Ⅰ.制御⑦
「朔さん。」
氷美は起きてすぐに、朔に伝えたいことを言おうとした。
だが、肩が重い。
「萌黄…。」
なぜかというと、萌黄が寄りかかっているからである。
「なぁに、氷美?」
にこにこ笑顔で萌黄が聞いてきた。
彼女に好かれているようで、氷美にとっては妹ができたみたいだ。
「今は大切な話があるから待っててね?」
苦笑を浮かべて萌黄に訴える。
「…氷美は私を何歳だと思っているの…?」
ぶつぶつ言いつつ、萌黄は氷美の肩から離れた。
「で、なんだい?」
朔が氷美に問いかける。
危ない。忘れるところだった。
言いにくいこと…大きく息を吸い込む。
「…言わないよね?」
朔が、氷美の心をのぞいたかのように言った。
はっと顔を上げると、朔の糸目が普通の人のように開いている。
なんというか…似合わない。
「まさか引退したいなんて、言わないよね?ていうか、君に言えることじゃないと思うんだけど。」
朔はそう続けた。
ばれている。私の考えなんて。
「…でも、ダメなんです。」
氷美は小さく返した。
私じゃダメなんだ。やりすぎてしまう私じゃ、月夜のバランスがとれない。
零の鋼糸だって、糸型だが刃の部分とみねの部分とがあり、本気にならないと刃の部分を使わない。
だから、彼は人を殺すことが滅多にないのだ。
萌黄は薬を使う。
睡眠薬、身体が麻痺する薬…すべて自分で開発していた。
もしもの事態ということは、ない……………はずだ。
朔は体術、もう一人は極度の引きこもりで情報屋。
人を殺してしまうのは、氷美だけなのだ。
その氷美だけのせいで、月夜全体が悪く言われる。
そんなの、他の四人に悪いだろう。
だから、氷美は。
「…………さい。」
「ん?」
小さくて聞こえなかったように見せかけているが、朔は凄みがあり、少し寂しげな笑顔を浮かべている。
わかっているだろうに。
私はダメなんだと。
義賊にはなれないのだと。
ずっと成りゆきを見ていた零と萌黄がまさかと目を瞠る。
「月夜を、やめさせてください。」
仕方ない。
やりすぎてしまうのは、制御できないんだ。