#43 番外編 雪月華 その5
二人だけのこの場所に
突然割り込んできた、ぶしつけな一団
「戯れは終いでございます、若様」
黒髪を風に舞わせ、彼女『十六夜』は言った。
大和家に代々仕えてきた【奉仕隊】現奉仕長
彼女は、大和家の発展に全てをかけ
その行動理念に従って行動している。
「そこを退いてくれ、十六夜」
立ちふさがる彼女に言う
「残念ですが、そうはまいりませんわ」
顔は笑顔であるが、感情は無かった
「彼女をどうするつもりだ!?」
威圧に負けず彼女に問う
「元居た場所に、戻っていただくだけです」
それは、あの何も無い白い空間
あの場所には、何も無い
あの場所には、何も生まれない
そこに居るという事に、何の意味があるというのか?
『歌いたい・・・!』
彼女が語った希望
そこに居たんじゃ、叶いはしない。
「退いてくれ・・・」
もう一度頼む
十六夜は何も言わないが、退く気はないらしい
「そこを退くんだ・・・!」
感情が高まるのが解る
それでも尚、十六夜の表情は(無機質な)笑顔のままだ
「退け!!」
彼女を押し退けて、歩を進める
「それが、若様のご意思であれば」
意外にもあっさりと身を引く
「しかし、何も変えられはしませんわ」
タケルの背中に突き刺さる言葉
彼女を乗せたヘリが飛び立つ
昇降口から必死に手を伸ばす
わずかにでも残る希望を求めて
「諦めんなよ!」
同じように手を伸ばして彼女に叫ぶ
「私、歌います!」
はっきりとした私の決意
「だから、だから絶対に忘れないで・・・!」
ヘリの轟音に言葉がかき消されながらも、叫び続ける
伸ばした手を、握りしめて彼女を見送った
「諦めんなよ・・・絶対に・・・!」
再び、辺りは静けさに包まれる
「若様」
十六夜が何か言いたそうにしている
「何も言わなくていい・・・」
それが彼女たちの仕事だということは解っているつもりだ
空を見上げる
空は再び、分厚い雲に覆われていた
チラチラと、雪が降り注ぐ
どんなに寒い冬の日でも
ひとかけらの希望を持ってさえいれば、前に進んでいける
寒い雪の日に、僅かな太陽の陽を求め
まっすぐに空を目指し咲き誇る
儚くも強い『雪月華』
その花はきっと、美しく咲くことだろう
「十六夜、一つ頼みを聞いてくれないか?」
雪の日に手にした、小さなキラメキ
いつかきっと大きなキラメキになることを祈って・・・
-時は流れて-
「タケル、メシ食いに行こうぜ!」
親友の声が俺を現実へと引き戻す
「今日は、何食うんだ?」
いつでも楽しそうなコイツら
それは俺の一番大切のもの
いつの日か、彼女にも手にして欲しいもの
「何か落としたぞ?」
拾い上げて、意外そうな顔をする
「フォーシーズンLIVEチケット?」
最近有名なアイドルユニットだ。
「ファンクラブ限定!?」
滅多に手に入らない、かなりのレアチケット
「しかも、会員ナンバー【0000001】!?」
思わず感動すら覚える
「良いもんだぜ?」
得意そうにチケットを受け取った
「歌は、な」
窓から空を見上げる
透き通るように突き抜ける青空を
きっと、どこかで同じように眺めてるだろう彼女に思いを馳せる
『諦めるなよ、絶対に・・・!』




