Ⅴ.心②~麗音side~
少し話題が暗いような…
夜。
麗音は癖で鋼糸をもてあそんでいた。
氷美ちゃんの暴走の理由はわかる。
わかるというか、わかった。
人間体になった雪鶴は何も喋らなかったが、うすうす気付いていてもおかしくはないと思う。
自分の中に、――――がいる、と。
そいつは、とてつもない馬鹿だ。
自分が何をやっているか、わかっているのか?
ふと。
「…いらっしゃい。」
物音はしなかったけれど、来たのがわかった。
そいつが、来たんだ。
『わかったんだ…』
そいつは喋る。
意外そうに、当たり前というように。
「普通じゃない?」
『あんたはすごいよ…。』
そいつは疲れたように麗音の隣に座った。
『なんでもわかっちゃうんだ。昔から…。』
思い出すような声。
そいつは、ため息をついた。
「…いい加減にしたらどう?」
麗音はそう切り出す。
そいつの肩が揺れたのがわかった。
「心配なのはわかるけれど…過保護すぎるわ。」
『…過保護だって!?』
そう叫んだ声は、湿り気が見え隠れしている。
わかっている。
そいつの、気持ちも。
そいつの、行動の動機も。
そいつの、宝物のことも。
そいつの、宝物を守りたいと思う気持ちも…
わかってる。
『麗音は私のことわかってないよ!過保護なんかじゃない、ただ…』
わかってるよ。
『守りたいだけだ!』
うん、わかる。
『ずっと傍にいたいんだ!』
うん、わかってる。
『ちゃんと、守ってやれなかったから…!』
うん、うん…
『今度こそ、ちゃんと、傷つかないように…!』
うん、わかってるよ。
『大切に、守っていきたいんだ…!』
わかってる…。
『だから、』
「だけど、それはほんとに、氷美のためになるの?」
『な、なるよ!なってるよ!大きな怪我も負わないで、生きてるじゃん!』
ごめんね。
私今から…、ひどいこと、言うから。
「あなたは何を見てきたの?」
「自分の娘の、何を見てきたの?」
「あなたのせいであの子は苦しんでいたわ。」
「月夜を辞めようかとも思っていたのよ?」
「暴走している自分が嫌いだったのよ?」
「自分を嫌いになるってどれだけ嫌かわかっているの?」
「…それをふまえて、あなたはあの子を守っているって言えるの?」
わかってる。
わかってるよ、氷奈。
あなたの行動がすべて、氷美のためだって事。
でも、あなたの行動は、氷美を苦しめている事。
わかってるよ、氷奈。
あなたは…………本当に、わかっているの?