story.1
彼女は世界平和なんて眼中になかったのだ
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緊急連絡のきた後日、その少女に会う事になった。
今まで会ってきた子供達はその能力と理由をほぼ理解しており、会うと怪訝な眼を向けるのが普通だった。
が、その、今目の前にいる少女は国家機密の大人達など、どうでも良さそうな雰囲気さえだしていた。
正に、無知。何も知らないが故に恐怖という感覚が無いといったところか。
「自己紹介を、したほうがいいね。」
なるべく優しく、深刻さをださないよう心がけ、口を開いた。
「はぁい。」
どこか間の抜けた声を少女は発し、もうかれこれ5つ目になるドーナツを口に入れた。
「俺は、榊右京。日本政府の者だ。」
「あ、そうなんですか。」
少女は興味もなさそうに、ドーナツを食べ終え、新しいお菓子の袋を開けながらつぶやいた。
さっきからよく食べる子だと思った。整った顔立ちに、白い肌、華奢な体格。自分の思っていたイメージとは大きく異なっていて、正直面食らってしまった。
「あの、」
黙ってしまった自分に疑問を覚えたのか少女は覗き込むように俺を見た。
「その、『てんかい』ってなんですか。」
てんかい。正しくは『天界』。政府が用意した書類を見つめながら少女は尋ねた。
「『天界』っていうのは日本が呼びやすくした、『heavenly world』の愛称だ。」
天界。天上の世界。そんな名前なのは・・・
「そして、ここで戦闘員、討伐者として働いているのが、」
「神様?が前世だった子供?ってコトですか?私、そこがあんまり理解できなくて・・・政府の人達、こなえだもたくさん来てくれたんだけどよくわからなくて。」
ここで初めて少女は食べることを止めて、不安そうな眼をした。
「それは・・本当だ。信じがたいが。本部にくれば理解できるだろう。」
少女は俺から目線をそらし、資料の本を閉じた。
「君は、自分について疑問を感じたことはないかね?」
「・・・・?小さい頃に、病院に毎日のように行ったことですかね。後、そこでそのたぐいっぽい友人に出会ったくらいです。」
おそらく、該当しているだろう。
「・・・例えば、君のIQ値は人間の度をこえている、そしてその身体能力も。ヘンないいかた、それらの能力は君の前世を受け継いでいるからなるものなんだ。」
「何なんですか。その・・前世って。」
ココだ。ココが重要で。
「すまん。分からない。」
「そうですか。」
頭をさげ、反応を待ったが意外にもあっさりしていた。
「それだけか?」
「だって自分でも分からないし。」
「・・・『天界』にいる子供は、記憶を持っているんだ。」
「はぁ。大変デスネ。」
興味はもうなくなってしまったのか、少女はまた食事を再開し始めた。
「君の前世は仮に、xと呼ばれている。」
「x。」
少女,遊間宴はそれだけ、繰り返した。