#109 特別篇 クリスマスラブソング 13
その日は、月の無い夜だった
誰一人居ない街並みを、一台の車が流水のように走り抜けていく
「今日も一日が、平穏に終わるのですね」
穏やかな表情で、運転手と談笑する
しかし、それを突然引き裂く者が現れた
「・・・!?」
思わず、急停止する運転手
「なんだ、おまえは!?」
車道に佇むのは、一人の少女
「どうしました?」
「それが・・・」
言い終わる間もなく、事態は急変した
力無く崩れ落ちる運転手
その背後には、少女が刀を構え立ち塞がる
「お命、貰い受けます」
表情一つ変えることなく、少女の行為は行われた
「・・・・・・」
逝時の中、少女は佇む
場は、凄惨な光景へと変貌していた
おびただしい血の臭いが立ち込める中、少女はそれを見ていた
「私の命で救える心が有るのなら、それを成しなさい」
血に染まる両手を、少女に添える
「貴女の心に、光差す事を・・・」
死に直面しながらも、その人は私の事を気に掛けていた
血に染まるその手が、力無く頬から滑り落ちていく
「事は成し遂げたようだな・・・?」
その背後から声が聴こえた
「良いだろう、これで君は自由だ」
連絡用に持たされた端末からは、淡々と言葉が語られる
「うぁぁぁぁ・・・・・」
空を見据え、慟哭だけが響き渡る
凄惨なこの場所を、覆い尽くすように雪が降る
少女の感情が溢れ出す
それは、残酷なまでの事実
『何かを奪い、何かを得る』
そして、残るのは『罪という後悔』
それから数日の後
私達、母娘は其処に居た
『大和重工・総帥執務室』
そこには、独りの男が満足気に語っていた
「我々に必要なのは、絶対なる強者」
ゆっくりと腕を組む
「アレは、弱かったに過ぎん」
少なくとも、連れ添った者に対する言葉ではない
「いずれ、消え逝くのなら早いに越した事は無い」
一枚の封筒を差し渡す
「君達を、正式に迎えよう」
母に右手を差し出す
「我が、一族の更なる発展と淘汰の為に!」
この日『大和重工奉仕隊』が設立された
それは後に、数千人を超える大所帯となって事件を引き起こす事になる
『大和重工総帥、暗殺未遂事件』
かつて私は、人を殺めた
それは決して許される事の無い大きな罪
だからこそ私は、成し遂げたかったのかもしれない
『それを命じた者に、懺悔の言葉を』
『総帥暗殺』
かの者が全てを命じたのなら、その罪を償わさなければならない
だから私は、それを実行した
しかし、それは失敗に終わってしまう
『貴女の心に、光差す事を』
あの人の言葉が、私をためらわせる
結果『奉仕隊』は、多大なる粛清を受ける事となった
私の母は失脚の末、行方不明
恐らく、生きて逢う事はもうあるまい
そして私は、新たなる命を授かる
『我の仇となる者を討て』
彼ら一族はこうすることで、より強固になっていったのだ
表向きは『秩序を守る者』
その裏は『絶対的力の支配』
それが『大和重工』の、本当の姿であった
私は、その命を実行する時が来た事を悟った




