#74 本当の嘘 その1
私は、自分が嫌いだ
弱くて、臆病で、そして嘘つき
私は、自分の気持ちを嘘で塗り潰している
本当の想いを、伝えることなく
私は、誰なんだろう?
偽りの名前と、偽りの心
全部を、嘘で塗りつぶし
世界から逃げ出して
やがて、独り取り残される
独りだけの世界の中で
私は、何を探すのだろう
きっと、それは見つからない
だって、独りだけでは
手にすることは、出来ないのだから・・・
『あの子は、嘘なんや』
死神を名乗る少女が、告げた言葉
「どういう意味なんだよ?」
優気が問い掛ける
「そのままの意味や」
寂しそうにつぶやいた
「本当の彼女はな」
白衣の女性が、言葉を続ける
「もうずっと眠ったままだ」
傍らで、静かに寝息を立てている彼女を
そっと優しくなでる
「眠ったまま・・・?」
真由美が、心配そうに言う
「もう、3年にもなるか・・・」
「この子は一度、死にかけたんだ」
ゆっくりと彼女の髪に指を通す
「それは、彼女にとっての逃避行だったのだろう」
-3年前-
それは、不幸というには突然すぎた
彼女は、決断を迫られた
『歩くことを諦めるか、苦痛を受け入れるのか』
彼女の脚は、細胞質の低下によって動かなくなった
自身ですら、知らなかった身体の異変
今まで、何不自由なくどこにでも歩いて行けた
それが、いきなり動かなくなったのだ
原因は不明
どんなに検査を重ねても、手術を施しても
細胞が死んでいくのは止められなかった
「先生・・・私は・・・」
みんなの優しさが辛かった
治るあてのない治療と、入院生活
それによる家族にかかる、莫大な負担
「みんなに、これ以上迷惑は掛けたくないんです」
本当は、すがりたかった
「治す事が出来ないのなら、もう・・・」
本当は、ただ弱かっただけ
「生きていたくありません・・・」
私は嘘をついた
本当は、生きていたい
みんなの悲しい顔が、私を苦しめる
だから、私は逃げ出した
「なんてことを!?」
彼女の異変に気付いたのは、午後の診察になってからだった
「すぐに検査室へ移すぞ!!」
彼女は自分の意志で、眠りについた
目覚めることのない、永遠の眠りへと
散乱した睡眠薬を、彼女の胸元から払い落とす
「なんとしてでも、繋ぎ留める!」
出来うる限りの方法で、彼女を救いたかった
しかし、彼女は目覚めることはなかった
彼女は、この現実から逃げ出した
全てを放り出して
彼女の家族は、彼女を起こすことを望まなかった
「現実で苦しむよりは、ずっと夢を見続けるほうが幸せなのかもしれない」
それが、彼女の家族が出した答えだった
そして彼女は夢を見る
覚めることのない
永遠に続く夢を




