マッチョ男と女子高生(超短編小話)
…休日の真っ昼間から忙しない鼻息が聞こえる。
場所は中心都市から少し離れたベッドタウンにある賃貸マンションの六階。両親は現在出張中で、快適過ぎる生活を謳歌していた女子高生サキコはその鼻息に起こされてしまった。
「…あぁ、うるせ…何だよ、もう」
隣人の部屋の壁の隣にある彼女の部屋は、口煩い親が居ないせいで散らかり放題だった。メイク道具やファッション雑誌、ヘアーアイロンやゲームセンターで捕獲した景品、果てはお菓子の袋まで。ゴミ箱に向けてシュートし不発に終わったティッシュがそのまま放置されている。
だらしない怠惰な性格そのものをこの部屋は体現していた。
ボサボサの頭を掻きながら、彼女はベッドから身体を起こすと、まずは携帯チェック。一通り見ていると、また鼻息が聞こえてきた。
…っふううっ、はあああっ!!
…っふううっ、ふんんんっ!!
むさ苦しい声に、反射的に舌打ちする。休みだというのに、何故こんな気持ちの悪い目覚まし時計に起こされなければならないのか。
「…っせぇえんだよ!何だよ!!」
耐えきれずベランダへ飛び出し、隣を覗き込んだ。すると。
「…っふあああっ!…ん?」
目の前に大きなボディービルダーが居た。サキコに気付き、動きを止める。お互いに目が合い、お互いに停止した。
日焼けし過ぎた黒い身体。光っている。そして厳つい顔、坊主頭。真っ赤なビキニパンツ。
…隣にこんな奴居たっけ?
色々考えているサキコに、ボディービルダーの彼は爽やかな笑みをしながら「こんにちは!」と笑う。
むさ苦しそうな男が白い歯を見せて挨拶をしている。
「は…はあ…」
鳩が豆鉄砲を喰らったような反応しか出来ず、サキコはつい頷いてしまった。
「…前から住んでたっけ?」
返す言葉が見つからず、とりあえず質問してみた。太陽光線でやたらめったら黒光りする彼は、相変わらず爽やかな歯を見せながら「この前まで海外に居たんだよ」と笑った。
ベランダで赤いビキニパンツ一枚で仁王立ち。何でもいいから着ろよ…と思いながら、サキコは半笑いで「そうなんだ…」と返した。
「ビルダーの大会があってね!やはり世界は違うね!」
「はあ…」
そこまで聞いてねぇよ。
彼は話しながら様々なポーズを決めている。
「とりあえず、朝から鍛えんのうるせぇから控えめにしてくんねーかな…」
「お、聞こえてたか!そりゃ失礼したねぇ」
凄く明るいのだが、同時に暑苦しい。言いたい事だけ伝えたからまあいいや、と思っていると。
「うぉおあっ!?」
目の前に黒光り筋肉。光輝く彼がサキコの前に近付いていた。
「御近所さんという事で、またしばらくお世話になるからね!どうかな、バナナ味のプロテインジュースは?」
手にしていたジョッキを押し付けてくる。どう見ても、女子が飲めるサイズではない。
サキコは顔をひきつらせ、「いらねーよ!!」と叫んだ。
単に普通の女子高生と変なタイプのおっさんの話が書きたかっただけです…