呻いていた。
たった一瞬だった。そう、たった一瞬で彼等は地に伏したのだ。
いつものように一仕事終えたあと、獲物からいつもより上等な酒を巻き上げたことに気分よく焚き火を囲んで騒いでいたところを襲われたのだ。
油断してなかったとは言わないが今まで隊商の振りをしたクリティアの軍人にだって遅れはとらなかった自分達が一瞬で全滅したことになんとか剣を構えて逃げ出さずに済んでいるが目に涙を浮かべていることを誰が責められるだろうか。
「なあ賞金首さん、悪いが一昨日からギルドに呼び出されててさっさと済ませたいんだが素直に投降しちゃもらえないだろうか?」
少女の後ろに控える男が痺れを切らしたようで溜め息まじりにそう告げてくる。
「ふ、ふざけるなっ! こちとらいきなり仲間殺られてんだ。頭の俺がほいほい降参なんぞできるわけないだろうが!」
唾を飛ばしながらそういう男は涙を浮かべながらも流石は一団の長らしく誇りだけはあるようだった。
「いや、勝手に殺すなよ……とはいえ、この娘の力は充分思い知らされただろ? なら投稿して皆を守るのも手じゃないか?」
「うるせえっ! そんなガキの後ろに隠れてるテメエみてえなのにんなこと言われる筋あ――ひぃっ!」
二人の間に立つ少女が静かに睨み付けていた。先程までの淡々としたものではなく確実に怒りを孕んだそれに賊の長は思わず悲鳴が漏れる。
「『テメエ』? エドワード様は先程名乗られましたよね? それなのにテメエ呼ばわりとはどういうつもりですか?」
そういう少女は仄かに紅く光を帯びているようにも見える。その光が示すのは彼女がただの人とは違うということ。それなら仲間が一瞬で破れたのも納得がいく。
「ルージュ、落ち着け。ただの虚勢に丁寧に答えてどうする」
明らかな殺意を投げ掛けてくる彼女の肩に手を置いてにこやかに制止するあの男さえ倒せばこちらにも勝機はあると確信した賊の長の行動は速かった。一足跳びに間を詰め凶暴な突きを見舞う。
それを認めたエドワードがそっとルージュを横に退かせるところまでは見えていた。次の瞬間にはその男の胸を自分の剣が貫くはずだった。
しかし気付いたときに剣を持っている手首を捻り上げられ夜の森の地べたに押さえ付けられていた。
なにがどうなったのかはわからないが、なにがどうなったのかを理解する間もなく組伏せられたのは流石にわかる。
「――さて、これからまだ抵抗するか? 面倒だしそうするなら首だけ持って帰ってもいいんだか?」
実のところ彼にはこうなるだろうことは予想はできていた。ただ長だという誇りだけがそれを許してはくれなかったのだ。
「ハンター・エドに出くわしたら何を於いても逃げろ」
直接間接の違いはあってもそれを聞いたことのない盗賊などこの地方にはいなかった。
だから自分の命を守るためなら部下など気に留めず直ぐ様逃げるべきだったのだ。
「御協力感謝。取り敢えず眠ってもらうがギルドに引き渡すまでは君らの命の保障はする」