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15.事件の真相

 友達のいない愛理にとって、昼休みをどこで過ごすかは大きな課題だった。


 教室はグループで固まってお弁当を広げているから一人でいるには居心地が悪すぎるし、だからといって一人になれる場所(たとえばトイレとか)にこもるのも寂しすぎる。

 生徒の少ない教科ごとの教室が固まっている西校舎にも行ってみたが、ちゅーしてるカップルに遭遇して悲鳴を上げられて以来、怖くて行けない。


 愛理は難民さながら、中庭や校庭の隅にあるベンチや階段の影やら、いろんなところをぶらぶらしてみたが、どこもいまいちしっくりこなくて、楽しいシングルライフを見失いかけていた。

 そんな時、後ろの席の女子が「うちの学校って自殺した人がいたらしいよ!」と大騒ぎしているのに出くわした。出くわしたというより、こっそり盗み聞きした。

 そんなに大昔の話でもないから、クラスの大半はすでにそのことを知っており、その女子は「情報遅っ!」と笑われていたが、愛理も知らなかったので一緒に笑われている気分になった。


――だからお姉ちゃんはあんなに反対していたんだなあ。煙たがってごめんね! 心の中でだけ姉に謝る。でも本人に謝るの癪なので、絶対謝らない。


 ということは、だ。その自殺者が出た場所付近なら人がいないはずだ。確か屋上は封鎖されている。幽霊が出るという噂もあるし、近づく人は少ないだろう。


 愛理の読み通り、屋上に出られる東階段は人っ子一人いなかった。ちゅーしてるカップルももちろんいない。


 あのカップルは幸せにしているだろうか。あの時は覗いてごめんね。

人のちゅーをまじまじと見るのは初めてだったので、とてもしっかり観察しちゃいました。べろちゅーってあんなかんじなんだ。――どうでもいい感想を思い出しながら、愛理は今日も東階段へと向かう。




「木崎」


 よ、と片手を上げて、和希が出迎えた。


 愛理は「よう」とまるで男子同士の挨拶みたいな軽いノリで返して、和希のいる踊り場まで歩く。


 ゴールデンウィーク明けのあの日、なんとなく屋上への扉のドアノブを回してみた。本当になんとなくの、開いてたらいいなあという淡い期待だった。

 そしたら、開いてしまったのだ。封鎖されていると聞いていたのに。

 あれは、嘘だったのだろうか。

 でもあの時、淡い期待を抱かなかったら、ヒロとは知り合えなかった。なんて自分はすごいんだ。


「屋上、行く?」


 ドアノブに手をかけると、和希に手首をつかまれる。


「いや、ちょっと先に話がしたい」


 なんか告白前のセリフみたい。なぜだか恥ずかしくなって顔が熱くなる。愛理は顔を隠すようにうつむいて、階段に座った。

 和希も横に座り、ふーと大きく息を吐いて手足を伸ばす。

 足、長いなあ。ぼんやり和希の足を眺めながら、弁当を広げた。


「話がしたいって言ってんだろうが」

「腹の音で返事することになってもいいのか」


 腹が減っては戦は出来ぬのである。お腹がすいている時のお腹は口よりも雄弁なのである。


「……食いながらでもいいけど、ちゃんと聞けよな」

「うん」


 返事しつつタコさんウィンナーをほおばる。うまい。


「俺、あの幽霊のこと調べたんだ」

「私も、むぐむぐ、調べたよ。もぐもぐ」

「食べながらしゃべるな。はしたない」

「ごめんなさい」


 和希はお母さんのようだ。きっといいお母さんになるだろう。男だからお父さんだよな、でもお母さんが似合うと思い直す。


「で、お前はどんなこと調べたんだ?」

「ヒロが死んだ年月日とか……ネットの情報」


 和希もお腹がすいていたのか、脇に置いていた紙袋からパンを取り出し頬張った。


「あと、ヒロがやっぱりイケメンで有名だったこととか、イケメン過ぎて若干嫉妬されてたっぽいこととか、美人は男でも薄命なんだなあ、とか」

「お前……イケメンほんと好きだな……」


 どうでもいい情報ありがとう、と言われ、愛理はむくれる。

 ネットで名前が上がるほどイケメンだったから本名がわかったというのに。


「七、八年前にうちの高校で自殺があったのは俺も入学前から知ってたからさ、調べるのも簡単だった」


 そう言いながら、和希は愛理にA4サイズの用紙を手渡してくる。

 新聞のコピーのようだ。五センチ四方の記事のところを蛍光ペンで囲ってある。


「入学前に知ってて、よくこの高校選んだね。私はお姉ちゃんに大反対されたよ」

「俺は大学を推薦で行くつもりだからな。トップクラスの成績を維持出来る公立校でそこそこのレベルだったのはここだけだったから」

「うわあ……なんか嫌味な高校選びぃ」


 高飛車な性格してるしねえ、と言ってやったらどつかれた。


「それより、記事読め」


――二〇〇五年七月十二日午後四時頃、〇〇県立高校で同高校に通う男子生徒(18)が屋上から転落し、搬送先の病院で死亡が確認された。警察は飛び降り自殺の可能性があるとみて、詳しい状況を調べている。


 愛理がネットで得た情報とほぼ同様の内容だった。


「で、これがその二週間くらい前の記事」


 もう一枚も新聞のコピーだ。自殺の記事よりも小さい。


『二〇〇五年六月二五日午前二時頃、K市の民家が全焼し、焼け跡から遺体が見つかった火災で、遺体はDNA鑑定の結果、この家に住む、上条忠幸さん(48)と判明した。忠幸さんは二階の寝室から発見されており、一階の居間にいた長女の颯希さん(20)、弘嗣さん(18)は軽傷を負った。妻の祥子さん(44)は出かけており不在だった。同署は、無事だった三人に話を聞くなどして火事の原因を調べている』


「火事の記事だ」


 ネットでは情報が多すぎて愛理が早々とあきらめてしまった火事の情報を、和希はきっちり調べ上げていた。


「だてにメガネじゃないね。略してダテメガネ」

「意味の分からないほめ方するな」


 ピザパンを平らげた後、和希はチョココロネを食べ始めた。チョココロネをセレクトするとは、なにげにかわいいな、おい。チョココロネ好きの愛理は和希を少し見直した。


「それで、これがあの幽霊が自殺したしばらく後に出た記事」


『K市の民家が全焼した火事が放火の可能性があることが判明した。煙草の不始末が出火原因とされていたが、証言に食い違いがあり、家庭内でトラブルがあったかどうか調べている』


「あいつはいじめにあっていたわけじゃない」


 和希の断言に、愛理は箸を止める。

 それは、愛理も感じていたことだ。いじめにあっていたのなら、卒業アルバムのあの写真はなんだというのか。あれは、クラスメートに慕われている証拠だ。

 もしかしたら、いじめをしていた生徒がそのことを隠すために、慕っているような写真をわざと作ったのかもしれない。

 けれど。


「林先生の様子見ても、いじめは無いね、きっと」


 愛理も和希の言葉に同意した。

 もしいじめの隠ぺいのためだったとしたら、林先生の表情はもっと硬くなるはずだ。

 あんな優しそうな表情で、ヒロのことを語れるわけがない。


「それから一年くらいは放火についての記事は無かった。これが最後だ」



――二〇〇五年六月K市の民家放火事件において、家主の忠幸さんの妻、上条祥子容疑者を現住建造物等放火の疑いで逮捕した。



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