story.6
はじめましてな編入生
story.6
九十九学園高等部、北校舎の廊下にて。
「いよいよですね。霧島教頭。」
隣を歩くかつての後輩、榊に、あー・・・、とだけ答えた。
「・・・元気がないですね?」
「いや、アンタの話を聞く限り、個性的だと思って・・・まぁ、0組は全員個性的だけど。」
「・・・・俺のほうから見たら、園守りんごのほうが異常だと思いますがね。性格的に。」
「確かに。」
榊に反抗的な態度をとる彼女を想像して溜め息をつくしかなかった。
私、九十九学園高等部教頭の霧島夏樹は少なからず緊張していた。
「ただ、今回の編入生は・・その記憶がない、そうで。」
詳しい事はまだよく分からないので、と言うより0組で記憶がないことが初めてなのだが。
「あぁ。ありませんね。・・・本人曰く、思い出す気もないとのことで。」
「いろんな意味で立派だな。私が不安なのはソコだよ。」
「・・・?」
「その、『天界』のほうでは何とかやっていけるだろ。意欲がないのは他にもいるしな。残念だが。」
そこまで言うと榊は苦い顔をした。
「嫌味とかで言ったわけじゃぁないよ。でも、0組の生徒が記憶を持って生活している。その雰囲気に彼女が上手く入っていけるかが心配なんだよ。」
「・・・なるほど。」
「はん。教師をなめるなよ。私にとって『天界』よりも生徒がココで楽しく充実して暮らす事が重要なんだからな。」
「・・・そうですね、先輩。あ、教頭。」
「・・・どっちの呼び方でもいいが、生徒の前では教頭と呼べよ。示しがつかん。」
「意外にこだわりがあるんですね。」
生意気な後輩だ。こんなんが政府の人間なのか。
廊下に着信音が響く。授業中の廊下は各教室から聞こえてくる様々な教師の追え意外聞こえないのでよく響く。
「すいません、俺です。」
今は授業中だ、電源落としとけ。と、言いたいところだが、自分のを見るとそのままだったから何も言わない。
榊はわかったから、とかなんでそんなに怒鳴るんだ耳が痛いとか、まぁ、苦労しているのが目に見える。
「どうした?」
「到着したみたいですよ。園守が中庭でまっていると。」
「!・・行くか。」
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「うーくん、連絡したからね!あぁ!どっか行かないでよ?」
「行かないよ。ココにいるじゃんか。」
それでも!と、りんごちゃんは頬を膨らました。そんなに信用がないのか、私は。
「それにしても、中庭も校舎と同じく大きいね。」
「そう?病院よりは小さいと思うけど。」
「まぁ、公園もついてるからね。・・でも大きいよ、校舎も。」
「探検とかしないでよ!もうすぐ来るんだから!」
「分かってるよ。いろいろ終わったらする。」
「ダメなの!学校案内はあたしがするんだからぁ!」
「残念ながら、私がするんだな。園守。」
後ろから知らない声がした。振り向けば、榊さんと知らない女性が立っていた。
「・・・!随分美形な編入生だな。」
「待たせたな。宴くん。」
「あ、榊さん。こんにちは。・・・と?」
「高等部教頭の霧島夏樹だ。あぁ、担当教科は数学だ。」
「はじめまして。数学は得意教科ですよ。」
「おぉ!いいことだ。」
「良くない!!!」
霧島先生と話していたらりんごちゃんが間にわって入ってきた。
「どうした、園守。反抗期か。」
「違うし!そんな事じゃないし!」
どこが、と榊さんがつぶやいたのは置いといて、
「どうしたの?りんごちゃん?」
「だって!学校案内はあたしがするんだもん!」
「何言ってんだ。授業でろ。授業。」
「嫌!!『うーくんが九十九にはいったらやりたい事リスト』の5番目に書いてあるし!」
・・・何ソレ知らない。5番目って何番目まであるんだろうか。榊さんは完全引いてるのがよく分かる。
「園守、教頭の言う事を聞け。」
「榊うるさいんだけど!それからうーくんの隣とかやめて!」
榊さんが困った顔で私を見た。
「りんごちゃん・・・もういいよ。」
「何が!」
「前の数学の小テスト、100点満点中9点だったでしょ。」
そういったとたん、榊さんは眉間に皺をよせ、霧島先生は、あ?、と大層怖い顔になった。
「な、ん!で、知って!」
りんごちゃんもみるみる顔が赤くなっていく。
「さっき見たメモ帳に挟まってたんだけど。」
「っ!うそ・・・」
「嘘はつかないよ。」
「聞き捨てならねぇなぁ、園守?そん時は多分私が教えてる数学じゃねぇなぁ・・小テストあるからってわざと私が教える講座じゃない時間割にしたな。しかも赤点とか泣けるぞ。0組生や。」
「うぅう・・だって!嫌いなんだもん。」
「遊間の言う通り、お前はもう良い!確か次の時間は自習の教室があるからそこに行け!私が直々に監修の先生に連絡しておこう!」
「がんばってね。りんごちゃん。」
「っつう!うーくんまで!榊は何でそんな目で見るの!うーくん笑わないでよ!」
「だって・・・っ!ごめん!」
「もぉ!!」
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なにやら言い合いをはじめた園守と遊間を見守りながら榊が口を開けた。
「・・・・。案外平気かと。」
「本人は何も緊張していなそうだしな。・・それよりも、だ。」
「どうしました?」
「9点か。呼び出しだな、園守。」