#56 Summer Song Story その13
空には大きな満月が輝いている
それを突き抜けるように飛ぶ旅客機
「緊急事態!緊急事態!」
機長の言葉が響く
高々度を飛行中だった本機は建設中の『バベル』付近を通過中に
突然、衝撃を受け制御不能に陥ってしまった。
原因は全く不明
「できるだけのことはやってみる・・・!」
意を決した機長の声
機内は騒然としていた
飛行中のはずなのに突如何者かが乗り込んできたのだ
乗り込んできたのはひとりの少女
あまりにも現実離れしたその光景はむしろ
これから起こる悲劇から目を背けるには十分だった
♪眠れない夜に 見上げる空 キラメク星達が
その輝きで 世界を照らす♪
少女は歌う
子守唄のように静かに歌は響き
やがて、機内は白い光に覆い尽くされていった
「捜索隊の出動を・・・・」
ノイズが機長の通信を遮った後、何もなかったかのように
満月がその空を照らし続けていた
「全てはあの時から始まっていたのだ!」
拘束された主任が叫ぶ
彼の持っていたリモコンは確かに作動した
だが、直前に電波は拡散され電気系統をショートさせるのみの
被害に留まったのだ
もちろんその拡散は真理の手によるものであるのは言うまでもない
「あの実験の失敗によって生み出された副産物」
モニターに映る少女『ハルカ』を眺めほくそ笑む
「それこそが世界を『統率』せしめる鍵になろうというのに」
「黙れ!」
真理が主任の言葉を遮る
「詭弁はもういい、答えろ!」
主任の胸ぐらを掴んで問いただす
「キサマの『オモチャ』を止める方法を!」
「止める・・・?」
「もう遅い!」
再び自分の勝利を確信した主任
そう、彼女らは既に手を打ったものの打開策は得られなかったのだ
確かに止めることはできるかもしれない
が、それを実行するということは『エンゲージ・リング』にいる
人間を犠牲にすることになる
『リングの破棄』
それは彼らを全て見捨てるということになる
それどころかリングが崩壊し地上に落下することによって
その犠牲はとんでもない数に増えることになるであろう
『バベル』を軸にして地球を取り囲む『エンゲージ・リング』
この計画の要である『増幅装置』であり『保険』でもあったのだ
「・・・くっ!」
忌々しそうに彼を振り払う
「何か方法はないのでしょうか・・・?」
撫子が必死に端末を操作している
「諦めるな・・・!」
突然スピーカーからタケルの声が響く
「タケル!?」
撫子がモニターに叫ぶ
「出来ることはなんでもやってやる!」
「だから、絶対に諦めるな!!」
どうやらタケルは『バベル』の中底部に捕らわれていたらしい
「方法が、無くもないかもね・・・」
その声の主は一人の少女
この世界とはまた別の運命を持つ『もうひとつの絆』
彼女の手には『エンゲージ・リング』のデータを映した端末がある
「うまくいけば、最小限の被害で止められるかもしれないよ」
確信を持っていうその言葉には自信があった
彼女の趣味であり特技『建築嗜好』
数々の建造物を、その特技で再現してきた彼女には造作もなく
『エンゲージ・リング』の構造を見抜けたらしい
「ただし、これだけ大きな建造物だからね」
既に仕切りモードだ
「それなりの人間は必要だよ」
周りを眺めて促す
「すぐに用意いたしますわ」
携帯を取り出し何やら言い伝える撫子
「さぁ、本当の祭りを始めようじゃないか・・・!」
真理が、心底楽しそうにつぶやいた




