*雪鶴語り〔過去③〕*
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「…記憶を、失った…?」
麗音のぼんやりした声が、やけに大きく響いた。
誰も一言も発することができずにいたからかもしれない。
「そうだ。あまりにも、キツイ光景だったからな。」
弓弦の苦々しい声。
麗音はキッと顔を上げて立ち上がり、弓弦の頬を張り飛ばした。
いい音がした。
「な、…お前…」
弓弦が呆然とする。
弓弦はこれでも、月夜のリーダーだ。
麗音はそれの部下らしき存在であり、弓弦も張り飛ばされたことなんてなかった。
でも、それはただの言い訳になる。
「何普通に言ってんのよ!あんたがもうちょっと早くあの屋敷に来ていたら、誰も死ななくても、氷美だってさらわれなくてもすんでいたじゃない!キツイ光景にさせたのも、あんたが遅れてきたからでしょ!?全部、あんたのせいだわ!!」
メチャクチャにまくしたてられた言葉に、弓弦は反論しなかった。
勢いできたもう一発の平手も、避けなかった。
自分に、それを受けなければいけない責任があったから。
「…悪かった。」
その一言で、麗音には十分だった。
麗音はその場にくずおれる。
わかっている。
すべての責任が弓弦にあるわけではないのだと。
弓弦だって、好きでそうやった訳じゃない。
弓弦だって、麗音のように周りに当たってこの気持ちをまき散らしたかった。
平和な日々は、いつまでも続くものじゃないのだと。
この光景が、物語っていた。
「…おれ、さがしにいく。」
また静まりかえった中で、零は呟くように言った。
幼い心で、決意したあのことを、守れなかった。
『ひみをまもるんだ!』
悔しさ。零の感情はそれ一つ。
自分の非力さに腹が立つ。
「零…」
朔がためらいがちに声をかけた。
「さくにいちゃん、とめないでよ。」
「…止めるに決まってるだろう!」
「だめなんだ!」
零は自分に言うように叫んだ。
「だめなんだ。ここでおれがいかないと、おれはいっしょうひみをまもれなくなる。…そんな、気がする。」
弓弦がふっと笑う気配がする。
なんか馬鹿にされた気がして、零は弓弦を正面から見た。
目が合う。
「おれは、なにをいわれてもいくからな。」
宣言した。
「ふむ。譲る気はなさそうだな。」
弓弦は腕を組み、面白そうに零を見た。
そして、朔に呼びかける。
「よし、朔!」
「…はい?」
「お前、今から月夜のリーダーな。」
間。
「――――――はぁっ!?」
「うるせーな。零がやるって言ってんだ。零は月夜の鋼糸使いになる。」
「な、でも…!」
「でもじゃねーの。こいつが氷美を守る手だてはそれしかねぇ。」
「教える人は…!」
「私。」
麗音の落ち着き払った声。
だいぶ落ち着いたのだろうか。
「でしょ?弓弦。」
「当たり前だ。」
どんどん進んでいく新・月夜の話に、朔は慌てた。
「あ、当たり前って…そんな、すぐ覚えられる訳じゃないんだし…!」
「大丈夫だろ。零は手先が器用だし、もちろん俺たちだってついてくさ。」
弓弦がにっと笑う。
朔の背を冷や汗がつたった。
―――――月夜…大丈夫なんだろうかこんな調子で…
零がたたっと駆けてきて、弓弦の服の裾を引っ張る。
「ゆづるおじさん!!」
「お?」
「ゆづるおじさんっていいやつだな!」
「…あー、まあ、な。」
歯切れの悪い声に、朔は笑いをこらえるのが精一杯だった。
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ちなみに、雪鶴は氷美と一緒にいますので。