Ⅱ.秘密、過去①
「…やっぱり、そうなのかい?」
朔は困ったように眉をひそめた。
その視線を受けきれなくて、氷美はうつむく。
「…仕方ないじゃないですか…」
私がいるせいで、月夜はダメになってしまうんだし。
「氷美…私が嫌いなの?」
萌黄が泣きそうな声を上げる。
「いや、そういう問題じゃないんだけど。」
萌黄は好きだ。
年下なんだか年上なんだかわからない態度が可愛らしい。
「じゃぁなんでやめるとか言い出すんだよ!」
一番反応が遅かった零。
一番反応が遅かったけれど、一番焦っている気がする。
「やりすぎてしまうのは、悪いことじゃないんだよ?氷美。」
朔が優しく諭した。
でも、悪いことじゃないというならばなんだというんだ。
「悪いことです。だって私がいたら、月夜が悪く言われる…」
「そんなの気にしなけりゃいい!」
零が怒ったように叫んだ。
「零…」
「月夜が悪く言われようと、氷美は悪くねぇだろ!?悪いのは不浄の金を使ってる相手なんだし!」
確かに、零は間違ったことは言っていない。
萌黄も隣で頷いている。
でも、それじゃぁ氷美の気持ちが収まらない。
「でもさ、零。」
「なんだよ?」
「私は、みんなに迷惑をかけてると思うんだわ。」
「はぁ!?そんなの、」
「どうでも良くないんだよ、私には。」
零の言葉を遮るように、氷美は強い口調で言った。
零が黙りこくって、誰もひと言も発さない。
気まずい沈黙が流れる中、ピピピピッっと緊張感のない音が響いた。
「おっと、鴉からメールだ。」
朔が銀色の味気ない携帯を開き、うすく笑った。
「あそこの屋敷の人に気付かれた。警備を厳重にするらしいって。」
「あそこって…さっきの。」
零が思い出すように呟く。
朔は頷き、チラリと氷美に目をやりながら話した。
「でも氷美はこうなってるし、君たち2人で行ってくれるかい?」
2人といわれた萌黄、零は顔を見合わせる。
勝負を挑むかのように笑い合うと、立ち上がった。
「行くぞ、萌黄。」
「ふんっ、この私が戦いに出るなんて、結構久しぶりね」
「いってらっしゃい。」
朔がにこやかに送り出し、2人は窓から飛び降りて屋敷に向かった。
話しについて行けずにいた氷美は、ぼんやりと思ったことを聞いてみた。
「鴉さんって…性別、どっちです?」
そんな氷美に朔は、相変わらず笑ったまま答えた。
「うん、不明だよね。」
リーダーが知らぬのならば、知る人はいないだろう。
ちなみに鴉は極度の引きこもりで、戦うことはしない月夜の情報屋であった。