story.2
やっと!主人公!
知らなかった?興味のないフリをした?
story.2
「x」
榊さん、と言ったか、彼が口にした言葉、自分の前世の仮の名前を繰り返した。だが、繰り返したところで意味はない。思い出すどころか、心当たりもないワケで。
「わかるか?」
榊さんが何かに縋るような眼でこちらを見た。首を横に振ればそうだよな、とつぶやいて黙ってしまった。
それに、思い出したところで何になるのか検討がつかない。こんな人間が世界の危機を救うなんて、なんて、馬鹿なんだろう。
「すまん。仮の名前を聞いたって分かるはずがないよな。」
「あ、本当の名前聞いてもわかんないデス、多分。」
そう告げれば榊さんは一瞬目を見開いて、それからまた伏せて、黙り込んでしまった。
窓から見える不吉なほど真っ青な空を睨みつける。あの上には本当に神様でもいるというのか。何てことだ。
申し訳ないような、でも仕方ないと言うか。こんな複雑な気持ちになってしまったのは神様、アンタらのせいだぞ。どうしてくれる。
榊さんは今度は一緒に来ていた大人達と何か話していたが興味もないので聞く気にもならなかった。このまま待っているのもヘンだろうと勝手に理由をこじつけ新しいお菓子の封を切った。
「それにしても、不思議だな。」
「?何が、ですか?」
「正体の分からない能力があると知っていてよく混乱しないな、と。」
「まぁ、家がそういうの、好きですから。」
好き。そう表現したらお父さんがそうじゃないと泣きついてきそうだが、私から見ればそんなもんだ。お父さん、ゴメンネ。
「あぁ、そうか。そうだよなぁ。」
榊さんも納得してくれたらしい。
私の家は代々医者で、世界規模の病院をもつことで知られている。だから一般の病気から、私のようなそういうものまで幅広く受け入れているらしい。実際、特殊な能力に関しては公に公開されていないが。
「あの、私が」
入っても意味あるんですかね。と言いたかったのだが、ソレは扉が思いっきり開けられた音でかき消された。音のしたほうへ視線が集まる。私もそっちに顔をむけた。が、意外な人物に首をかしげてしまった。
「うぅぅぅぅくん!!!!!!」
色素の薄くて短い私の髪の毛とは違う、濃くて長い真っ赤な髪の毛を揺らして部屋に入ってきたのは私と同い年の女の子。私の大切な友人でもある。
思いっきり抱きついてきたのは別にいいが、思いのほか痛い。背骨がやられる。
「っ!園守?」
榊さんは一瞬驚いたがすぐに落ち着き眉をひそめた。園守、この女の子の苗字。本名は、
「・・・榊。うーくんの家にはいるなんて一億年早い今すぐここから出てけ。」
・・・・本名は園守りんご。超がつくほどの男嫌い。父親はともかくそのほかの男はチリとなって消えろと確かこの間言っていた気がする。
「まぁうーくんがいるから今回は特別いいかも!それより!うーくん『天界』に入ってくれるってホントなの?あたしホントはずっと前から入ってくれないかなぁって思ってたんだけどね?うーくんなんかそーゆーの苦手そうだしそんなコト言ってうーくんに嫌われたくなかったから私っ」
「園守。」
助かった・・・りんごちゃんはハッキリ言って頭の大事なネジが何本か抜けていると思うんだ。うん。
「何よ?てか気安く話しかけないでよね。金取るわよ。」
国家のお偉いさんになんてコトを・・・。金て。
「園守が知り合いだったとはな。」
知り合いもなにも彼女とは病院で出会った。ガランとした特別病棟の中庭であのとき、泣きじゃくっていたりんごちゃんを見つけたのが始まり。だったと思う。
「そうですよ。確かもう検査やだぁとかなんとか言ってて・・・」
「あぁうぁうぁああああ!うーくん!言わないで!」
なんで恥ずかしがるのかはわからないが、とりあえず首が絞まる。苦しい。