表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
零の仕事
42/47

<零の仕事>10


守りたかったはずなのに。守るためだったはずなのに。

おかしいな? どうしてこうなったんだろう。

今過去にいけるのであれば、そのときの自分を殴り飛ばしたい。

そして、氷美は、それのせいで、そのうち、仕事にでるようになって。

零は鋼糸を操って、一歩一歩とゆっくり進みながら乾いた笑みを浮かべる。

守るため守るためって、守れたことはあっただろうか。


「なぁ、氷美?」

「・・・零・・・」

氷美の前にたどり着いて、零は目で問う。

氷美は閉じていた目を開けて、零を見上げた。

見つめ合って、氷美が口を開きかけた。ーーー瞬間、零は後ろに飛び退く。

「あっぶねー・・・」

目の前を通ったのは包丁だった。切っ先が震えている。

「・・・な、何なんだよお前・・・何なんだよ!」

その包丁の持ち主は、氷美の隣にいた、「あの人」。つまりはここのボスだ。

怯えた目をして包丁の切っ先を零に真っ直ぐ向けている。震えすぎて歯がガチガチと音を立てていた。

「みんな・・・みんな、殺しやがって! 何なんだよ! よるな!」

「・・・別に、完全に死んだとは限らないんだけど・・・」

零は包丁を見つめてそう言った。確かに出血多量だが、もしかしたら死んでいない人もいるかもしれない。

「よるなって、お前が言える立場なの?」

素朴な疑問が浮かび零は首を傾げた。

包丁V.S鋼糸。勝負は決まったようなものである。

「う、うるさいうるさいうるさい! いいからよるな! ぶ、武器を捨てろ!」

怯えているのによくそこまでできるものだ、と零は感心した。

展開がおもしろくなりそうだったので、零は素直に鋼糸を床に放り投げた。

「よし・・・じゃあ、手を挙げて、そのまま下がれ! 元いた場所に戻れ」

零が武器を捨てたことで多少恐怖がなくなったのか、包丁の震えが小さくなった。歯ももう音を立てていない。

言うことを聞いて、一歩二歩と下がっていく。

「・・・そう、そうだ・・・動くなよ・・・」

ボスは息を荒くして、縛られている氷美を引きずるようにして持ち上げた。

逃げだそうと、隠し通路でもあるのか零たちに背を向ける。

この瞬間を逃すほど、零は馬鹿じゃなかった。

服のポケットに手を突っ込み、そこに入っていたものを取り出して装備する。

ーーースペアの鋼糸が仕込まれた手袋だ。

片手しかないが、それはそれでよしとする。

ボスの背に向けて、鋼糸を放った。

「ーーーっ!」

鋼糸が風を切る音に気がついたのか、ボスは振り返った。

恐怖に目を瞑って、何をするかと思いきや。

「お前・・・っ!」

零が目を怒りに染めた。

ボスは持っていた氷美を鋼糸に向け、氷美を盾にしたのだ。

氷美が目を見張って、体を強ばらせる。零は全力を使って、鋼糸を氷美から逸らした。

ギリギリで氷美の体には当たらない。代わりに、運良く氷美を縛っている縄が切れた。

「・・・っわ・・・!」

氷美の足が地面に着く。突然の感覚によろめいた。

それを見計らって、ボスはまだあきらめずに、氷美に手を伸ばす。

「ちくしょ・・・これだけは、やりたくなかったけど!」

零は次の手段にでた。

何故か、いつのまにか刀の形に戻っていた雪鶴を拾い上げ、切っ先をボスに向けて。

渾身の力を込めて、投げつける。

「雪鶴ーーーっ!!」

雪鶴は勢いよく飛んでいった。

だけど、接近しているボスと氷美。今場所が入れ替わったとしたら、刀が刺さる人も入れ替わってしまう。

朔はあまりの暴挙に唖然とした。

「零君、君は何を!」

「・・・大丈夫です、朔さん」

零は、さっきと同じように、笑みを浮かべていた。

「だって、雪鶴ですよ?」


ドシュっーーー刀が刺さる音がした。


氷美たちの方を見ると、氷美が驚いた顔をしてその光景を眺めていた。

刀は見事、ボスに刺さっていた。

頭の横に刀が刺さっていて、そのまま壁にぶつかっている。


その、ボスの肩には草履を履いた足が乗っていた。


「まったく・・・無理がありすぎだ、零」

その足の持ち主は、肩から飛び降りると同時に刀をボスの頭から抜いた。

持ち主ーーー雪鶴は、音もなく地面におりたつ。

朔や萌黄、氷美もその雪鶴を見て目を見張った。

雪鶴の、左腕だけが刀になっていたのだった。

「でもできたじゃん」

「これは一か八かの賭だったのじゃぞ・・・? 何も言わずにお前は投げるし」

呆れる雪鶴に対し、零はできることを信じて疑わなかったようだ。

雪鶴が一度刀になっている腕を振ると、刀ではなく普通の人と同じ腕に戻る。

「雪鶴・・・いつの間に、そんなことできるようになったのさ・・・」

朔が呆れたように笑った。

「我も知らぬ。気付いたらできていた。というか、今初めてやったのだし」

きっぱりと雪鶴が答える。

零はそれを見て、安堵のため息をついた。

そして、氷美の元へ駆ける。

「氷美!」

「・・・零」

氷美は少し、怯えたような顔をして零を見た。

腕をぎゅっと押さえており、その腕はすこし、震えている。

零は苦笑した。

「ごめん」

「反省して」

「うん。ちょっとやりすぎたかなって」

「・・・まったく」

氷美はそう言って、ぎこちなく笑った。

「でも、ありがとう」

零は目を見張って、照れくさそうに、頬をかいた。

「ーーーだけど」

「ひっ!?」

突然、氷美の声が氷点下のごとく冷たくなり、零の肩がはねた。

慌てて氷美を見ると、氷美は手を高く振り上げているところだった。

あ、と思うも、時すでに遅し。

スパァアァン、と綺麗な音がした。グーで殴られなかっただけましだと思いたい。

「ふっざけんじゃないわよ!!」

怒号だった。

少年を保護していた朔や、何故か話し込んでいた雪鶴と萌黄も、驚いて氷美を見る。

零にいたってはその場に正座をしてしまった。

「あの問いの意味はちゃんと理解したわよ? 自分は氷美を守れなかったかもしれない的なこと考えてたんでしょう!? ばっかじゃないの!? 現実見たら現実! リアル! いっつも守ってもらってるのに、そんなこと考えないでよ! 私の立場なくなるでしょ!? 私が日本刀持ち始めたのだってねぇ、守られてばっかじゃ申し訳なかったからよ! 守られてるだけのお姫様なんて性に合わないわ。もうちょっと自惚れてみなさいよ! あんたそういう面で変に謙虚なのよ! なんなのよ! 謝るなとか言ったのあんたでしょ!? だから、私は謝らない代わりに今度は絶対私があんたを守るって決めてんのよ!? それなのに・・・それなのに、どうしろっていうのよ! 守られた恩は絶対返してやるから覚悟しなさい。私はそんなこと考えないでかっこよくあんたを守ってあげるわ!」

・・・もう、怒りなのか何なのかわからなかった。

零は終始目を見張って聞いていた。驚いた。あの口を開きかけたとき、ボスが邪魔をしなかったらあの場でこれを喋られていたのか。

氷美は肩で大きく息をしている。

「・・・何笑ってんのっ!?」

氷美に指摘されて零は自分で笑っていることに気がついた。全然わからずにいた。

「や、ごめん氷美。・・・ありがとう」

零は戦いの時見せた笑顔とは違う、本当に幸せそうな笑顔を見せた。

氷美も毒気を抜かれて口を無意味に開閉してしまう。

「そうだな。少しぐらい自惚れてもいいか・・・」

「す、少しぐらいね! ・・・てか、何で正座してるのよ! ほら、立って」

へへへ、と零は薄気味悪く笑いながら立たされた。顔がにやけてしょうがない。

「・・・えーっと、お二人さん」

申し訳なさそうに、朔から声がかかった。朔は窓から外を見ている。

「夜が明けそうだ。零君は血だらけだし、ここは放置してもいいだろうからとにかく帰ろう」

理性が戻った零は改めて自分の姿を見て悲鳴を上げた。

普通の服だったため、血に塗れているのがとてもわかりやすい。氷美が紅い着物を着用しているのがわかった気がした。

「少年は、とりあえず萌黄の薬を飲ませようと思ってる。・・・あぁ、死ぬ奴じゃないよ!? 精神安定剤みたいな奴ね」

なにしろ、あの地獄絵図を間近で見ていたのだ。まだ12歳の少年にはきついだろう。

朔のとなりにいる少年は、零を無言で見上げて頷いた。

「萌黄は記憶を少しなくす薬も持っているそうだが、少年がそれを拒否した。忘れたくないんだって」

「・・・そっか。ごめんな、少年」

「・・・別に、いいです。ありがとうございました」

零が謝ると、少年は無愛想ながらも礼を言った。

ある意味良くない結末で、少年もみのりも救われたからだ。

「じゃあ、帰ろうか」


これにて、氷美救出作戦兼十代暴力団関係者惨殺事件・・・ではなく、壊滅作戦は終了したのだった。




一応事件解決………

後日談があります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ