0.プロローグ
少しずつ……死んでいく気がしたんだ。
屋上のこの場所から、身を投げた人がいる。
原因は知らない。
よくあるいじめだと思っているけど、本人が語らないことにこちらから勝手な理由付けは出来ない。
憶測で物事を語るのは、相手に失礼なことだ。
「愛理って、どうしてそうなっちゃったの?」
ある日、友達はそう言って、眉をしかめた。
明るかったじゃない、笑ってたじゃない、楽しそうだったじゃない。
彼女の口から語られる過去の私の幻影を、自嘲するしか出来なくなってしまったのは、いつからなのだろう。
「あれは、私じゃない」
つぶやいて、空を仰ぐ。
金網の向こうの空は悲しいくらい青くて澄んでいて、目に沁みる。
頑丈な柵の上に設置された金網は、まるでここを刑務所のように思わせて……閉じ込められているんだと、ここから逃げられないんだと、私を責め立てている気がする。
学校は、いわば牢獄なのだ。
不審者の侵入を拒むために閉じられた門だって、本当は生徒をここに閉じ込めるためのものなんだ。
四方を柵で囲み、誰も出られないようにして、時には門番だって張り付いている(体育教師の矢澤はその役が大好きだ)。
「死にたい……」
と思うけれど、本音ではない。
死にたくはない。生きていたい。
でも、私は生きていると言えるのだろうか。
人生を能動的に楽しんでいないのに『生きている』と言っていいのだろうか。
心臓は動いている。頭だって働いてる。手も足も動くし、たまに便秘をするくらいで体はいたって丈夫だ。
それを『生きている』と言うのならば、体は、という言葉をつけねばならない。
心は……心が生きていない。
少しずつ……死んでいっている気がするんだ。
気付かないうちに、ほろほろと零れ落ちて……。
丸かった私の心は、いつの間にかいびつに歪んでいた。
少しずつ、死んでいく。朽ち果て、腐って。痛みもなく、苦しみもなく、ゆるりと、壊れていく。
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