Ⅰ.制御④~零side~
氷美は無言で日本刀を抜いた。
―――――やばい。
零は直感でそう判断する。
とめなければ…………!
「なん、だよ…!」
足うごかねぇし。怖いのかよ!
「零」
氷美が、静かに呼ぶ。
さっき零とケンカしていたときの声とはぜんぜん違っていた。
「邪魔、しないで。」
冷ややかな声。背筋が凍るような。
氷美を傷つけた少女は、その様子を見てふるえていた。
木の棒を手が白くなるほど強く握り締めて。
「あ…あ、」
声にならない声を出していた。
そりゃ怖いよなぁ、と零は冷静に分析してしまう。
だって、俺だって怖いもん。
「氷美、今度こそ止めねぇと俺殺されるよな…。」
俺、まだ死にたくねぇよ?
零の思考がそこまで達したとき、氷美が日本刀を構えて走り出した!
「うげっ」
零は慌てて追いかける。
氷美は、やりすぎたことをひどく根に持ち、下手したら自分の命を差し出してでも罪を償おうとする。
当たり前といっちゃ当たり前のことだが、こんな幼い少女を。
自分の体験したことをさせるとなれば。
氷美は―――――――――――――
「やめろっ、氷美!」
零は、追いつけなかった。
紅い、血が、舞う。
零はそれを見たくなくて、固く目をつぶった。
だけど。
血が舞う音の変わりに。
きぃ――――――――ん
と、金属音がした。
「……氷美?」
おそるおそる目を開けると。
長身の人が素手で氷美の刀を押さえている。
それを片手ですませ、もう片方の手で速やかに少女の首に手刀をたたき込んだ。
黒のコートに、首の後ろで結わえた夜空色の髪が揺れる。
「…なっ、朔さん!?」
その人は糸目を面白そうにさらに細めて言った。
「零くん?とめなかったのなら、お仕置きだよ?」
「ウソだろ…。」
この朔という青年、「月夜」のリーダーであった。