story.17
『今まで』が崩れる音がした
story.17
痛そう、凄く。私の目の前でうずくまる上級生A。恐るべし国語辞典の威力。まぁ、原因は私なんだけれども。
「はぁ!?てめぇ!!何してんだよ!!」
私に怒鳴る上級生B。
「何をした?・・・殴りました。国語辞典で。」
そう、何を隠そう私が殴ったのだ。りんごちゃんから授かった(護身用)国語辞典で。見てたのなら分かるだろ、とは言わないが。
「っ!?ふざけんなよ!!」
そう言って私の胸倉を掴む上級生B。別にふざけてないよ、本気だよ。
「え、あぁ。すみません。」
「ソレですむと思ってんのか!!」
思い切り手を振り上げる上級生B。平手打ちでもする気か。そう思った瞬間私は躊躇無く上級生Bの脇腹に国語辞典をぶつけた。
「っ、ぐ、ぁ・・・。」
よろめく上級生B。痛そうだ、当たり前だろうけど。真っ青になる上級生CとDはAとBを引きずるようにして退散していく。
「行っちゃたよ。あ、へーき?」
完全に頭の中がショートしている下級生君に一応声を掛けてみる。大丈夫か、この子。
「あ、は、い。へいき、デス。」
敬語を使うのが慣れていないのか、ぎこちない返事が返ってきた。彼の視線はずっと国語辞典だった。慌てて鞄の中にしまう。別に殴んないってば。
「そう、良かったねぇ。ばいばい。」
彼もきっと用事やら、授業やらがあるのだろう。短く切った。うぁ、やばい。りんごちゃんからの着信履歴が半端ない。後でメールでもしておこう。今の私にはお昼寝することが最優先事項だ。
「あの、」
声がして振り返ってみればやはり彼だった。
「ん、何?」
「遊間、」
「そうだね。私は遊間宴。」
「っ!見つけた!」
「え、」
下級生君は大きく目を見開いた。彼は私のことを探していたのか。
「なんのよ、」
何の用?と、言いたかったのだが、いきなり首を腕で拘束された。
「ビーンゴ。ヤッパリネ。」
知らない大人の声がした。目の前の下級生君の顔が険しくなる。
「てめぇ、誰だ。」
「んを、君か。ハデスのバックアップ君。」
ハデス?バックアップ?ってことは間違いなく下級生君は『天界』の関係者だろう。不自由になった首をググと動かし、後ろの人間を見上げる。長髪で濃い紺色の髪、黒いマント。男だろう。
「ココをどこだと思ってんだ・・・!」
「どこ?学校、だねぇ。でもそんな事どうでも良いんだよ。こっちにはね☆」
いや、いい年の大人がホシ飛ばすなって。やばいって。
「離せよ、その人は関係、ない。」
「関係ないだって?何言っているんだい?君は。だってこの子は『リバティ』だ。名前でピンときたよ。宴ちゃん☆」
宴ちゃん☆、じゃないよ。きもいよ、ソレ。て、ゆーか『リバティ』ってなんすか。
「っ、ざけんじゃねぇ!!」
下級生君の焦りと苛立ちがにじみ出た怒鳴り声が聞こえたと同時に足元が浮くのが分かる。あっという間に学園が小さくなる。
「何、これ。」
なんだか大きな透明の箱に包まれている感じだ。
「うおぉぉっと。そっち側お得意の『結界』ってヤツか。やるねぇ。」
「けっかい?」
「まぁ、普通の人間にはこの空間は見えない不思議な箱だね。困ったなぁ・・・僕にコレは解けないんだよねぇ。」
長髪ホシ飛ばしの男は分かりやすく説明してくれたけど首が拘束したままだ。
「オイ、少年。少しでも何かしてみろよ。この子の首はすぐに吹っ飛ぶからな。それが困るなら早くこの結界を解きな。」
一段と男の声が低くなる。下級生君が思い切り睨みつける。そんなに目つきが悪いと幸せが逃げそうだ。
「困ったなぁ。」
思ったことが口から出る。そうだ、お昼寝はできないしお腹は空いてきたり、とにかく気分は最悪だ。
「ん?」
「だから、困ったなぁって。」
「そうだねぇ。困ったね。どうしようかね、宴チャン☆」
「だから、・・・って。」
「え?」
「ホシ、飛ばすなって。」
私がつぶやいた瞬間、二対の真っ黒な鎌が現れた。