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3.メガネから光線を出す男

 教訓。大人は信用ならない。




「木崎」


 休み時間、愛理は机に突っ伏して消しゴムをグリグリといじっていた。

 休み時間は好きではない。

 愛理には、十分間の休憩タイムを楽しくおしゃべりして過ごす友達がいないからだ。

 だから、自分の名前が呼ばれるなんて微塵も考えていなかった。


「木崎!」


 頭上から降り注ぐ低音に気付いたのは、何度呼ばれてからなのだろう。

 愛理の机の前に立つ男は、ピリピリと殺気立っていた。


「お、おお。な、なにさ」


 高校に入学してから一ヶ月、人と会話らしい会話をほとんどかわしていないためか、声がどもる。

 妙におどおどしてしまう自分に苦笑して、目の前に立つ男にはばれないように小さくため息をついた。


「お前、緑化委員、サボりすぎだぞ」


 メタリックシルバーのメガネをくぃっといじり、男は眼鏡越しから冷たい目線を寄こしてくる。

 誰だっけ……。男を上から下までじっくりと見てやった。

 長身ですらっとした体型をしており、制服はきっちりと着こなしている。

 今時ネクタイまでしっかり締めているのだから、教師受けは最高に良さそうだ。

 ストレートの黒髪は眉毛までの長さで、切れ長の瞳がいかにも秀才そう。


 ……そういえば、クラスの女子が「ゲームのキャラみたい」と言って笑っていたっけ。


 いわゆる恋愛シミュレーションゲームで、生徒会長役とかで出てきそうな出で立ちなのだ。

 委員長とか生徒会役員とかにいそうなタイプの割りに、彼はホームルームでの委員会決めの時に、まっさきに緑化委員に立候補していた。

 見た目とのギャップにひとりでこっそり笑っていたのがばれたら、怒られそうだなあ……と愛理は面倒くささを隠し切れずに邪険な目線を送ってやる。


「おい。質問に答えろよ」


 高圧的な態度に、鋭い目線。ピキューンこと矢澤みたいだ。

 ピキューンメガネ。略してピキュメ。ちょっと言いづらい。


「委員くらい、サボるなよな!」


 何も答えない愛理に痺れを切らしたのか、ピキュメは一歩足を前に出し、愛理の耳元に向かって怒鳴ってきた。


「うるせー」


 つい、本音がこぼれる。ピキュメのメガネがギラリと光った。矢澤よりもピキューンしている。


「委員会サボっといて、その態度は驚きだな」

「つか、緑化委員なんて知らん」


 委員会に所属した記憶が無い。まさか、と思い、教室の後ろの掲示板に貼ってある委員会の名簿まで歩を進める。


『緑化委員 戸島和希 木崎愛理』


「あの、これ、なんすか?」

「なんすかって、俺はお前の言動が意味わからないんだが」


 友達がいないって、こういうことなんだな……愛理は肩を落とした。

 四月に一日休んだことがある。サボりである。愛理は入学して間もないクセに、サボり癖を身につけていた。

 その休んだ日に委員決めがあったのだろう。

 じゃあ、なぜ、このピキュメが緑化委員に立候補したことを知ってるんだ! ――あ、後ろの席の子が話してたの盗み聞きしてたからだ。自己解決。


「……すいません。怖い人」


 一応、謝る。


「怖い人ってなんだ。怖い人って」

「怖いからじゃん。りょくかいいんかあ……。なにを緑化するんだろ……めんどー……」

「昇降口の花壇の水遣りとか、裏庭の花壇の水遣りとかだよ。つか、俺は怖くない」

「怖いです。私に話しかけてこないで下さい……戸島とじまくん」

戸島としま、だ!」

「なんでもいいよ。お休み」


 ピキュメの名前は戸島としま和希かずき。同じ委員らしいからしょうがない。覚えておこう。

 愛理は自分の机に戻って、夢の世界に行くことにした。

 後ろで戸島がぎゃーぎゃー騒いでいるのを無視して。



 ***


 昼休み、愛理は図書室に行ってみた。

 屋上の幽霊――ヒロが何者なのか調べるためだ。

 図書室の一番奥にある、卒業アルバムが並べられているコーナーで、四年前のアルバムを手に取った。

 ヒロの室内履きは、愛理と同じ紺色のラインが入っていた。

 学年ごとにカラーが決まっているから、ヒロは直近であれば去年の卒業生だ。

 だが、彼は愛理よりも『ずっと年上』と言っていた。去年の卒業生だとしたら、『ずっと年上』とは言わないだろう。

 その前の紺色ラインは四年前の卒業生となる。


 紺色の表紙をめくると、桜の花びらが舞い散る学校の写真が映っている。パラパラとめくり、生徒の個人写真が並んだページを見つけた。

 愛理が通う高校は上の中レベルだ。だから、極端なギャルやギャル男は少ない。

 だからこそ、ヒロのあの茶髪は異質だ。けれど、不真面目そうに見えないのは、彼の笑顔がとても人懐っこいからかもしれない。


 A組からF組まで見ても、ヒロらしき人はいなかった。

 際立つ美少年だ。見落とす可能性は低い。さらに七年前のアルバムを手に取る。

 七年も前なのに、高校生たちの容貌の特徴はたいして変わらない。髪形の流行廃りはあるから、古くささを感じるのは髪型くらいだ。

 

 七年前のアルバムにもヒロらしき人はいない。十年前のアルバムを取る。


「眉毛も意外と流行ってあるんだな」


 十年前……色が黒い女子が多い。このあたりにくると、やはりギャップを感じる。


「って、なんで高校生の流行十年史を追ってんだ……」


 自殺した生徒なら、卒業前に死亡しているわけで、卒業アルバムに載っているわけがない。


「先生!」


 早くも面倒くさくなり、司書の先生のところに駆け寄った。

 メガネをかけた五十代位の司書の先生は、カウンターのところで図書委員の女子と楽しそうに話していたが、愛理が呼ぶと、にっこりと人当たりの良い笑顔を向けてくれた。


「先生、幽霊って信じますか?」

「信じません」


 即答だった。


「先生……自殺した生徒の幽霊が出るって言ったら、信じますか……?」

「信じません!!」


 けっこうビビリらしい。司書の先生は「あ、用事があったんだった!」とわざとらしく図書準備室に逃げていってしまった。


 

 

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