#76 本当の嘘 その3
私は走る
目指すのは、あの坂の向こう
「もうすこし・・・」
日差しが、こちらへと差し掛かってくる
「!?」
突然、足元が崩れ出す
目指していたあの場所が、またたく間に遠ざかる
気がつけば、そこは闇の中
何も見えないほどの暗闇の中、手探りで進む
いくら進んでも、その闇から出ることができない
その闇は『絶望』
前に進むことを奪われた
その闇に、私は耐えられなかった
『こんなところで、投げ出すつもりなの!?』
誰かが、私に問い掛ける
「私には無理だよ・・・」
だから私は、逃げ出したんだ
『簡単に言わないで!!』
「あなたに何が解るの!?」
思わず叫ぶ
『わかるもん!』
思わぬ言葉が返ってきた
『だって・・・・』
『私も同じだもの』
消え入りそうな声
私と同じ・・・
あなたも『絶望』の中に居るの?
『周りを見て・・・!』
今度は違う誰かの声、その声は静かで力強い
『その手を伸ばせば、確かに届くんだよ』
その声は、優しくて力強い
『独りなんかじゃないよ!』
その声は、暖かくて力強い
『俺達は、出逢ったんだから・・・!』
その声は、真っ直ぐで力強い
『待ってるから!』
みんなの声が響く
私は、その声を知っている
そこは私が、望んだ世界
私が行きたい所へ
私がその足で
私が歩き出した世界
でも、そこは『嘘』
辛い絶望の中で、すがった逃げ場所
『それがどうしたってんだ!?』
突然、辺りが明るくなった
『選ぶのはお前なんだ』
「選ぶ・・・?」
『お前は、確かに此処に居た』
私の中に、いろんなものが入ってくる
その体に流れる、暖かな鼓動
くるくる変わる、豊かな感情
すべてを楽しむ、前向きな心
『これまでも、そしてこれからも何も変わらない』
それは『嘘』なんだよ?
『違うよ』
だって、本当の私は・・・
『ココは、お前も含めて全部本当なんだからな』
きっぱりと、力強く告げる
「そして、全部持って行けばいい」
そこに居るのは私
『嘘』の中に逃げ出した私
『ちょっとだけ勇気を出せれば、その嘘は本当になるんだよ』
自分が、全て投げ出したあの世界
まだ待っていてくれるのなら
もう少しだけ・・・
もう少しだけ、ここに居てもいいかな?
『ちょっとだけの勇気』を持っていくから
もう少しだけ、待っていて欲しい
「待ってるよ」
そこに居るのは私
『本当』の中で待ち続ける私
いつか、きっと来るのだろう
すべての夢から目が覚めて
すべての想いを忘れるのだとしても
そこにいた現実は変わることはない
『私達は、出逢ったんだから・・・!』
眩しい光が、闇を掻き消す
「ただいま・・・」
いつものように、笑ってつぶやいた
言い終わる間もなく、真由美が抱きついてきた
「おかえり・・・!」
その瞳には涙
だけど、その表情は笑顔でいっぱいだ
「それが、『答え』なんやな」
死神の少女が、優気に尋ねる
「決まってんだろ?」
得意げに笑う
「だけどな」
「いつか、帰る時が来るんやで?」
彼女の様子を寂しそうに眺める
「その時は、笑って見送ってやるさ」
「強いんだな、君は」
白衣の女性が言う
「ならば、待つとしよう・・・」
そのまま、振り返ることなく部屋を後にする
「彼女が笑顔で目覚める時を」
長かった夏が、終わりを迎えようとしていた




