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狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
零の仕事
37/47

<零の仕事>5

「零君」

朝になると、朔に真剣な声音で名を呼ばれた。

最近はあまりこういう朔を見たことがないので、どきりとする。

「今日の仕事は、君も行くことになるだろうから」

「え」

あまりにも唐突なことだった。理解が遅れて返事に詰まった。

「嫌かい?」

「・・・!」

ぶんぶんと首を振って否定する。少し首が痛くなったが気にしないことにした。

「でも、何で俺・・・?」

聞くと、朔は薄く笑った。

「今回の奴はちょっと規模がでかくてね・・・」

聞いたところによると、昨日、一昨日の仕事でターゲットにしていたやつの『頭』が出てきたらしい。

意外と大きなグループになっていて、人数は多い方がいいそうだ。

「じゃ、総出ですか」

「うーん・・・たぶん」

久しぶりの総出にわくわくする。総出とは、『月夜』の中の何人かで挑むのではなく、グループ全員で戦いに行くことだ。

武術の朔、日本刀使いの氷美、鋼糸使いの零、麻薬の製造者である萌黄、データ解析を得意とする鴉。

ちゃんとした役割分担などではないが、互いの信頼関係はある。

総出は負けの兆候が見られたことがない。

「まぁ、相手の本拠地に行くのは夕方の5時だから。それまでは自由ってことで」

朔はそれだけ言うと、真面目な表情を崩さずに部屋を出ようとする。

「あ、ちなみに、どんな相手なんですか?」

零が聞くと、嫌そうに顔をしかめて朔が答えた。

「10代の暴力団みたいな奴らだ」


手持ちぶたさに鋼糸をいじる。

ぼーっとしているが、指を切ったりはしない。一応プロだから。

暴力団。

零はさっきからそのことを考えていた。

『月夜』は小さなものはあまり標的としない。つまり、その暴力団はかなり大きなものだということだ。

いままでにも何度か暴力団を相手にしたことはあるが、それはもう三十路にもなる大人や二十代だけど中身は子供みたいな奴らばかりだった。十代というのは初めてである。

零はただいま17歳。

同い年の奴もいるというわけだ。

楽しめそうな内容に零は思わず口元をほころばせた。

不謹慎だと自覚してはいるが、零は戦うことが好きになっている。思わず笑ってしまう。あまり度が過ぎると、普通の殺人鬼になり果ててしまうから自重してはいるが。

と、突然ばたばたと騒がしい音が聞こえてきた。

ぼろアパートの共用廊下で騒いでいる声も聞こえる。

耳を澄ますと、それは朔と萌黄の声らしいとわかった。

「・・・・・・・・!」

「・・・! ・・・・・・!?」

会話がよく聞こえない。

だが、朔が異様に慌てているようだ。

「どうしたんすか」

ドアを開けて顔を出すと、取り乱した朔と怪訝そうな顔をした萌黄がいた。

「あぁ、零! ・・・その、このバカがなにかよくわからないことを言っていてね・・・」

萌黄が呆れたように言う。

「違うんだって! 本当に、12歳ぐらいの少年に言われたんだ!」

話がつかめず零は困惑していたが、朔の次の一言で目を見張った。


「『氷美っていう奴は、うちのグループの手の内にある』って!」


「だから、そんなことがあるわけないでしょう!? 私の氷美が簡単に捕まるとでも思っているわけ!?」

萌黄が言うと、朔は困ったような顔をしつつしっかり言い返す。

「信じてくれよ! このあたりには、それこそ10代の暴力団がいるし、それに捕まった可能性だってあるだろう? 氷美はいくら日本刀が使えるからといって女子なんだから!」

「そんなことはわかりきっているわよ!」

零は部屋の中をのぞき込んだ。雪鶴は壁に立てかけてあり、氷美が捕まった可能性は高いとわかる。

「朔さん、さっき・・・」

「っどうして僕の言うことは信じないんだよ萌黄! こうやって騒いでる暇はないんだぞ!?」

「あなたは慌てすぎだと言ってるのよ! 信じられるわけがないでしょう!」

零は朔にあることを聞こうと思ったのだが、二人はまだ騒いでおり零の声がかき消されてしまった。

腹が立ってくる。

自分は、もしかしたら大きなことを知っているかもしれないのに。

「ーーーーーーーあぁーーっ、もう!」

思わず叫ぶ。

「萌黄! 朔さん! 静かにしてください!」

っていうか、

「静かにしろおおおおおおおおおお!!!!!!!」

どこまでも届くように叫んだ。目を開けると、朔も萌黄も耳をふさいでいる。

「ど、どうしたんだい零君」

「突然大きな声を出して・・・なんだっていうのよ?」

さっぱり訳の分からないという顔をして聞かれて、ちょっとイラっとした。

だけどここで怒っては話が進まない。

深呼吸をして、怒りを静めた。

「朔さん」

さっき、朔は12歳ぐらいの少年と言った。

嫌な予感だが、その少年は、もしかしたら。

氷美が昨日いった、危ないことの一つに暴力団もある。

ただの気のせいですめばいいが。

「その、氷美のことを言ってた少年のこと、教えてください」

そんなことをしたって、何の助けにもならないのに。


ひとまず部屋に戻り、朔の話を聞くことにした。

「教えてと言われても・・・ただ聞いただけだし」

朔が困ったように言う。

「じゃあ、容姿とか」

「覚えてない」

役に立たないと零は露骨に舌打ちをした。

「なんか言ってなかったんですか? 本当に?」

「・・・零君のことを聞かれたような」

「え」

「いや、本当かはわからないよ? 取り乱しちゃってあんまり覚えてないし」

てへっと舌を出す朔。これは切れてもいいだろう。

「でも、『零って人を知ってますか』って聞かれた・・・・・・気がする」

気がするというのが非常に不安だが、それだったら零の予感が当たるかもしれない。

「でも、10代ということは例の暴力団の一人かもしれないわね」

黙っていた萌黄が自分の考えを口に出す。

暴力団側からすれば、『月夜』は仕事をじゃまする嫌な奴ということだ。

氷美を人質に取り、脅すつもりかもしれない。

「でも、そうだとすると簡単でいいですね」

零が言うと、二人はそろって首を傾げた。

「今日の仕事で氷美を取り戻せるし、暴力団をつぶすこともできるじゃないですか」

というわけで。


「行きますか、仕事」




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