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狐の面は月見て笑う  作者: 衣桜 ふゆ
『氷』たちの紅
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*雪鶴語り〔過去②〕*

少し残酷っぽい表現がありますので、注意してください(>_<)

麗音が、息子の零と一緒に長期休みをもらって旅行に行っていた間にその出来事が起きた。

姫宮が、氷奈とかくれんぼをしていて隠れた場所で眠っていたときにその出来事が起きた。

朔が、弓弦の元に行こうと思って家に向かっているときにその出来事が起きた。

氷奈が、いい加減かくれんぼをしている姫宮に降参しようと思っていたときにその出来事が起きた。


誰も、予測しなかった出来事だった。


…姫宮がふっと目を開けると、あたりにはある色が広がっていた。

左右どちらにも、その色があって。

姫宮は何が起きたかわからなかった。

「…あかい、いろ…」

赤とはまた違う、少し色が濃くなったような色だった。

呼び方は同じだけれど、何か違う。

これに似ている色は、なんだろう。

考えた姫宮は、自分の頬を流れている液体に手を触れた。

そう、この色だ。


血の色の、紅。


…朔は、その光景に瞠目した。

真っ白で綺麗だと思っていた屋敷。

いつも姫宮の声が聞こえてきた明るい屋敷。

今はしんとして、ほのかに紅く染まっているところがある。

なんだろう、これは。

この光景は。

朔はふらふらとよろけるようにして屋敷に入った。

鉄のにおいが鼻をさす。

視界に映るのは、紅の色。

それを見て理解した朔は、声にならない叫びをあげた。

嘘だ。

どうして。

どうして―――――――――――――――――――――――――


どうして、氷奈が紅く染まっているのか。


…氷奈の身体に、もう感覚はなかった。

後ろから唐突に訪れた鋭い痛みに、氷奈は声を上げることさえかなわなかった。

神経が傷ついたのか、動くこともできない。

意識はまだある。

考えるのは、自分の娘のこと。

氷美は、無事だっただろうか。

隠れたままなら、大丈夫だと思うのだが。

なにしろ、子供は妙に聡いところがあるから。

氷奈はそっと微笑んだが、顔の筋肉も動かない。

微笑んだのを見たものは、誰もいないだろう。

襲ってきたのは、月夜の獲物だった人達だろうか。

どうやって調べたのか知らないが、月夜のメンバーがここに集まる。

そのことを知って、襲いに来たのだろう。

馬鹿だな、と思う。

そんなことをするぐらいなら、不浄の金を使わなきゃいいだけの話なのに。

「ちっ、こいつ綺麗な顔だったのによぉ…」

やけに悔しそうな声が聞こえる。

うん、怒ったよ?

あんたたちのグループがやったんだろう?

なのにそこで悔しがるとか馬鹿の極みだね?

「だから最後は、俺がやってやるよ。」

悔しがっていたそいつは、大きな斧を取り出した。

ぶん、と風が唸る音が聞こえ。


氷奈は、意識をなくした。


…麗音は、自分の目が疲れているんだと思った。

いや、思いたかった。

親友の顔はもう見えない。

こんなことになるなら、旅行なんて行くべきじゃなかった。

無理矢理にでも誘えば良かった。

零が呆然とその場に座り込む。

いくら幼いとはいえ、4歳だ。

何が起きたかぐらいはわかってしまったのだろう。

麗音は、泣いた。

ただ、泣いた。

他にどうしろと言うんだ。

今までずっと、麗音は泣かなかった。

足を骨折したときだって、泣かなかった。

特に氷奈の前では、泣こうとしなかった。

なぜか意地を張って、絶対に泣くものかとずっと我慢してきた涙が、今あふれ出してきたかのように。

「っ……ひなぁ…っ…ひなぁ…!」

ただ繰り返し、氷奈の名を呼んで。


麗音は、氷奈の亡骸を抱きしめた。


朔、麗音、零の3人は、氷奈の有様を見て言葉をなくした。

ふと周りを見渡した朔は、一人いないことに気付く。

「…氷美は…?」

「…いな、かった。」

朔の問いかけに、零が泣きそうな声で答えた。

「おれ、さがしたんだ。でも…いなかった。どこにも…」

「…零…」

氷美はまだ3歳だ。

見逃してくれたというのならば、不幸中の幸い。

でも、零はいないという。

氷美は、どこに行ったのだろう。

「…麗音さん、兄さんがどこにいるか、わかりますか。」

「…弓弦…?」

麗音の声は頼りない。

親友が死んだのだ、無理もない。

ショックから立ち直るのは、そう簡単なものでもない。

「俺を探してんのか?朔。」

「…兄さん。」

後ろから唐突に現れた弓弦に、朔はいらつきを覚えた。

「氷奈が亡くなったというのに、なんでそう平気でいられるんだ!!」

思いのままに叫ぶと、弓弦に思いっきりシバかれた。

「だっ」

「馬鹿者。麗音がいる前でそれを言うか?」

はっとして麗音の顔を伺うと、大丈夫、というように微笑まれた。

嘘だと言うことは誰が見てもわかる。

「…すいません。」

「俺だって平気じゃねぇんだよ。」

どうやらものすごく失礼な物言いをしたようだ。

「で、氷美だがな。」

「…はい。」

弓弦が真面目な顔になる。

零も麗音も朔も、緊張の面持ちで聞いた。

「氷美は、連れて行かれた。」

最悪の事態。

「そういう顔すんな。氷奈は雪鶴に氷美を任せたみたいだからな。いざとなったら雪鶴が守るさ。」

「でもっ…!」

「待て。重要なのはこっちじゃない。」

声を上げかけた朔を、険しい顔で弓弦が制した。

さらに嫌なことがあるというのか。


「氷美は、記憶をなくした。」



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