story.14
マリーアントワネットの笑顔は恐ろしいほど美しい
story.14
真っ先に彼女の元に駆けつけたのは言わずもがな、園守だった。
危険な状況を示す、赤いランプが室内に点灯し、サイレンが鳴り響いたのは、宴君の検査が始まってわずか数分後のことだった。本部の人間は何事かと、検査室の周りに集まる。
自分もその集まりを掻き分けて検査室に入ると、園守に抱きつかれながらポカンとしている宴君と目が合った。
「あ、榊さん。何かあったんですか?」
当の本人は少し予想はしていたが、冷静だった。隣にいる園守のほうがずっと動揺しているように見える。
「っ、うーくん、へーき?」
「へーきだよ。どこも痛くないし。」
「ごめんねごめんねっあたしがっ」
「なんでりんごちゃんが謝るの?誰も悪くないって。」
「でも、」
小さな声でポツリ、ポツリと聞こえてくる2人の会話が騒がしい機械と、周りの人の声のおかげで際立って聞こえた。2人、特に園守は全くそこから動く気配がなくどうしたものかと眺めていると、
「はーい。仲良し2人、いいかな?」
ドアからこの検査室の室長を務める女性が顔をだした。
--------------------------------------------------------
「ほーら、りんご、そんな怖い顔して黙んないでよ。はい、これ。」
室長はニコニコしながら園守に呼びかけ、お茶を差し出した。案内されたのは検査室の奥にある、そこそこの大きさの会議室だった。
「あ、今から検査結果とその考察、言いますケド、質問とかは宴チャン本人だけでお願いしますネ。宴チャンだって自分のこと、他の人にベラベラ聞かれたくないだろうし。」
ニコニコしながら、室長は本部の人間に釘を刺した。当人の許可なく、個人情報に踏み込むな、ということだろう。
「んじゃ、異論ないみたいなんで始めますネ。・・・『ポイント』の数値はざっくり言うと怪物級でした。これからの訓練次第でグングン伸びると思いますヨ。まぁ、討伐員確定ですかねー。いいかな、宴チャン?」
「アンタ達、うーくんに無理させたらホントに許さないからね!!!」
「りんご、アンタに発言権は原則ないから。」
室長の問いかけに答えたのは宴君ではなく、園守だった。その隣で宴君はお菓子を元気良く食べていた。こちらの視線に気付いたのか、
「りんごちゃん、大丈夫だって。嫌になったら辞めるから。」
かなり感心意欲を疑われる(元から0に近いが)発言をしてまた、お菓子を食べながら、書類の裏に難しい数式を書き始めた。
「・・・まぁ、本人の許可は貰ったということで。んで、問題の前世のチカラがですねー・・・。ハッキリ判別しないんですよ。ハイ。」
今までスラスラとしゃべっていた室長の歯切れが悪くなる。少しざわついた声達を無視して室長は話を続けた。
「普通、てか今までは『火』だったら『火』で、無論『水』ではない。当たり前なんですけど、それだけ、だったんデス。だから、検査で一発でどんなモノか分かるし、実技検査でどうとでもなったんですケド、宴チャンはやっぱ、例外でして。『火』であることは確かだけど、『水』であることも確かってカンジで・・・・混合?カオス?って言うんですかネ・・・さっき機械がショートしたのもそれが原因でして・・・・。」
視線が不思議と宴君に集まる。宴君はその視線には気付いていないのか、数式を書き続けながら、
「それって、結局あんまワカンナイってコトですか?」
要点というか、結論をまとめた。室長は苦い顔をし、周りはぶつぶつとお互いの意見を言い合い始めた。園守は不機嫌な顔をしながら頬杖をついている。
「まぁ、前世とソックリじゃないですかぁ、ねぇ!!」
室長がぎこちなく、明るい口調で話す。
「前世、ですか。」
「そーそー前世。・・・ってまさか宴チャン知らない!?園守!!勉強不足!!」
「違う!!あたしだってイロイロあったの!!」
「あーハイハイ。イロイロね。ウン。・・・・宴チャンの前世、『x』ね。こいつはァ、神様じゃないのに神様と渡り合えたって言われてんのネ。どんな関係だったのかは知らんけども。」
「はぁ。」
「その興味のなさそうな返事をやめんか。んで、今言ったのも、これからのも、他の神様が前世だったこの微かなバックアップの記憶なんだけどね。『x』ってのは随分と神様に好かれて、いろんなチカラを授かったらしいんだよねー・・・。」
「何ソレ!!結局、室長の言い訳バナシでしょー!?信じらんない!!」
「あぁーーーー!!うるさいよ!りんご!!ハイ、もう終わり!!解散!!解散!!」
室長の強引な号令で検査結果の発表会はお開きとなった。
「・・・じゃぁ、私の前世って遊び人だったんですね、榊さん。」
「・・・・そう言うワケではないと思うが。」
本人は意外にくだらないことを考えていた。
-------------------------------------------------------
▼ロビーにて
「でもでも!!前世のことが分かって良かったね!!うーくん!!」
「・・・・・。」
「うーくん?」
「君が予習してくれてたらもっと早く分かったのになって思ったんだよ、りんごちゃん。」
宴君はメロンパンの袋を開けながらサラリと言った。本当によく食べる子だと思う。
「・・・・・・・。」
「え、りんごちゃん?本気にした?」
「あたし、役立たず・・・・?」
「そんな事ないよ。そんなことない。ね、ごめん。私が悪かったよ。」
「・・・・ホント?ホントに?」
「本当だって。嘘はつかないよ。」
「っ!良かったぁぁ!!あたし、うーくんに役立たずだって思われたら死んじゃうよ!!」
「必要としてるじゃんか。してるよ。だから死なないでね。」
「うんうん!!!」
・・・・・・数ヶ月間、2人の会話や、やり取りを聞いてきたがどうも違和感と緊張感があるのは自分だけなのだろうか。肝心の2人は何も気にしていないが。
「あ、室長さんが呼んでる。待ってて。」
そう言って、宴君が検査室の方へ姿を消した。視線に気付いたのか、園守がこちらを向く。さっきとは全く違う、鋭い目。本当に男が嫌いなのだろうか、それとも宴君ではないからだろうか。聞いたところで真面目な返事が返ってくるとは到底思わないから聞かない。
「何。」
「・・・・いや。仲が良いと思っただけだ。」
「当たり前でしょ。うーくんがいるからあたしがいるの。うーくんもちゃんと分かってくれてる。私のこと。」
「・・・・。」
園守は真っ直ぐ目を合わせて言い切った。すぐにそらして携帯に目をやる。
「あぁー・・・うーくん、検査室から帰ってこれるかな・・・迷ってどっか行っちゃたらどーしよ!!」
いきなり騒ぎ出したかと思うと迎えに行くつもりだろうか立ち上がり、ドアの方へ向かう。
「うーくんの興味のない世界なんて消えちゃえば良いのに。」
少し前まで中学生だった子供とは思えない笑顔を残して。