#60 Summer Song Story その17
白い世界
私が目を覚ますたびに、広がるのはいつも同じ光景
そこには、何も無い
そこには、何も生まれない
私は、なぜ此処に居るのだろう・・・
何度目かの目覚めを迎えた彼女
だが、今回はいつもとは様子が違っていた
人工的に、命を与えられた彼女
彼女には特別な能力が与えられている
その能力は、世界を変える能力
だが、それは『罪』でもある
『神』だけが、持つであろうその能力を得た代わりに
彼女は『罰』を受け続ける
過去を忘れ、現在だけを生きる
それは、未来へと進むことを許されないということ
窓の外に、雪が降りしきる3年前のあの日
私の中にあった想い
『歌いたい』
それが自分の意志なのか、誰かの願いなのか
その日から私は望み続けた
自分が、いる証を得る為に
自分が、いた証を残す為に
私は手に入れた
自分の存在を受け入れてくれる場所
自分の存在を認めてくれた友人達
それなのに
消えていく・・・
大切な思い出が
自分の居た証が
ボロボロと崩れていく
「嫌だよ・・・」
泣きじゃくりながら、その言葉を繰り返す
「ハルカ・・・」
真夏が肩を抱いて呼びかける
ファン達のざわめきが広がる中、激しい振動が会場を襲う
「始まったわね・・・」
『花房組』を率いる少女『蘭』がメンバーに相槌をする
この会場である『エンゲージ・リング』は今、その機能を破棄するために
一斉に解体作戦が決行されている
防衛プログラムと戦いながら、指定された場所に爆薬を仕掛けている手筈だ
その作戦が終われば後は、ここに居るみんなを地上に避難させるだけで良い
再び激しい振動が会場を揺らし、その衝撃で照明が落ちてしまった
「おい・・・なんか、やばいんじゃないか?」
「どうなってるの!?」
「スタッフは何をしてるんだ!?」
会場のざわめきは、だんだんと混乱へと変わっていく
パニックになれば、事態は最悪なものになってしまう
「まずいことになったわね」
トリニティが舌打ちをしながらつぶやく
「やっぱり、あの子にも無理だったというの・・・?」
彼女の手には、見覚えのある端末があった
その端末の画面には数字が表示されていて、
その数字は少しづつ減っていくのが見える
「ハルカ!!しっかりしろ!」
ハルカの手を引いて立ち上がらせる
「ここに居ちゃ危ない、とりあえず離れるよ!」
危険を察知した真夏がメンバーに指示を出す
こういう時の、彼女の行動力が彼女の男勝りな性格に出ている
「歌わなきゃ・・・歌わなきゃいけないのに・・・」
未だにつぶやき続けるハルカ
「しっかりしろ!ハルカ!!」
ハルカの肩を両手でつかみながらまっすぐ見つめる真夏
「まだ、終わっちゃいないだろ!」
「みんなと約束したよな!?」
真夏の言葉がハルカに突き刺さる
「約束・・・・」
その言葉を口にした瞬間、声が聞こえた気がした
『諦めるな!』
その声は、懐かしくて
そして、暖かい
「諦めるな・・・」
手にしたマイクを再び握り締めながら言う
「諦めるな」
自分に言い聞かせてゆっくりと歩き出す
その行き先は『キラメキ』の生まれる『舞台』へと進んで行く




