1、登場
結城真はイラついていた。
なぜか?なにに?
屋上の柵に寄っ掛かってタバコに火を点けて、空を見上げた。
どいつもこいつも自分を見る時の目が気に食わないからか?
それともそういうふうに思ってしまう自分にか?
やりたい事がないからか?
世の中にやりたい事がない奴なんかごまんといるだろう。
全員自分のようにイライラしているのか?
そんな訳ない。
イライラするのはカルシウム不足という。
しかし、牛乳は毎日飲んでいる。
ということは、牛乳ではカルシウムは補えないのか?
いや、もしやカルシウムとイライラは関係ないのでは…。
「ギャハハハッ!」
屋上の扉の向こうから、さらなるイライラの原因になりそうな馬鹿みたいな声が聞こえて、結城はやっぱりイラっとした。
理由はないが絡んでやろうと思った。
ガチャ。
扉が開いて出てきたのは、髪を茶色に染めたり、制服を着崩してる程度にワルぶってる男が5人。
上履きの色からして、同じ1年か。
「はは、そんな事あるか!ん…。」
全員が少し驚いた表情を浮かべ、結城をまじまじ見ていた。
確かに授業中だし、いるわけないとこに人がいたら驚くだろうけど、そこまで見るかね?
「誰だ、こいつ…。」
「…結城だ、東宮二中の…。」
「へー、こいつが…。」
反対側の柵の方に進みながらも、またチラ見。
「おい、なんか文句でもあんのか?」
結城はいきなり喧嘩腰で全員に言葉を放った。
「え、何こいつ?」
「訳わかんねえ…」
多少色めきだったが、まだケンカの雰囲気にはならない。
よっぽどな事がない限り、誰でも急にケンカする気には普通ならない。
初めからその気でいるヤツ以外は。
「じゃあ何見てんだ、オラ?」
そう、最初からケンカしたくてしょうがないのは結城だった。
ケンカしてる時だけがイライラしなくてすむ。
別に他人を痛めつけたいわけじゃない。
でもケンカなら少なくともやってる間は何も考えない。
イラついてる事も。
他にも方法はありそうだけど、これが一番手っ取り早い。
「文句あんじゃねえのか?あ?」
一方的に殴りたいわけでもない。
そんなのは余計イラつくだけだ。
相手もその気で来るから、こっちも何も考えなくて済むんだ。
「いや、そうじゃなくて、なあ?」
「そうそう、誰もいないと思ってたからよ。」
「屋上には行くなって先輩から言われてたからよ。」
「そうそう、そしたら居たからさ」
結城はがっかりした。
こいつらそんなに悪くない!
人数いるのになんだそれ!
それが余計にイラついた。
「居た?居たら悪いのかよ、ああ?」
もう自分でも止まらないイラつきだった。
なんでだろう?いつからだろう?こんなにも無性にイラつくのは。
「いや、ちょっと待てよ…ぐっ」
一番手前のヤツの胸ぐらを掴む。
「お前、おかしいんじゃねえのか!?離せよ!」
周りの連中も結城を離しにかかる。
「ウザってんだよ、てめえら!」
「うるせえ!!」
「な、誰だ!?」
「上だ!」
まったく関係ないところから声がして全員が、屋上の扉の上にある、貯水タンクの所を見上げた。