story.21
大変遅くなりました。
続編です。
空振り青空
story.21
とてもぶっ飛んだ学校に編入してきていきなりぶっ飛んだ事件に遭遇してきてはや三日。
私は下級生君・・・もとい冥詩君を渡り廊下で見かけた。
「あ、遊間さん・・・!?っちょっと!」
「んー、下級生君だ。」
「冥詩です。めいし。ってソレ!」
彼が指差す先には、私の頭上をぐるぐると動いている前回の事件で現れた例のアレ、黒い物体である。こいつのせいで少し渡り廊下を歩くだけで生徒から異物を見る目で見られている。異物だけれども。
「あぁ。なんか引っ込まなくなっちゃった。どうしよ。」
「え!?・・・・っ、取り敢えず、本部戻って、」
「どうやって戻んの?」
「・・・・・・・・・・・・。」
コッチです。と、彼は自分が歩いてきた道を戻り始めた。もしかして今から始まる授業と全く逆の方向なんじゃ・・・・?
「下級生く、」
「冥詩デス。・・・・置いてきますよ。後、」
「何?」
「本部戻るまでに行き方のルートはともかく俺の名前、覚えてほしいっす。」
授業開始を知らせるチャイムが鳴った。もうなんか申し訳ない。
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「ソレ、どーしたんですか。」
授業が始まってすっかり静まり返った渡り廊下を歩きながら、彼は問いかけてきた。
「起きたらいたよ。それからずーっと離れないし、消えない。」
「ずっと?」
「そーだよ。・・・それに。」
「・・・・・・・?」
「お腹がすくのはいつもだけど、コイツが現れてからもっとすくようになったかも。」
「無駄に、エネルギーを消費してる、とか。」
「えぇー・・・困ったなぁ。」
本当にそれは困った。生き地獄じゃないか。なんとなく、縁があるかも、なんて気分で此処に来たのに。一生お腹がすき続けるのだろうか。考えたくない。
「・・・・困ったなぁって、呑気な。どんなモチベーションで此処に来たんですか。」
「なんとなく。」
「・・・・死にますよ。」
「それも、困ったなぁ。」
「そーすか。」
彼はいきなり投げやりに答えた後、ハァ、とため息をついた。幸せ逃げちゃうぞ。
「まず、本部のエンジニアとか、研究室に報告してください。」
いつの間にかたどり着いた本部の入口を通りながら彼が再び私に声をかけた。
「あのさ、」
「それも俺が案内するから。」
あ。とうとう敬語外れた。まぁ、気になんないけど。
「ね。どーしてここまでいろいろしてくれるの?」
彼はとても親切だ。1コ下とは思えないし。りんごちゃんがあんなに険悪な態度をとる理由も理解しがたい。
「・・・・・・なんとなく、デス。」
「適当だね。」
「・・・・・遊間サンもそんなカンジ、だ。」
「あは、確かにね。」
「それに、」
彼は気恥ずかしそうに目を逸した。
「それに?」
「アンタほっといたら死んじゃいそうだ。」
行きますよ。そう言って彼は歩く速度を速めた。口調が安定してないところが微笑ましいな。なんだ。優しい子じゃんか。
「ありがとう、冥詩君。」
冥詩君の肩がピクリと反応した。どうだ、覚えたぞ。