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狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
零の仕事
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<零の仕事>9

零くんが本気出します! ちょっとグロス注意!


零の言葉に、誰もが目を見張った。

「零!?」

「零君!? 何を・・・!」

後ろから聞こえる、制止を含んだ萌黄と朔の声。

だけどもう、零の耳にそれが届くことはなかった。

いや、届いてはいるが、もう理性は決壊寸前。氷美が許しを出せば、零は感情のままに動くことになる。

怒っている状態でそれというのはかなり危険だった。何をしでかすかわからない。

しかし、今の零は怒っていると自分で言ったもののあまり怒ったような様子は見られなかった。正直に言うといつも通りだ。

ただ、氷美のためを思ってずっと殺さずに仕事をこなしてきた零が、氷美に確認をとった。

それは本当に、躊躇なく、人を、殺すということ。

あたりが混乱でざわめき始めた頃、凛とした声が、零の耳に届く。


「いいわ。私はもう、大丈夫だから」


「氷美・・・」

誰かが、恐らく朔あたりが呆然と氷美の名を呼んだ。

それは結構意外な返事。もう零を止めることができるのは氷美だけだったのに。

でも、あまり落胆だったり恐怖だったり焦りだったりなどの感情は湧いてこなかった。

恐らくこうなるだろうと、わかっていた。

この場にいる、ほとんどの人が。

「さんきゅ、氷美」

零が、また笑って氷美に礼を言った。

そして、うつむく。ゆっくりと、零の口元が笑みに染まっていく。

今の状態を楽しむように、大きく腕を広げた。

手を一度閉じて、もう一度勢いよく開いて。

キュルルルルーーーそんな音がして、鋼糸が辺りに広がった。だけど、その鋼糸は見ることができない。

たとえ、体に触れたとしても。

「氷美、それでも怖かったら、ちゃんと目を瞑れよ?」

そういう零の言葉はやっぱり笑みを含んでいて、意図は読めない。

だけど、『月夜』のメンバーは、何をするかだいたいわかっていた。

悪夢の光景。だけど、止めることはできない。

朔でさえ、足が動かなかった。

一歩動いただけで、死ぬかもしれない。こんな恐怖は久しぶりだ。

一瞬にして、立場が変わってしまったのだ。

お願いだから、まだメンバーのことを認識できるぐらいの理性は残っていて欲しい。

零はそんなメンバーの考えなど露も知らず、鋼糸を辺りにばらまいていた。

「じゃ、行きまーす」

悪夢を始めようとする合図でさえも軽いもので、これから行うこともぜんぜんたいしたことじゃないのではないかなんて錯覚を起こす。

しかし零は、一度怒ると容赦しない。

常人の容赦しないとはまた別だ。

零はやっと顔を上げて、氷美に向かって笑顔を見せた。

氷美も疑問に思いつつ、つい笑い返す。

零は今まで広げていた手、腕を、思いっきり、自分を覆うようにして、閉じた。

ーーーーー零の鋼糸は、装備している手袋の手首の部分についていた。左右あわせて2本だが、それを指にうまく絡ませて操ることで何本もの役割を果たす。

そしてその鋼糸は、はかったことはないが恐らく左右それぞれ10メートルぐらいある。周りの暴力団どもの多くにふれているだろう。

さらに、鋼糸の利点は細くて見えないこと、たまには骨まで切断できること、ふれてもあまり気付かないこと、など。

何が言いたいのかというと、零がばらまいた鋼糸は、気付かれることなく周りの暴力団に触れており、今その鋼糸を素早く、まっすぐ、触れている状態のまま、自分の元に引き寄せたということ。


結果的に、首や腕、足、胴など身体のあちこちが、切断された。


血のにおいが部屋に充満し、そこはまさに地獄絵図。

氷美は迷うことなく目を閉じた。体が小刻みに震えているのを感じる。

朔はその場に硬直した。萌黄ですら、口元を覆った。嘔吐するのを必死に堪えているようにも見えた。

その地獄絵図の中心で、零は笑みを浮かべていた。

何があっても崩れることのない、鉄壁の微笑。

周りでのたうち回る人。紅く染まった自分。そんなことは何も気にせずに。

零は手をおろし、一歩足を進めた。

「ーーーなぁ、少年」

相変わらず優しい声で、自分の後ろにいた少年に声をかける。

少年は言葉もなく、ただひたすら吐き気と戦っていた。大きく深呼吸しようとするも、血のにおいが入り逆効果になる。

「ごめんな。つらいもの見せちまった」

零は振り向かないで話を続ける。

何人と数えられないほどの人を切断したにも関わらず、表情豊かに苦笑など浮かべていた。

鋼糸に付いた血を拭い、もう一度行うための準備をしている。

少年だけじゃなく、『月夜』でさえも言葉をなくした。

もう誰も、今の光景を見せつけられて戦う気力などないというのに。

零の怒りは、収まっていない。

「少年さ、みのりちゃんを守るために、ここに来たんだろ?」

零は同じ動作を繰り返した。

またキュルルルルーーーと音がする。鋼糸がばらまかれた。

止める間もなかった。もう一度、鋼糸が引き寄せられ、切断される。

「そんなの駄目だよ。守るためなら、何もしないでおくのが一番いいんじゃないかって最近思うんだ」

鋼糸を丁寧に丁寧に拭う。申し訳程度についている蛍光灯の光が反射して、鈍く光った。

もう一歩零は進んで、振り返った。

震えている少年に向かって、邪気のない、明るい、でも少し悲しそうな笑顔を見せた。


「じゃないと、俺みたいに、後戻りできなくなるからさ」


この鋼糸を持ったのは、氷美を、助けるためだったな。


「人を平気で、殺すようにもなっちまうから」


家が特殊だったのもあるけど、氷美が日本刀を、雪鶴を持つようになったのは。


「それが普通になると、危険なんだぜ?」


昔の記憶。人を殺すことがどういうことかよくわかってなかった自分。


「まぁ、見ればわかると思うけど・・・」


麗音や朔には言わなかったけれど、どこか、鋼糸を持って行う仕事を遊び感覚で捕らえていた。


「お前には、こうなって欲しくないよ。少年」


そして、氷美に『一緒に遊ばないか?』何て言って。


「なぁ、少年ーーー」


守るなんて、嘘っぱちじゃないか。




ちょっとだけ過去の話も関わってきますね

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