#85 北へ・・・! その9
その『宴』は異様であった
一見、豪華な食事が並ぶ華やかな舞台
しかし、その空気は『ある一言』によって硬直していた
「誰か、芸の一つでも見せてみろ」
この場の決定権を持つ人物『先勝真理』の放った一言であった
彼女の、気分は既に高揚し上機嫌だ
とどのつまり『酔っている』というべきなのだが
彼女の性格を知る一同にとって、その『一言』は『魔王の命令』である
平常時でさえ『とんでもない』ことを言いだす彼女
酒が入っているとなると、その『常軌』は『死刑宣告』のそれに近い
「どうした?誰でも構わんぞ?」
更に、酒を飲み干しながら言う
「それでは、オレが・・・!」
おもむろにタケルが立ち上がる
「海鮮一気、行かせていただきます!!」
目の前に置かれたマグロの乗った皿を両手に抱え上げる
「うぉぉぉぉぉ!!」
そのまま一気に、自らに流し込む
「ぶ、ぶぶはぁぁ!!?」
マグロの頭部が入ったところで、ひっくり返る
「お見事ですわ!若様!!」
十六夜が、もろ手を挙げて叫んでいる
「無茶しやがって・・・」
その光景に目頭を押さえる優気
「なんなの・・・コレ?」
異様な光景に、頭を抱える春香
「凄いよ!タケルちゃぁぁぁん!」
真由美までもが、感動のあまり叫びだす
「次は、私が・・・」
その手にしたジョッキには、並々と注がれた『酒』
(未成年の飲酒は法律で禁じられています)
「彼に、飲ませたいです!!」
有無を言わせず、それを口に含んで優気の前に立ちはだかる
「って、お前何やろうってんだ!!?」
気付けば、部屋の隅に追い込まれていた
「もがぁぁぁぁ!?」
抵抗できずになすがまま
「あ!月乃ちゃんずるいですぅ!?」
蘭が二人に駆け寄る
「次は、わたしがしてあげるです!」
手にしたピザを、優気の口にねじ込む
「んが、くくっ・・・!?」
抵抗空しく、その手が空を切る
「ちょっと!二人とも無茶よ!?」
さすがに止めに入る春香
「ゆうちゃん大丈夫!?」
ぐったりとしている優気を、真由美が抱える
「ま・まゆ・・・み?」
うわごとのようにつぶやく
「コレ飲んで落ち着いて!」
言うや否や、それを口に含んで優気に飲ませる
「おおっ!?」
真夏が息を飲んで見守る
「うわぁ・・・」
言いながらも目が離せない秋乘
「青春ねぇ・・・」
既に他人事の美冬
「ちょっ・・・センセイ!みんなを止めてください!!?」
一人、正気を保っている春香
「これでこそ、宵の口に相応しい!」
一番ダメな大人が一人
その光景は正に『宴』であった。




