#42 番外編 雪月華 その4
あの日、白い部屋から
一人で、道に迷って泣いている私の手を引いて
とびきりの笑顔で、私を呼んだ。
「ここは、俺の秘密の場所なんだ!」
そこは公園の草むらを抜けた小さな高台
陽はすでに沈み、星がきらめき始めている。
先程まで分厚い雲に覆われていたはずの空は
冷たい風に流されて、ひと時のパノラマを創り出している
空と海が一つになったような光景は、
相変わらず格別だ。
「空が、すぐそばにある・・・」
その光景に目を奪われて、泣くことさえ忘れてしまった
「まるで、ステージの上にいるみたい・・・」
思わず呟いた。
彼はただ、満面の笑みで見つめていた
「遥か、遠くの空から♪」
いつも聴いていた歌を口ずさむ
私は歌が好き
その歌の中で、私は自由にどこへだって行ける
その歌の中で、私は何にだってなれる
歌を歌っている時だけ私は、私を捨てられる
私も夢を見て良いのなら
キラメキを手に入れたい。
星のキラメキに照らされた海は
たくさんの人達が見守るコンサート会場のように眩しい
ここは私の初めてのコンサート会場
星たちと、彼が初めての観客
くるりと回って、お辞儀する
彼が満足そうに拍手してくれた
「うまいもんじゃないか」
「私、アイドルになりたかったんです」
寂しそうに笑う
「なればいいじゃないか?」
「無理ですよ」
諦めとも言えるように言葉をつぐむ
「やらなきゃ夢は叶わないぜ?」
「私は、あの部屋から出ることは許されないんです」
「今はココにいるだろ?」
泣きそうな彼女に言ってやった
「それは、あなたが来てくれたから・・・」
「だったら何度だって行ってやるさ」
その顔を笑顔に変えたいと思った
すがるように見つめる彼女の肩を両手で包む
「諦めるなよ、絶対に!」
力強く言い聞かせる。
「歌いたい・・・」
自分に言い聞かせるようにつぶやく
「歌いたいです!」
それは私の希望
私の中に唯一輝くもの
私が唯一出来る事
そんな私の思いを受け止めるように、
彼は手を差し出す
「俺がファン第一号だな」
「・・・・・・はい!」
一筋の涙が頬を伝う
『アイドルになりたい!』
強く思っていればいつかきっと叶う
そう信じたい
瞬間、突風が二人を煽る
『探しましたよ』
強い光が、白一色の空間を創り出す
そこには複数の人影
「・・・!」
その人影には見覚えがあった
「いや!放してください!」
彼女が連れ去られていく
「な、なにしてんだ!!」
駆け寄ろうとした瞬間、目の前に立ちふさがる者がいる
「戯れは終いでございます、若様」
それは、俺の家に仕えるメイドの一人だった




